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第18回3000字小説バトル Entry1
「え〜と。だいたいこれで全部かな?」
黒板を振り返り、5年B組担任教師山田一郎は列挙されたタイトル群を見回した。
生徒たちが思い思いに挙げたのは半月後の卒業生壮行会でクラスがやる演劇のタイトル
だ。
「しかしずいぶん出たなぁ」
総数26個。生徒40人のクラスだから半数以上の生徒が案を出したことになる。
「ん?これはなんだ?」
白雪姫(よくある)、シンデレラ(まあ定番)、アンパンマン(………)と見慣れたものに混じって幾つか内容がわからないものがあった。
「『ギ○ンの野望』?誰のだ。コレ」
「はい!」
「おお、クラス委員長の安室か。これはどういう話なんだ?」
「よくぞ聞いてくれました。それは言うなれば男のロマン。たとえるならば人類の夢!」
「…で?」
「時は宇宙世紀…
30分後
…でして、ギ○ンは…ギ○ンが…ギ○ンに…」
「わ、わかった。もういいから。な?」
延々と続く語りにクラス全員げんなりとする中、山田一郎が疲れ果てた顔で制する。
「え?まだ話はこれから、あっ、な、何をするおまえら。ギ○ンは…ギ○…ぎゃぁぁぁ…」
ブチ切れた前後左右のクラスメイトに連れ去られた廊下からの声が途絶える。と、
「で、次は『バ○ルロ○イアル』?」
「はい!」
立ち上がったのはクラスきっての武闘派、佐田家国光だ。
「俺たち全員で戦うんス!喧嘩ッス!勝負ッス!命かけるッス」
「ちょ、ちょっと待て!それは本当に演劇なのか!?」
「勿論ッス。筋書きのないドラマッス!俺は必ず生き残るッス」
「生き残るっておまえ…」
あちこちから上がるブーイングに「ヒーローはいつも孤独なのさ」などとワケのわからない返事を返して着席する佐田家をとりあえず無視することにして、
「ゴホンッ。次は…おっ『必殺仕事人!』これは誰だ?」
「ふっ。先生よぅ。仕事人っと言やぁ、あっしの他に誰がいましょうや」
「中村…その変な日本語やめろ」
「今回の仕事はいたいけなる民草(自分たちのことらしい)に、宿題なんてヤボを押し付ける。山田一郎ってケチな教師野郎の始末さね」
「あとで職員室に来るように…」
「マジ!?」
すっこける中村は後で始末することにして、
「あとは…結構あるなぁ。この『ベルサイ○の薔薇』って何だ?」
「よくぞ聞いてくれましたわ!」
「副委員の蝶野か…」
クリクリにカールされた金髪と小学生ばなれしたスタイルの女生徒に内心辟易する山田一郎に蝶野は「オホホホ」と優雅に笑む。
「フランス革命を舞台にした、男装の麗人オスカ○の美しくもはかない物語ですわ」
「そ、それはちょっと小学生の演劇には向かな」
「勿論!オ○カルはこの私。そして」
チラと流し目を送る先はクラスきっての美少年。安藤竜一だ。蛇に睨まれた蛙のように色をなくす安藤に同情の視線が集まった。
「ま、まぁ。それは決まったらってことで。なぁ?みんな」
さすがに哀れになって言うと全員(蝶野以外)首肯する。特に安藤は狂ったように首を縦に振りまくっていた。
「さて、と。『バーサス』?」
「俺ッス!」
「次は、と」
「なんで!!」
佐田家の抗議は無視し、
「『リングに○けろ』………おまえら実は演劇をやる気ないだろ?」
「そんなことないです!」
「いや、だってこれは無理だろう」
まっさきに立ち上がったのはショートカットの似合う活発そうな女生徒だ。
「どうして『リンかけ』がダメだって決めつけるんですか?どうして人間にギャラクティカ○グナムは打てないって決めつけるんですか!?人間の可能性は無限だって言葉は嘘なんですか?校長先生は嘘ツキなんですか!?」
(校長?)
そういえば先日の朝礼で校長がそんな話をしていたような。はっきりいって頭が痛い話ではあるがとりあえず、
「長嶺」
「はい?」
「これはおまえだな?」
「てへ(はあと)」
ツっこんでおくことにした。
「まったく。そろそろ決取るぞ」
「「「なんで!!」」」
いい加減面倒臭くなってきたので残りは無視することにした。
結果。
「結局『シンデレラ』に決まったか」
内心胸を撫で下ろし、3票差とやばいくらい僅差だった『北○の拳』の名前に冷汗が頬を伝い落ちる。
「なんで『リンかけ』の良さがわからないのよ!?」
「嗚呼、安藤君…運命はこんなにも残酷に私たちを引き裂くのね」
「ジークジオ…あぁ、やめてぇ〜」
「チッ。折角合法的に復讐する好機だったってのによ。てやんでぇバーロー」
「何故だ!手前らそれでも男かぁ!!その拳は飾り物かぁ!!ッス」
本人以外の得票がなかった生徒たちが口々に不満を漏らすのをため息まじりに見回し、
「はい!そこまで!!」
生徒名簿で教卓を叩き鳴らして黙らせ黒板上の時計を指差す。同時に長針がカチリと動き、終業のチャイムが鳴り響いた。生徒達の顔に先ほどまでとは違った笑顔が浮かびだす。
「帰りの会を始めるぞ〜。」
とにもかくにも、まともに済みそうな題目にホクホク顔で日直に場所を譲る。だが、三日後の配役決定会で彼は再び仰天するハメになるのだった。
「おまえらねぇ…」
ちゃんちゃん♪
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