第91回3000字小説バトル

エントリ 作品 作者 文字数
1両眼人形使いと逃走だい!蒼ノ下雷太郎1583
2蚊取りの香葉月瞬2956
3姐様、お手をごんぱち3000



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エントリ1 両眼人形使いと逃走だい! 蒼ノ下雷太郎


 深夜の誰もいない道路を歩いていると、目の前には不気味が奴が立っていた。
 身長が高い男だった。
 髪はぼさぼさで、髭はもじゃもじゃで、服はボロボロ。
 まるで浮浪者のようにしか見えないのに、生意気にもそいつは両手で大事そうに人形を抱きしめていた。
 もし、こいつが噂の奴だとしたら、聞いたことがある。
 最近この辺りで有名な都市伝説の妖怪だ。
 この辺りで有名なのは、両眼なし小僧や、眼球倶楽部、目目目などがいるが、その中にいる奴等とは違い、比較的最近産まれた都市伝説である。
 奴の名前は、両眼人形使い。
 案の定、奴が持つ人形には両眼が無かった。
 人形は精巧に出来たフランス人形のようで、持ち主は、ぼさぼさ、もじゃもじゃ、ボロボロだというにも、そいつだけは生意気にも、新品のように綺麗だった。
 奴の名前を、もう一度言おう。
 両眼人形使い。
 まるで意味が分からないが、単純明快、奴が持つ人形は両眼がないのだ。
 
 何でも夜道を一人で歩いていると、浮浪者のような男が現れて、何だ何だと思って見てみると、不思議にも浮浪者のくせに、人形を持っているではないか、何でだろうと不思議に思って、余計に凝視すると。
「何、お前、こいつの両眼なのか?」
 と言って、奴を見つめていた双眸を盗られるというのだ。
 恐ろしい、恐ろしい。
 両眼をむしり取るなんて、ひどい妖怪なのだろうか。
 両眼は世界と自分を繋ぎとめる大事な部品で、それをなくしたら、我々は一体どうやってこの世界に留まればいいというのだ。
 俺は怒って奴に言ってやった。

「やい、お前。今まで盗ってきた眼球を返しやがれ」

 俺が責任持って、持ち主に返してやるからと言った。
 だが、一向に両眼人形使いは反応しない。
 おい、こら、てめっ、聞いてないのか。
 何度俺が声を掛けても、奴は反応しなかった。
 何て生意気な小僧なのだろうか。
 あまりにもむかついたので、俺は奴に蹴りを入れてやった。蹴って蹴って蹴りまくって、最後には足払いして、奴を倒してやると、流石にあいつもそれにはキレたのか、怒り狂って、俺に向かって来た。

「人形が傷付いたら、どうする!」

 と、カンカンのカンカンじじいと化した。
 おおっ、怖い怖いと、俺は車のない道路を走り、あいつをバカにしながら、奇妙な逃走劇を繰り広げた。
 走りには自信があったが、二時間ほど経ってもあいつは疲れる気配がなく、おいおいおいおい、いくらなんでも体力ありすぎじゃないか? と、俺を焦らせた。
 深夜四時を過ぎようとした頃だろうか。
 流石にもう夜が明けてしまうので。

「待て、降参だ。お前も夜が明ければ困るだろう」

 と、足を止めて、両眼人形使いに降参をした。そして同時に、奴に見逃してくれと要求。
 だが、奴は何時間走っても、カンカンじじいのままで。

「許さない! お前の両眼をむしり取ってやる!」

 と怒りだしたのだ。
 これまた愉快なことを言い出したこと。
 それから数分ぐらい放置してやったが、何も出来なかったようなので、両眼人形使いに聞いた。

「眼球盗れた?」

「……」

 無言の両眼眼球使い。ほら見ろ、俺の眼球を盗るなんざ十年早いんでい。
 いくつか罵声を浴びせて、俺は奴の元から去って行った。
 これだから、新入りは困る。
 俺ら都市伝説の妖怪は噂だからこそ存在出来るのであって、噂が現実になってしまえば、俺らはただの変質者に過ぎないのだ。
 都市伝説は所詮都市伝説。
 空想の世界から抜け出しちゃいけないのさ。
 それを人は、呼び方は変えても、怪と言うのだろう。ふふっ、妙にかっこいいことを俺は言ってしまったぜ。
 さて、さっさと戻るとするか。
 何処に?
 決まっている、誰もいない空想の世界さ。

 そして、俺は日が昇る前に消えていった。

 朝日が昇るのが早くなった六月の六日。
 両眼人形使いと、両眼なし小僧が繰り広げた逃走劇の結果である。









  エントリ2 蚊取りの香 葉月瞬


 蚊にとって生と死を分ける季節がやってきた。
 人間は、何かと蚊のことを眼の敵にする。何をどうしたということも無い。ただ、蚊にとって生きていく為に必要な糧を得ているだけだ。ただそれだけなのに、人間達は蚊を毛嫌いする。何故か。それは、蚊に血を吸われると蚊が分泌する、吸血を容易にさせる様々な生理活性物質を含む分泌液が人間の抗体と反応して痒みを伴うからであろう。痒みは人間にとって不快な生理現象である。その不快な生理現象を起させた張本虫に対して敵愾心を抱くのも当然といえば当然であろう。いわばこれは、蚊と人間との戦争なのだ。
 戦いに敗れた蚊は死ぬか、例え生き残れたとしても半死半生だったりする。蚊の百倍は身体が大きい人間に勝てる見込みなど、端から微々足るものなのである。戦争とはいえ、蚊にとってのそれはただの虐殺でしかない。しかも、当の人間は呵責の念など微塵も感じていないのだ。
 蚊は大体、十四日で成虫になる。
 つまり、蚊にとって一分、いや一秒が生きるための戦いなのだ。まず、生まれるために水溜りが必要だ。その水溜りに卵を産み付ける。雨が降った後などは無性に卵を産み付けたくなるのだ。何が何でも産み付けなければならぬと、強迫観念に駆られる。それを本能だと人は言う。だが、蚊にしてみれば甘い情事の果ての行為なのだ。その果てに、卵を産み付ける。蚊にとってのこれは産みの苦しみであり、愛情の始まりであり、種を保存するための生理現象である。母親というものはこうして一つの役目を終えていくのだ。
 やがて子供達は、嫌が応にも巣立っていく。蚊は風に弱い。少し風が吹いただけでも目を回す。だから、空気の動きに敏感で、比較的風が穏やかな七月、八月に巣立つのだ。
 巣立っていった子供達は、本能のままに生きていく。やがて糧を得るためには人間の傍に群がるほうが効率がよい事を知る。この世界には自然界の生き物よりも、人間の方が多く分布しているからだ。蚊は自然界の生き物の体液を吸って生きている。だが近年、獲物の方が少数になってきているので、より多く分布している人間を獲物として狙ったほうが効率が良いのだ。そして、彼らは命を懸けて糧を得る事を知る。その難しさも。人間だとて、自己防衛のためには手段を選んではいられない。日本脳炎やナイル熱などにかかっては生死を分けるからだ。

 今、一人の人間がいる。その周囲には、彼を取り囲むように蚊達が取り巻いている。彼の体液を狙っているのだ。人間達の間では血液と呼ばれているそれが、彼らにとっては甘い蜜の味を味合わせてくれるものだ。
 今一匹の蚊が果敢にも火中に飛び込もうとしていた。
 勇者が人間の腕の周りに纏わりつく。どうにかして体液を吸えないかと、意を決しての行動だ。対する人間の方は、纏わりつく蚊を煙たがって腕を払い除ける。蚊は当然死にたくないから、人間から離れて攻撃を避ける。その攻防が先程から繰り返されているのだ。 ここは、人間が住まいに充てている室内のようだ。1Kの質素な作りになっている。
 人間は腹に据えかねたのか、先程から五月蝿い蚊を撃退しようと、蚊取り線香に手を伸ばした。いつもならば、蚊は蚊取り線香の臭いに当てられて致死してしまうのだが、そんな蚊でも進化するものだ。
 蚊取り線香に手を掛けた人間に向かって、蚊はにやりと嗤って言った。
「無駄だよ」
 蚊は小さく鼻で嗤うと、猪突猛進よろしくそのままの体勢で突っ込んだ。目指すは人間の腕だ。彼は、進化した蚊だったのだ。人間が炊き始めた蚊取り線香の燻すような煙など、何処吹く風だ。本来蚊が嫌う筈の線香の匂いが、彼にとっては心地よい香りのエッセンスなのだ。
 だが、人間にしてみても、必死だ。病気を感染させられてしまうからだ。それだけではない。不快な生理現象を引き起こされるのもまったくもって、ごめんこうむりたいからだ。どちらかというと、後者のほうが強い。人間にとっての蚊とは、害虫以外の何者でもないのだ。
 人間はついに、最終兵器、蚊取り網を取り出した。蚊を叩くと電気が通って感電死させるあれだ。人間というものは恐ろしい生き物で、自分の不快感を取り除くためならばどのようなものでも発明してしまう。
 人間は蚊取り網を思い切り振り回した。だが、蚊には当たらない。もう一度、今度は蚊を狙って小刻みに何度も振る。三度目でようやく蚊に命中した。だが、蚊は動じない。電気耐性も持っていたのだ。大きい穴の隙間から悠々とすり抜けていく。
 この蚊は手ごわい。そう思った人間は、空唾を飲み込んだ。もう、最後の手段しかない。
 人間は、蚊が丁度自分の腕に止まったとき、その場所をめがけて手で叩いた。
 蚊は死んだ。

「――というわけなんだよ。蚊取り線香を炊いても、電気で感電死させようとしても、そいつは何事も無かったかのように飛び回っているんだ。ま、でも結局は原始的な力には敵わなかったみたいだけどな」
 昨日の人間が同族の友達に昨日の出来事を話している。手にはシャーレに入れてある蚊の屍骸。研究するために持ってきたのだ。自分が通う大学の研究機器なら調べられるだろうと、息巻いて持ってきたものだ。シャーレの中で小さく蹲っている蚊を見ていると、感慨深い感情が浮かんでくるが、それがどこから来るのかわからない。哀れに思っているからなのか、これからするであろう研究に思いを馳せて打ち震えているからなのか。
「じゃ、僕はもう行くよ」
「またな」
 青年と呼ばれる年齢である人間は、大学構内にある研究棟の方に歩いていった。自身が所属するゼミの研究室に向かうためだ。
 室内には誰もいなかった。だからといって、彼の研究心が止まるわけではないが。
 蚊の屍骸をシャーレから取り出し、試験管に入れる。その上から制限酵素の液体を入れ、電気泳動分離機にかける。プロットと言うナイロン膜に転写された整列断片を、DNA分子のプローブに結合させていく。多型DNA領域を持つDNA断片となったプローブを、オートラジオグラフィーという方法でX線フィルムに感光させ、黒い帯状の写真「DNAプリント」をプリントアウトする。
「こ、これは!」
 青年は思わず息を呑んだ。
 従来の蚊のDNAと比較する。すると、そいつは、紛れも無く進化していたのだ。電撃、薬剤、あらゆるものに耐性を示している。そのどれもが本来蚊にあるべきDNAはそのままに、蚊にあらざるDNAが存在するのだ。これは大変な発見だぞと、青年は息まいた。これを論文にして発表すれば、まず間違いなく高評価を得るだろう。だが、教授の名前を借りる必要がある。いっかいの大学院生では素直に受けれては貰えないだろう。ひとえに、教授を納得させることにかかっているのだ。
 この発見をすぐさま教授に報告した。しかし、教授は難色を示した。ただ一匹の蚊のデータでは数が足りない、と。少なくとも統計的データを示す必要がある。その上で、その蚊の特異性を強調できれば、その論文は認められるだろう。と言うのだ。
 青年は憤慨した。この、貴重な発見を理解してはくれないのか、と。だが、俄然やる気が出てきたのも事実である。青年は早速統計を取るために、蚊を大量に殺しまくった。それも、原始的な力で。

  了







  エントリ3 姐様、お手を ごんぱち


「あなたは実は亡くなった大親分のたった一人の子供なのです。あなたが跡を継いで下さらないと、内部分裂でどれだけの血が流れるか――」
 玄関先で、スーツ姿の男が跪く。
「そんなの、そういう理屈の中で暮らしてるあんたらが悪いんじゃない」
 草谷なつめは心底迷惑そうな顔をする。高校の制服姿で、背は低く幼めな整った顔立ちをしている。綺麗に茶色に染めた髪を二つに分けてしばっている。
「聞き入れて頂けないなら、お友達にもご迷惑が……」
「一度脅しに屈したら、その後もズルズルだよ」
「金なら幾らでも」
「自分の欲しいだけの財物は自分で掴む」
「こんな手は使いたく――」
 男は白い布に包んだものをなつめに突き付ける。
「あんたにとって、あたしは価値があるんでしょうが。それを殺してどーすんの」
「……大した、本当に大した方だ」
 男は目を見開く。
「いやぁ、その美貌もさることながら、強靱な意志と、気骨が素晴らしい! この安岡三郎、一生付いて参ります!」
「い、いやぁ、それ程でも」
「では、まずは極道の女の基礎知識を学べる学校へ転入を致しましょう!」

「――つまり、あたしの欠点は」
 なつめは『私立穀潰間学園』の教室で、小声で呟く。
「おだてられると弱い」
 ド派手なマスカラとアイライン、まっ赤なマニキュアとルージュ、バサバサの茶髪や金髪。そしてくわえ煙草。「チンピラの情婦」もしくは「ド田舎の中学生」風の生徒が、ぎっしりと席に座っていた。
 真ん中の一番前に座ったなつめは、隣の同じぐらい背の低い生徒に会釈する。
「草谷なつめだよ、よろしく」
「よろ――中原舞じゃ、覚えとき!」
 舞は、小柄で顔立ちも幼いせいで、厚いメイクが余計に似合っていない。
「――お前ら、授業じゃ!」
 雑談する間もなく、和服姿の女の教師が入って来た。白塗りにまっ赤な口紅をしている。
「一時間目は、化粧じゃ!」

 なつめ達は、机の上に学校指定の木製コスメボックスを置く。
「化粧は女の鎧ッ!」
 教師が怒鳴りつつ、白粉をはたく。
「男は色の白い女を好む、ちぃとでも日焼けなんぞしよったら、捨てられると思え! 眉は端を下げて、泣いているように見せる。男より弱そうに見える事が、大事じゃ! 口紅はたっぷり付ける! 煙草に口紅が付くのがセクシーじゃ!」
「……ひどい色だなぁ、これは」
 なつめは呟いて、口紅をまじまじと見つめる。ラメも入っておらず、昭和の軽自動車のようなただただ赤一色だった。
「こらぁ、お前!」
 教師は、なつめに駆け寄る。
「先生の言った通りに化粧をせんか!」
「でも先生、これ可愛くないですよ?」
「アホんだらぁあ! 女の可愛いは、男の可愛いと違――」
「先生は目がパッチリしてるから、カワイイ系が似合うと思いますよ」
 なつめはひょいと教師の後ろに回り込み、膝裏を押して椅子に座らせる。
「あたしもメイクってそんなにしないけど、ポイントだけ押さえれば、効果的に可愛くなれるんですよ」
 有無を言わさず、なつめはクレンジングで教師の化粧を落とす。
「唇のラインを少し丸みを帯びさせて、眉毛はちょっと優しめに。マスカラは下手に使うと妖怪人間になるから、アイラインだけちょっぴり入れて、と」
 なつめは教師の簪を抜く。ひっつめ髪が、ウェーブのかかったロングヘアになる。
「和服にはちょっと合わないけど、洋服ならバッチリ」
 ヤクザの情婦然としていた教師が、お嬢様学校の女子大生のように変わっていた。
「可愛い……」
 舞が呟く。
「変わるもんだな」
「あんな若かったのか、先生」
「ほとんどノーメイクじゃぞ?」
 生徒たちは、口々に囁き始める。
 教師は鏡をしばらく見つめていたが。
「お、お、覚えてろ!」
 まっ赤な顔で言い捨て、顔を押さえながら教室から走り去った。
「なんか、怒らせちゃった、かな?」
 なつめは頭を掻く。
 一瞬の間の後。
「メイク教えてくれ!」
「ウチもウチも!」
「こないな化粧もう嫌じゃ!」
 生徒達が次々となつめに駆け寄って来た。

 体育の授業時間、道着に着替えたなつめ達が、畳の敷かれた体育館に集合する。
「これより、受け身の練習を行う!」
 帯を締めた女の教師が言う。
「良妻賢母は、黙って夫に殴られるもんじゃ。その為の受け身は必須じゃ!」
 他の生徒達が、やる気がないのか覚えが悪いのか、ぎこちなく転がる中、なつめは柔道の前回り受け身や後ろ受け身を行う。
「む、草谷! DV慣れしているな!」
「中学の時に柔道、やりませんでした?」
「じゅ、柔道じゃと!?」
 教師の顔色が変わる。
「女が攻撃手段を持つとは何事じゃい! 夫を投げてしまっては家族の崩壊、美しき日本の伝統が壊滅してしまう!」
「あはは、授業で五回ぐらいやっただけですよ、大袈裟だなぁ」
「本当じゃな。嘘を言ったら許さんぜよ」
「……何弁なんだろうな、この人たちは」

 数日が過ぎた。
「おはよー」
「お早うございます、なつめ姐さん」
「おはようございます、なつめ姐さん」
「あっ、なつめ姐さん!」
「なつめ姐さんだ!」
 メイクが幾分垢抜けた生徒たちが、昇降口で登校して来たなつめを迎える。
「鞄お持ちします」
「んー、じゃあ、お願いしよっかな」
 なつめは、生徒達を従え、教室へ向かう。
 途中すれ違う生徒達も、頭を下げなつめを迎える。
 生徒のうちの二人が戸を開け、なつめは教室に入る。
「おはよう、舞」
「おはよう、なつめ」
 なつめは付き従っていた生徒から鞄を受け取り、席に座る。
「大した人気者だな、メイクもそうじゃが、勉強も出来るし、体育も凄い」
「いやぁ、勉強は予習してるだけだし、体育はバスケ部だっただけだって――ん?」
 なつめは机の中に教科書を入れようとして、言葉を切る。
「どないした?」
 なつめは机の中から白い封筒を出す。
 封を切り、中身を開く。
「――昼休み、体育館裏まで来られたし」
「うわ、ラブレターじゃ!」
「そう、かなぁ?」
 なつめは、毛筆で書かれた手紙をまじまじと見つめた。

 昼休み、体育館裏で、なつめと、ヤクザの情婦メイクをしチェーンを持った生徒が対峙する。
 隅から、舞を始めとする野次馬が詰めかけている。
「――ウチは三年を締めとる通称・緋牡丹お竜、本名・水口優子じゃ」
 優子はチェーンをじゃらりと鳴らす。
「えーと、ご用は、何ですか?」
「学校に二人のスケバンはいらん、どっちが穀潰間を締めるか、勝負じゃ!」
「スケバン? 誰が?」
「お前じゃろ、草谷なつめ」
「ミー?」
「ユー」
 一瞬の後。
「あたしの負けでいーです」
「なんじゃと!?」
 なつめはきびすを返す。
「――はー、どうも乗せられ易いのが、あたしの短所だよ。これからは目立たず慎ましやかに――」
「気に入った!」
「は?」
「校内で割れている場合ではない、そういう事じゃな! 柔道七段の実力を持ち、モロトフのパンカゴと怖れられた程のおんし、流石に格が違う!」
「授業の柔道と、バスケ部が随分なとこへ行っちゃったなぁ……」
「今日からアタイは、おんしの舎弟じゃ!」

「――スケバンはともかく」
 ぼやきつつ、なつめは教室で優子にメイクをする。側でやり方を見て真似をしてる生徒も多い。
「みんなが可愛くなるのは、悪くないかなぁ」
 なつめは優子に鏡を見せる。
「うわぁ、お竜先輩、テレビに出てる人みたいじゃ!」
「あ……ありがとう、ございます」
 まっ赤な顔で、優子は俯く。
「そんじゃ、帰り、寄り道でもして帰ろっか」
「「「はいっ、姐様!」」」