チャンピオン代表作品 
  バスドライバー・3
   

      
第1回 小説部門チャンピオン of チャンピオン参加作品 ―7

王を撃て

有馬次郎

次郎の宣伝会議

       
 


「おまえに、これをやろう。腕だ」

 男の顔が、青白くのっぺりとしていて、新聞紙に包まれた物が恐怖を誘う。
 よく見ると、男の唇は狂った女の口紅で、輪郭がつかめない程に歪んでいた。 

 前に、男からもらったのは、ずっしりと重い左腕だった。
 今日は、右腕か。
 黒グロとした血のりが新聞紙を通して滲み出ている。
 
 ミスターDJはこれで、ダルマになったわけだ。
 
 6発の弾倉に弾4発を込めるルシアンルーレットを拒否したのか。
 助かれば度胸に対する報酬として何ヘクタールものケシ畑の利権がもらえたのに、ワイヤーカッターで腕を落された。
 
 顳かみに銃口をあてればすべてが解決するのに、あいつは馬鹿だ。
 
 この王国は、車椅子に乗ったチンピラ連中が多い。コンバットナイフでアキレス腱を切られた不甲斐無い奴等だ。裏切ったあげくジャングルをバッタみたいに逃げ回り、捕まると二度と走れない躯になって、ここではオカマと呼ばれることになる。
 
「貴様は優秀だから、このシマを任せよう。逆らうのがいれば、頭をとれ」
「はは、肝に命じております」オレはハンドルを握りなおした。
「おまえの悪運は世紀末的ロマンだな」男は唇の端を歪めて、目を細めている。
「ははっ」レザーハンドルにじんわり汗が滲んで、オレは不快な笑みで応える。
「後で、DJの頭を吹っ飛ばしてやれ。あれじゃ生きる意味もない」
 女は、ぼんやり遠くを見る目をしていた。口紅もとれかかったままで。
 
 その女をレイプされたオレが、自殺のつもりで引き金を引いたら、このザマだ。
 オレには、悪魔顔の天使がケロイドの微笑を返したあの一瞬が重なっていた。

「そろそろ、呪文でも唱えますか。ボス!」
 車を停めて、オレは後部座席へミラー越しに微笑んでみた。
 
 ゆっくり振り返ると、埴輪みたいに口を開けた男が泣き笑いの目をして「あわ」と叫んだ。
 オレは、男の前歯を折りながらマグナムを咽深く突つこんで、トリガーを引いた。
  M19コンバットマグナムの薬莢の匂い。
 
 案山子みたいに頸が折れた王は見るに耐えない。
 
 血飛沫のドレスシャツを着た女が、オレを深く見つめている。
 
 クラッシュしたばかりのガラス片が1000ピース。
 
 オレは、しつかり舌を絡めて、反射光の中で、まじめにキスをした。
 
 あの頃を抱きしめた吐息の瞬間。
 
 東京ディズニーランドの『カリブの海賊』の入口から一気に落ちてゆくシーンが蘇る。



文字数/1000

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