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「おまえに、これをやろう。腕だ」
男の顔が、青白くのっぺりとしていて、新聞紙に包まれた物が恐怖を誘う。
よく見ると、男の唇は狂った女の口紅で、輪郭がつかめない程に歪んでいた。
前に、男からもらったのは、ずっしりと重い左腕だった。
今日は、右腕か。
黒グロとした血のりが新聞紙を通して滲み出ている。
ミスターDJはこれで、ダルマになったわけだ。
6発の弾倉に弾4発を込めるルシアンルーレットを拒否したのか。
助かれば度胸に対する報酬として何ヘクタールものケシ畑の利権がもらえたのに、ワイヤーカッターで腕を落された。
顳かみに銃口をあてればすべてが解決するのに、あいつは馬鹿だ。
この王国は、車椅子に乗ったチンピラ連中が多い。コンバットナイフでアキレス腱を切られた不甲斐無い奴等だ。裏切ったあげくジャングルをバッタみたいに逃げ回り、捕まると二度と走れない躯になって、ここではオカマと呼ばれることになる。
「貴様は優秀だから、このシマを任せよう。逆らうのがいれば、頭をとれ」
「はは、肝に命じております」オレはハンドルを握りなおした。
「おまえの悪運は世紀末的ロマンだな」男は唇の端を歪めて、目を細めている。
「ははっ」レザーハンドルにじんわり汗が滲んで、オレは不快な笑みで応える。
「後で、DJの頭を吹っ飛ばしてやれ。あれじゃ生きる意味もない」
女は、ぼんやり遠くを見る目をしていた。口紅もとれかかったままで。
その女をレイプされたオレが、自殺のつもりで引き金を引いたら、このザマだ。
オレには、悪魔顔の天使がケロイドの微笑を返したあの一瞬が重なっていた。
「そろそろ、呪文でも唱えますか。ボス!」
車を停めて、オレは後部座席へミラー越しに微笑んでみた。
ゆっくり振り返ると、埴輪みたいに口を開けた男が泣き笑いの目をして「あわ」と叫んだ。
オレは、男の前歯を折りながらマグナムを咽深く突つこんで、トリガーを引いた。
M19コンバットマグナムの薬莢の匂い。
案山子みたいに頸が折れた王は見るに耐えない。
血飛沫のドレスシャツを着た女が、オレを深く見つめている。
クラッシュしたばかりのガラス片が1000ピース。
オレは、しつかり舌を絡めて、反射光の中で、まじめにキスをした。
あの頃を抱きしめた吐息の瞬間。
東京ディズニーランドの『カリブの海賊』の入口から一気に落ちてゆくシーンが蘇る。
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