第2回チャンピオンofチャンピオン小説バトル Entry1
二階から、また大蜥蜴が這い降りてくる。
大蜥蜴は重い。表皮は厚く固い。四肢には大きな鉤爪がある筈だ。私は灯りの無い居間で、ひとり床に座り込み、ウォッカの壜を傾けている。やがて上から音がする。古家の二階の畳を這う音が。
まず畳に爪を立てる音。鉤爪の、畳に深く喰い込む音だ。
そして、こず、ごずっと天井が震え出す。太く重たい腹をひき擦り、固い胴を前へ押す音だ。
続く脚が、だんと下ろされる。前の脚、後ろ脚の爪の、がっと畳に喰い込む音。こずごずっと天井が震えて、だんと脚が踏み鳴らされる。がっと爪が喰い込み、こずごずっと天井が震え、だんと鳴り、がっと喰い込み、天井が震える。
そして板戸がどん、と鳴る。和室と階段の廊下を仕切る、常に半開きの板戸に尻尾か胴かが打ち当たる音だ。
これを合図に、私は少し慌てねばならぬ。
ウォッカを一口呷り、立ち上がり、裸足で裏口へと逃れる。大蜥蜴は階段の上に達し、段板に爪をかけ、太い胴腹を前へ勢いよく送り出す、刹那その身を宙に踊らすのだろう、土嚢を落とすような音が階段の中程に響き、ぎしりと家が軋み、大蜥蜴は叫び、段板と壁を引っ掻きながら、こず、ごず、ごずと勢いを増して這い下りる。
戸を閉め、外から鍵をかける。内では、がっ、こず、だんと何かが這い回っているようだ。
私は家の西側へと回る。そこには梯子が常に立ててあり、二階の窓へ通じている。それをよじ登り、和室に滑り込み、敷き放しの布団へ潜って息を殺す。下で何かの物音がする。やはり何かがいるようだ。
私は階下を窺おうと布団を這い出す。初めはそっと、次第に速く。爪を立て、這い進むごと、腹の下で畳がこずごず音をたてる。和室から抜け出る際、板戸の縁で脇腹をしたたかに打ちつける。私はぐうっと唸り、焦り、がっ、こず、だんと勢いつけて階段へと踊り出るが、刹那、私は宙に浮き、階段の中程に酷い音を立てて落ち、重なる激痛に叫びをあげる。
畜生、なぜこんな目に遭うのか。
喰い殺す、と私は泣く。全ては下にいる、奴のせいだと知っている。右の横腹が痛い。こず、ごず、ごずと階段を這い下りる。爪が鳴る。牙が軋む。横腹が痛い。痛いのだ。
短い廊下を這い、暗い居間へと向かう。そこには誰の姿もない。誰もいない。床の上に、半ば残るウォッカの壜のあるばかり。
薄闇の中、横腹を押さえながら、壜に口をつける。
ふっと胸騒ぎが起こる。重く、拭えない。