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第3回チャンピオンofチャンピオン詩人バトル Entry4

トランジッション


僕の恋人は、トレーラー乗り

濃紺とレモンイエロで塗り分けられた
下町の平屋二軒分くらいの
バカ長い車体
鮮やかにハンドルさばいて
どんなにうねった細い細い道も
神業的に往く

僕の職場の近くも輸送ルートで
時々
打合せに向かう途中で見かける
二回と半
警笛を鳴らして、僕を追い抜いて往く
痩せた腕で化け物のようにでっかい

魔法みたく操って、
ビュン、
と交差点を曲がって往く
姿を
僕は美しいと思う
心から
誇りに思う

僕の恋人は、
めったに車以外の交通手段を使わない
から、
たまに乗るとはしゃぐ
電車には電車の
船には船の
飛行機には飛行機の
それぞれの揺れと速度と
好さがあるという
きっと乗り物に乗っていること自体が
とても好きなんだろう

地図を見たり
抜け道を考えたり
ただただ車を走らせて往くのが
好きだと云う
それを生業に生き続けるのを、
昔から願っていたと云う

まだ恋人になる、わずか前、
レーサーにはなりたくなかったのか、と問うたことがある
スピードを出したい訳じゃない
長い距離を走って
移動し続けるのが好きなんだ、
いつかは
ラリーならやってみたいな
大陸を横断して、
砂煙、上げて、何万キロも走り続けるなんて
うんと素敵じゃない、てさ
ふうン
なるほどね
想像したこともなかったけど、云われてみたら、たしかに素敵に思えて
たくさんワインとビールを交互に飲んで
その晩
一緒に眠った

僕の恋人は天職についている
少しうらやましい

僕はと云えば
なりたいものなんて何もない
僕の、やりたいこと、
休日にはポーランド映画を観る
ケーキや甘い菓子を焼く
恋人のシャツを縫う
囓った程度のギターを弾く
近所のプラネタリウムで日本では見えない星を観測
金魚に餌をやる
時々写真を撮る
(手をつないで歩く)
そんなふうに
日々暮らせれば
好いと思う
ただ
それだけ

僕は自分のことを
単なるサラリーマンだと思う
恋人は
「ただのサラリーマンなんて職業はない。人が違えばどの仕事も、みんな、違う」
と憤慨する
僕は自分の仕事を好きだけど
僕の代わりなんていくらだっているのも知っている
それで一向に構わない
そうは云ってもきっと永久に
意見はすれ違うから
僕は云わない
いつもそう
だから僕たちは
喧嘩をしない
恋人が一方的に怒って
僕は一方的に謝る
それで全ておしまい

僕は免許がないから
いつも助手席で
頑張って起きていようとするけど
たいてい少しうとうとしてしまう
とてもすまなく思っている

車に一切興味がなかったし
東京で生まれて
東京で育って
東京で暮らす分には
全然必要がなかったから

でも
この先、何処でどんなふうに暮らすかなんて
実際、
わからない
今年こそは取ってみようと思う

僕の恋人は
乗り物に乗り続けたい
生命が消える最期の日
その直前まで
運転して
一日を過ごし
そしてまるで明日も同じく続くかのように
静かに
終えたい、と云う
その時、隣にいるのが
僕だと好いなと思う、のに
気持ちがこんがらがって上手く伝えれられない
あれから、二度目の新年を迎えたけど
未だ
云い出せずにいる

僕の伸太郎は、トレーラー乗り


(作者付記)
 第33回詩人バトル投稿作『真っ黒い炭酸水』とわずか関係がある詩です。
 お時間と興味のある折には是非お立ち寄り下さい。

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