第4回チャンピオンofチャンピオン詩人バトル Entry6
たかくあがった満月は
鏡のようにぽっかり青い
(忘れてしまっていたのだが)
月はわたしの惑星だった
線香花火のちいさな火の玉
母さんの半熟たまご焼き
蛇の目ん玉は冷たかった
境界線のひとつもない地平では
故郷を感じることもないし
誰も親をもってはいない
流行神もやってこない
旅は果てることがない
そこでわたしは一日中
ひたすら子羊とはなしたりした
あるとき
わたしは無言になった
かすかに海鳴りがして
月がとおくにあることがわかった
<この頃は貧乏について考えててね>
<僕もそんな本を読んだりしたけど、あれは酷い>
<本なら”なぜ報道写真が面白いか”っていうのもよかったよ>
<そんなの人が死にそうになってるからに決まってるだろう>
<僕も死にそうだよなあ>
<そうだな、君、そういや急速に感情的になってきてるようだよ>
誰か家のはなしでもしよう
子羊は迷子みたいなんだ
ひさかたの暑さにやられて
地平線もぐらついているから
もしかしたら草原の先へいって
岸辺の水飲み場にいるかもしれない
あそこの海溝はとても深かった
どんどん刈りとられていく菜の花畑
黄昏に染まったにれの木の林
その地下をはしる水脈をたどって
丘をおりていくと
水飲み場への近道になる
水がまだ干上がっていないといいが
あまり沢山あったように思えない
それに長いこと雨はふっていない
<この本あげる、読んでも読まなくても好きにして>
<先生、”自分を誇れる人間になって下さい”って、深く読みとるべきですか>
<その裏表紙に書いた言葉も、考えても考えなくても好きにして>
<じゃあ、しばらく取っておくことにします>
<いいんじゃない>
<嫌味を今受け止めるのが大変そうだと思ったんです>
わたしは近道は嫌いなんだと
長い間思い込んでいた
そうしてしゃっきりしたスーツを着て
ただれた電飾がよこ倒しになっている
青空の反射する街ばかりをあるいていた
乾いた足音は天体の動きのふりをして
不自由に点滅する交差点をながれていた
みつめていただけだったっけ
家はどこだった
家とはなんだった
遠回りしすぎているんじゃなくて迷子なのに
やっぱり言っておいてもいいだろうか
今でもすこし近道はこわいと思う
狭くて暗くて
なにもないのに長いからこわい
だけど行かなくてはいけない気がする
<今は賢い、と言うのじゃないけど、昔はみんな馬鹿だった>
<気落ちするなよ、馬鹿をやるならまだ間に合う>
<懐かしんでるわけじゃない。だってもう立派になったんだ>
<背丈がのびて、仕事もできて>
<しかし、記号配列ばかりみてると金を使うが時間がないね>
<深夜営業お疲れ様、だ>
ざらついたかさぶたを脱ぎすてると
からだは身軽で気持ちよくなって
空間がばぁっと広がって
あたりが明るくなるんだと
そんなことってあるんだろうか
一体だれがそんな旋律を吹いていった
照りつけるのは吊るされたシャンデリアと
整列した蛍光灯なんだって
誰か教えてやったのか
ここは
丸い裸電球の惑星
光らなければならない硝子
いつか喪失される地平だ
もう大分曇ってきている
だいじょうぶ
月は
わたしの惑星は
かならず軌道上をのぼりあがる
<あれが南十字星だあ>
<違うわ、あれはニセ十字星>
<でもとてもいい形の十字なんだよ>
<いぃい? 星は方角でみるの
あなたはいつも配列の美しさで星をみるから間違える>
<あ、あ、白鳥がとんでく>
<そのうちに光り方でわかるようになるんだから
それまで方角を確かめて。ね、聞いてるの?>
雲がおおいぬ座の左足首をかわして
カノープスへむかっている
家はどっちだった
(あなたにわたしの家がわかるはずがない)
どの惑星へいった
南の天上に十字がのぼる
またひとつのぼる
どちらでもいいではないか
とでも言いたげに
月がのぼる
海溝は底まで照らされて
焚き火をして遊んでいる子羊がみえる
いつしか帰ることを拒んでいる
(ゆきどころがないのだから)
ぼんやりした煙が
満月をとおって漂泊し
引き止められることもなく
あたりの星々からすこしずつ漕ぎでて
沖のほうへいくごと
生まれ
あこがれでるように
ぽっかり青い光になっていった
(あれは月ではなかった!)