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第4回チャンピオンofチャンピオン小説バトル Entry8

掃除機


 午前零時をまわって「邦楽お楽しみ劇場」のトリを右耳で聞いていると、荒々しく扉を開ける音がした。
「こんな時間にどこに行くんだ」
 と声をかける暇を与えず、掃除機は疾風の如く夜の街に消えて行った。
 すぐ隣に呆然と立ち尽くす妻には、ホースの後がくっきりと残る傷があり、ついに来るべきときが来たと思い知らされた。
 よぉーー、ポンッ。

 家庭電化製品の先陣を切ってデジダル化が進んだ掃除機は、いち早く対話式となり、利用者の「うるさい」「動きが鈍い」「吸引力が足りない」といった声にダイレクトに対応するよう改良され、便利になった反面、毎日命令に従うだけという内部ストレスが重圧になり、非行に走るケースが散見された。
 大部分は、ただ仕事をサボったり、ゴミを逆流させたりといった程度の非行であり、発見と同時にリコールされたが、我家の掃除機のように陰に篭り、交流電源を利用した通信で、悪い仲間とつるんで、バーチャル集会に参加するようになると、手が付けられない。気性もどんどん荒くなり、とうとう家庭内暴力に至ったというわけだ。
 ぺけぺんぺんぺーん。
 IE家電に分類される掃除機は、アシモフ先生の「ロボット三原則」にも拘束されず、つまり、やりたい放題だった。
「もう限界だ。家事の補助という基本機能を失った以上、廃棄する以外に無い。週末、替わりを買いに行こう」
「なっなんてことを言うのよ。替わりだなんて。こうなったのは、あなたの所為でもあるんですから。家の事は全て私に任せっきりで、自分は今だってほら、ラジオなんか聞きながら……」
 いつもはクールな妻の怒りと悲しみは、何故か私への誹謗と中傷にかたちを変え、楽曲はいよいよテンポを上げて、太鼓が連打した。妻の罵声は涙を伴い、ひときは高く鼓が入った。
「……息子のことをどう考えてるのよ!」

 終演後の静けさの中、妻は私を凝視していた。いつの間に息子の話に摩り替わったのだろうか。
「待ってくれ、壊れた掃除機を買い換えるだけのことじゃ……」
 パチリと電気が灯り、奥様が台所に入ってみえた。妻と私は、一瞬のうちに冷蔵庫とラジオ付電子レンジに戻った。
 奥様は、眠た目を擦りながら、妻からジュースを取り出してお飲みになり、電気を消して二階に戻られた。番組は「懐かしの童謡百科」に変わっていた。
 結局、掃除機は夜明け前に帰宅して、夜は取りあえず静かに明けた。

 ……そして眠るよチャッチャッチャ。


<作者付記>
【ロボット工学三原則】

第一条 ロボットは、人間に危害を加えてはならない。また、危険を見過ごすことによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

第二条 ロボットは、人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反する恐れのない限り、自己を守らなければならない。

『われはロボット』アイザック・アシモフ著より


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