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第6回チャンピオンofチャンピオンバトル小説部門 Entry6
森林公園の裏に大きな麻の暖簾を垂らした鰻屋がある。鹿威しは炎天に晒されて枯れている。「先生も竹でいいんですね」タオルとバケツを手にした女将が念を押した。「竹を頼みます」 生い茂るに任せた横の篠竹が調理場を涼しくしている。「おめえの聞き違いじゃねえのか」「奥様に持ち帰るから都合二人前、竹だよ」「そうかい奥方に土産かい、よっしゃ」気前のよさそうな亭主が前掛けを締め直す。 三河一色産の鰻を紀州備長炭で蒸さずにじっくり焼き上げる。青うなぎの身はふっくらと、皮は香ばしくパリッと焼き、タレは季節に合わせて甘辛を調節する。 一時間ほど待たされるが、分厚い本を涼しい顔で読んでいるところを見ると、老人には丁度いい足休めのようだった。 ところが、土用の丑の日を最後に老人は姿を見せない。 鰻屋の中は、またみんな無口になっている。 そこへ、ひょっこり奥方が現れた。「女将さんに差し上げてくれと主人が申しまして」と、老人の上梓した真新しい本を慎ましやかに差し出した。「あら、どうしましょ」(この私に、本を……)女将の顔が紅潮している。「美味しいうなぎをいただいて、わたしも元気になりました」「そりゃようござんした」夫人の微笑みに、亭主は大いに気をよくした。「森林公園の散歩はとても気分がよく、公園を出た所の鰻が実に美味い、鰻は滋養があるから貴女も食べなさい、と、寝たり起きたりの私を心配してくれます。梅を頼みましたら、ならば竹にしよう」と、老人の殿様口調を真似て、夫人は嬉そうに子細を話した。「いつも松の先生が、どうりであの日は、そうですかい」合点して精気を見せた亭主は「散歩の土埃で汚れた足を、うちのがバケツで濯いでやるんですがね、先生、さっぱりしたいい顔をするんでさ、なあ」と、女将に振った。「おしゃべりだよ、お前さん」「まっ! そんなことを……」夫人は言葉を詰まらせた。「あっしなんかこの年まで背中を流して貰ったこともねえですよ、へっへへ」 亭主は、女将の前に深々と頭を下げた夫人の心情が汲めていない。「申し訳ありません」 うなぎやの善良さの伝わるのが有り難くて、夫人は涙の顔をあげられない。 竹を食った先生の仁義、男らしいねえ。 情けねえが、あっしゃうちのにそんな気を持ったことは無えですよ。 反省? うん、まあね。 先生も今はボーッとしてるらしいがその内やってきますよ。 松を出したこと? うん、まあね。