【≪ 前】【▲第7回もくじ】 【小説部門へ ≫】


第7回チャンピオンofチャンピオンバトル詩人部門 Entry4

書ける程のモノなんてない


特技、
俺の特技
……。


訳あって仕事を変えることに、
決めて
何年かぶりに履歴書を、
書いた。

温暖な気候の海臨む町で生まれ移り住みここに在る
取るに足らん史実
そんなんどうでもいいよ
けど、
伝えないといけない
勤めたいからね

世の中は便利になったもので
西暦と和暦での早見表がついていて
七十年代の終盤
成田に空港が出来て
日本と中国が平和友好条約に調印した年に
生まれた俺が
何年に
どの学校に入り卒業したか
即座に把握可能になっている
以前はこんな便利な表はついてなかったよ
昭和が終わって
平成の世になって
計算が込み入って面倒だった
のに、
おまけに証明写真を貼付するための
写真サイズに合わせた
両面シールまで入っている至れり尽くせり加減
今の子どもは
至れり尽くせりの中に身を置いている
のだ
と、
あらためて知る。

学歴・職歴・資格欄、
あるがままに記入した
後、
困る、
特技
書ける程のモノなんて、
特技、
俺の特技、
……。


俺と日々を共にした女のヒト達は
のきなみ俺の詩がキライだった
いや
キライになった
詩を成している最中の俺をことさらキライになった
言葉に身体を奪い尽くされ乗っ取られそこにいながらいない俺を気味悪がった
声をかけても触れてもそこにいない俺を
わたしを愛してないのね、
て叱りつけた

はじめは
あなたの詩が、大好き、
て会いにきたのに
俺の本当を知るまでは
うんと好き、
て云ったのに

不気味。
最悪。
わたしのこと描いたら絶対承知しない。
て、
去って往った。

安心してくれていいよ
俺の内には
おまえ達のことを表すための言葉は
ないから
もちろん大切に思っていたれけど
おまえ達に俺の日々全部をあげても構わないとすら思っていた
けど
自分でもどうしてかわからないけど
おまえ達のことを表すための言葉は
はじめから
わずかも
なかったから
この先も
決して
ないから
安心してくれて
構わない、

俺の言葉は俺だけのモノじゃない
俺に降りてくる
訪れて
くる
俺じゃない誰かと
俺とで分かち合っている
モノだ。

俺の特技。
(”おまえ”を見つけること)

さあ往け
愛しい”おまえ ”
ステージの暗がりで
惑い震える俺の未来を分単位で照らせ

姿形ない
眼に見えない
けど
在る
絶対
在る
触れる
熱く激しくうねる驚愕の量感
俺、
焼き尽くす、
熱量、
光量、
轟音の真逆、
無音、

俺は”おまえ”に乗る
振り落とされぬよう
手綱などない
ハンドルすら、
から
とっかかりを見つけたい
見つけたい
見つけたい
のだ!
必至、
必死、
手探り手のひらの指の腹の脳の表面の薄い薄い
全感覚、
発動、
怖い
けど、
”おまえ”なし、
では
俺の
日々は
ない、

都市と生活を往く内に
移動中の地下鉄の窓辺に
社用車の座席に
職場のモニターの中に
打合せ中のクライアントの肩先に
眼鏡の端に
台所でみそ汁の出汁を取る指先に
眠りに落ちる瞬秒間際の枕元に
いつだって
不意に
訪れ
俺を
浸食する
さあ、
”おまえ”
思う存分
このちっぽけな身体を
脳みそを
俺という全てを
存分に
存分に
存分に
奪い尽くすが好い

俺の特技。
(”おまえ”に乗ること)

安っぽいことしか云えないでごめん、
でもこれだけは云う
云わせろよ
”おまえ”、
”おまえ”、
俺の
言葉、
”おまえ”、
を気、
狂う、
程、
愛してる

そうか。
わかった。
やっぱり
ごめん、
俺、
”おまえ”を愛す程は
おまえ達のこと
愛してなかった

俺の特技。
(大切なモノを簡単に見失うこと)


わかった
ごめん
だから
俺のこと
キライに
なったんだね
ごめん

ごめん、
なさい。

俺の特技。
(大切なモノを簡単に失うこと)


特技、
俺に
特技、
なんて、
書ける程のモノなんて、
ない。


【≪ 前】【▲第7回もくじ】 【小説部門へ ≫】