【≪ 前】【▲第7回もくじ】 【次の作品 ≫】
第7回チャンピオンofチャンピオンバトル小説部門 Entry4
「ほほう、立派だね、その牡蠣」「そうでしょう?」「栄養もあるんだよね。確か海の――」「海のミルクですね」「……のう、大将」「ないだい、牡蠣さん」「お客さんの前で何じゃが」「私は構わないよ」「その……海のミルクっていう言い方、どないかなりませんじゃろか。ワシ、ミルクより格下ですか?」「え? そんな事ないけど、今さらそんな事言われてもなぁ」「今さらって何じゃい! 牡蠣には牡蠣のプライドちゅうもんがあるんじゃ! どないしてミルクなんぞと比べられなきゃいかんのじゃ!」「栄養価が高いっていう、類似点があるからじゃないかな」「ワシら命張って皿に上がっとるんじゃぞ! それをあげなもんと一緒にされてたまるかい! ワシらの命の、血の結晶と、牛の分泌物如き――」「いや、確かミルクの成分は血液に近い筈だよ」「奴らのは、血ぃ言うても鼻血じゃ。歯茎からジクジク出る充血じゃ! ワシらのは心臓をぶち抜かれた時に吹き出す鮮血じゃ! 奴らの血には、男気がないんじゃ!」「そりゃあ、ミルクを出すのはメスだしねぇ」「それ見ぃ、男の血やない」「でも君だって母親のミルクで育っただろう?」「牡蠣は卵生じゃ! 無数に生まれた卵の中を勝ち抜いて、ようやくこのサイズにまで育ったんじゃ、なのに、なのに、海のミルクとは何事じゃ!」「馬鹿野郎!」「あっ、お客さん」「な、なんじゃい、お客さん」「海のミルクと言われて、それがどうした? 言いたい奴には言わせておけ。どんなにミルク、ミルクと呼ばれても、一口食べれば一食瞭然『なんだ、ミルクよりめちゃめちゃうまいし、栄養もある!』そう思われるように、揺らがぬ己を作り上げる事こそが重要じゃあないのかい?」「しかし……」「君は牡蠣である事にプライドを持っていると言ったな? そのプライドは、実のない誹謗中傷で揺らぐ程度のものだったのか? ああ? どうなんだ?」「ワシは牡蠣じゃ」「嘘をつけ! ミルクだろう!」「牡蠣じゃ!」「このミルク野郎!」「ワシャあ、正真正銘の牡蠣なんじゃああああああっ!!」「よし、よく言った」「お客さん……」「うん、立派だよ、牡蠣」「大将」「もう、大丈夫だね」「ありがとうございます、お客さん。お陰で目から鱗が落ちました!」「おいおい、牡蠣に鱗はないだろう」「アッチャー、いっけねぇ!」「アハハハハ!」「ハッハッハッハ!」「それでお客さん、ご注文は?」「アサリのバター焼き」