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第10回チャンピオンofチャンピオンバトル小説部門 Entry2

卒業式にて


「――これから君たちは、大学に進学するにせよ、就職するにせよ、一人の大人として扱われるようになっていくわけですが――」
 体育館のステージ上から、校長は皆に語りかける。
「――大人というのは、大きい人と書きます。これは、年齢や身体の大きさを言うのではありません――」
 生徒、教師、保護者、来賓。
 皆、整然と着席している。
「――そのように、立派な大きな心を持つ為に大事な事は、自分以上に他人を尊重する事であります。フランスの劇作家の言葉に――」
 多少の身じろぎはするものの、声一つ立てる者はいない。幼い子を連れた保護者もいるが、連れられた子も騒いだりしない。
「――立派な大人となれば、皆に信頼され、自ずと尊重されていくのです。かつて坂本竜馬は――」
 まとまってもいなければ洗練されてもいない校長の言葉は、山も谷もなく続くが、誰もあくび一つせず、真剣な眼差しは変わらない。
「――海援隊を率いるに至ったのは、正に先見の明の成せる技と言えます。私は歴史の偉人の中で、坂本竜馬が一番だと思っている。そして、二番目が――」
 居眠りする者もいない。
「――織田信長というと、引き合いに出されるのが豊臣秀吉ですが、彼よりはむしろ前田利家の方に魅力を感じるのでありますが――」
 時計の針は、予定時間を大きく回っている。だが、司会役の教師も静かに座っている。
「――妻が支えたと言えば、山内一豊の馬の話が大変に有名です。馬は、世界で一番美しい生き物だと私は思います。余談になりますがこの前の有馬記念で――」
 興に乗ったのか、校長の声は大きく、早くなっていた。
「――皆さんはギャンブルというと悪い事のように思うかも知れませんが、先の読めないギャンブルは人生の縮図と言えます。人生は分からないから面白いというのが、小林大地の言葉であり、私もそう思うのであります」
 一つ咳払いをして、校長は声のトーンを戻した。
「以上をもちまして、私からのお祝いの言葉に代えさせて頂きます」
 校長が一礼して、ステージ用階段に一歩踏み出すと。
 ステージ用階段は、ずるりと動き、そのまま校長もろとも体育館の床に落ちた。
 激しい音が体育館に鳴り響く。
 校長は激しく床に頭を叩き付けられ、バックリと額が割れ、そのまま意識を失った。
 皆は、びくり、と、驚いて顔を上げ、校長の様子を見た後。
 再び、視線を戻し。
 数秒後。
 体育館中に、同じ言葉が響いた。
「救急です」


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