第10回チャンピオンofチャンピオンバトル小説部門 Entry3
[人生における何もしたくない時期に入りました。しばらく私を休みます。外出や会合等お誘いいただいても出席しません]
まみちゃんちの玄関にそう張り紙されて、ひと月半になる。おじさんもおばさんも変わりなく生活しているふうなので、他人の私が押しかけて心配するのもはばかられたが、ひと月半は少し長い気がして訪ねてみた。平日の昼と言うのに、おじさんもおばさんも在宅で、家の中は薄暗い。
「ようこちゃん、よく来てくれたのね、まみ子は部屋から出てこない、なんだかさっぱりわからないの、おとついまでご飯は食べてたのよ」と、部屋の前にはおとついから置いたままらしいお膳がずらりとならんでいる、おとついの分をまみ子が食べるまでかたづけないつもりらしい、おじさんもおばさんも見かけによらず厳しいな、と、少しまみ子に同情した、とたん、ぐっと胸元をつかまれて、閉じたままの戸の内へ私は引きずり込まれた。一瞬の同情を見抜かれたのだ、見覚えのあるまみ子の洋室5.2畳には、胸倉を掴まれた感触は残っているのに掴んだ何者かの気配はすでになく、口から吐いた糸で繭状にくるまれたまみ子がひとり転がっていた、おばさんの「おとついから食べなくなった」という話とつじつまがあう、まだ中が透けて見える糸越しに見る限り、まみ子の蛹化は始まっており、すでに人の形はなかった。
部屋を出て薄暗い居間をのぞく、おじさんとおばさんは双子の様な後姿で消音したテレビに見入っていた。
「まみちゃん大丈夫みたいです。半月もしたら出てくるんじゃないかと思います。ご飯はそれまで食べないと思うので、お膳かたしてやってください」
「半月も食べさせないであの子死にませんか」
「もう、蛹になっちゃってるし平気です。パソコンばっかの子がなるweb脳閑期、ブログとかに公開する為にしか社会と交流しない子がパソコン開くのも嫌になったりの日が続くと蜘蛛みたいに糸吐いて丸くなっちゃうんです。時期が来たらケロっとweb上に戻って人の形をしてご飯も食べるようになります」
「父さん聞いた? まみちゃん農閑期なんだって」
「なんだよ、そうかぁ、じゃ農繁期には手伝ってやらんとなあ」
へえ、この人達優しいんだ、もう少し悪い事態も想像していた私はちょっと肩透かしをくった気もしたが、愛にあふれるまみ子の家を美しいと思った。今日までどおり入室は控えるよう伝え、まみ子の家を辞し、明日はタカオの家に行こうと決めた。