エントリ1 汚染された日本 香月
ある日、公園で友達と話をしていたら、
一人の外国人が声をかけてきた
「Hello」
どうしよう
頭の中を中学で習った簡単な英文がめぐる
あぁ、こんなことならもっと学んでおけばよかった
君たちは今何をしてるの?
何歳?
日本人?
いつもココへくるの?
その外国人のおじさんは、馬鹿な私達にでもわかるように
簡単な英語で話してくれた
私と友達はジェスチャーをつけめちゃくちゃな英語を話した
おじさんは笑って聞いてくれた
「これって国際交流だね、すてき」
友達が言った
なのに
「Where are you from?」
「I am from Iran」
急に、肩がすくんだ
私の頭にはテレビなどで得たあやふやなイランのイメージがまわる
イラン・イラン・イラン
おじさんを、怖いと思った
ただ、イラン人というだけで
正確な知識もないくせに
なぜか、嫌な感情しか生まれなかった
自分の心はひどく汚く思う
翌日、別の友達に言われた
「大丈夫だった?」
みんな、汚い
エントリ2
取捨選択 香月朔夜
猛る地獄の炎に照らされた
懊悩と絶望の阿鼻叫喚
心血彩る苦渋の数々
選択の時は迫る
与えられた回答は2つ
鬼となるか 亡者となるか
鬼は強く虐げる者
亡者は弱く耐える者
神々は亡者であれと諭すけれど
魂の涙を引き換えにしてまで
求める「優しさ」は必要ですか?
エントリ3 トンネル 有機機械
暗いトンネルを抜けると
目の前の山には朝日に照らされた桜が咲き乱れ
その四次元のコントラストに心を奪われているうちに
桜のただ中に突っ込むようにまたトンネルの闇がやってくる
暗闇の中に残るまばゆい景色の余韻
そんな些細な日常の演出に僕は胸を躍らされ
この世界全てに祝福されたような気分になる
この宇宙のどこかでは巨大な光の渦が
僕の想像もつかないような大スペクタクルを演じていたり
それどころかこのちっぽけな地球の中でさえ
僕とそんなに違わない人達が
僕の想像もつかないような冒険の日々を過ごし
それらは常に僕に僕の存在の意味を問いかけてくるけれども
僕は残念ながらこんな些細なことで幸せを感じてしまう
こんな些細なことで浮き沈みを繰り返してしまう
その連なりが僕の人生
それもまあ・・・悪くない
ここだってれっきとした大宇宙の一部で
どんな英雄だって神ではない
ということさえ分かっていたなら
エントリ4 離(れる)魂 木葉一刀
部屋に帰ると
そこは暖かさを失っていた
またか
独り言ちると
テーブルの上のメモを
拾い上げる
必ず戻るから心配しないで
そう書いてある彼女の書置き
書置きの下に記入された通帳
二人で目的も無く貯めた金が
きっちり十万が引き落とされている
まだ籍は入れていない
その状況で過ぎた五年
彼女はまた姿を消した
四度目のことだった
何が彼女をそうさせるのか
考えることはもう辞めてしまった
ただ僕はここに居ればいい
ここに居れば間違いなく彼女は戻ってくる
信じているから
問わない
追わない
去らない
信じているから……
ちがう僕は
疲れ面倒になってしまっただけだ
開いた掌には何一つ持たず
考えることを止めただけ
戻ってきたときに受け止めるのが
そう僕の役目
だからこの部屋でただ一人で
待てばいい
そう自分に言い聞かせて
この部屋ごと捨ててしまいたい
思い出をぐっと押し込めて
一人のときにだけ飲む
アイリッシュは美味い
エントリ5
時 影法師
青年は時を忘れる
壮年は時を味わう
老年は時を惜しむ
少年は時の流れを知らない
エントリ6 いつか出会うあなたへ やまなか たつや
<1番>
懐かしいね あのころが
なんて言えるほど 昔じゃないんだ
別れは突然に あの子は消え去った
せめて未来だけは 信じ続けたい
まだ名前も知らぬ誰かと
いつしか出会って愛し合う
期待と失意の日常に
そんなシナリオ 埋もれてたら
<2番>
あの瞳が 夜のように
僕の心 引き付けてた
殻を破れぬまま 恋に敗れるまま
せめてもう少しは… でも過ぎたことさ
まだ顔も知らぬ誰かを
思って笑って生きてるよ
出会いと別れの波にのり
やがてどこかでときめくなら
<3番>
ただ毎日 ふさぎ込んだ
未来なんて 希望なんて
自分を卑下する 強い感情に
時に屈することもあったけど
まだ声も知らぬあなたに
すがってこらえて生きてくさ
胸の鈍痛 あるだろうな
でもお互い 時を待とう
<4番>
あの別れは 苦い記憶
けれどいつか また素敵な
誰かに会い 笑い会える
だから今日も やってけるんだ
生きることは楽じゃないが
それを捨てる理由(わけ)もないね
孤独な夜 あなた思い
まだ見ぬ日々 拠り所に
<5番>
涙の結晶(つぶ) 生きてきた証
見せてあげよう とっておくよ
笑いながら 涙話
そんな時が 楽しみだね
時が来れば僕らは出会うだろう
知ってか知らずか近づいて
これが愛と 気付くのかな
その瞬間 思い描き
<繰り返し>
時が来れば二人は分かるだろう
いつの日かひとつになれるだろう
それまでまだ 生きててよね
僕もまだ 頑張れそうだから
エントリ7
鳩に遭う ながしろばんり
鳩に遭った
駅前のロータリー
テイトンテイトンテイトンテイトン
潰れた片足の先ははじめからそうだったようで
確たる足取りで、やってくる
なあ、兄さん
兄さん今余計なこと、考えたやろ
平和の象徴が足潰して、とか
そんな目、してたど
鳩の咽は
ふくふくと揺れている
あんなん、嘘や。
わしゃあ、ドバトや。
くだらん、おお、くだらん
電線にはあいにく留まれんようなったけど
鳩は
楽しそうに自分の不幸を話す
グルッポーやないど
別に可愛がってほしゅうて居るんとちゃうし
テイトンテイトンテイトンテイトン
生かしてくれるから、一杯生きとるだけや
そういうと鳩は
テイトンテイトンテイトンテイトン
車道に飛び降りて
歩いて、ヨーカドーの方へ行ってしまった。
きっと
聞いて欲しかったのだろう
エントリ8 快晴 ぼんより
縁側で日向を食べた
ほんのちょっぴり熱かった
でもたっぷり満足した
おばあちゃんも
おじいちゃんも
あと子犬のモコも
みんな縁側で日向を食べた
おかあさんと
おとうさんと
おにいちゃんは
居間でせわしく動いてる
モコが わん 一回吠えた
うふふって笑ってるんだよ
モコはそういう犬だもの
明日も縁側で日向を食べよう
エントリ9
ゼノンの雨粒 大覚アキラ
雨粒が落ちるのとほぼ同じスピードで
わたしも落ちていっている
雨粒とわたしの相対的な速度は
限りなくゼロに近く
わたしの周りで静止した無数の雨粒は
刹那と永劫の境界線上に
ありえないバランスで固定されていて
水晶のような雨粒のそのひとつひとつに
気が遠くなるほどの丁寧さで
わたしは言葉を書き込んでいくのだ
二分法的には決して訪れることのない
全てが砕け散ってしまう瞬間を
いつまでも待ち続けながら
エントリ10
暗闇迷路 望月 迴
先を見ては不安になって
振り返って戸惑った
(何してたんだっけ?)
(何処に行くんだっけ?)
いつの間にか道は無くて
暗がりの中 僕は一人
(何をしたら良い?)
(何処へ行けば良い?)
夜が明けたら醒めるだろうか
壁の無い迷い道
エントリ11 今はまだ知らん顔をしていよう ヨケマキル
曖昧な不安と
春に謀られた私は
愚鈍が充満した暮らしに背く
新しげな朝は
引越し業者の隙間を縫って
華奢な風体で日常を提示し
やがて ぼんやりに うすのろは 増殖
日輪もやけにびくびくしていて
階下の住人の争う声
激しくドアを閉める音
誰かの笑い声
懐かしい夜明けの匂い
コードの抜けた電話
泣いたりもした
悲しみと壊れた自転車は不法投棄してきたはずだろ
四月はすべての気がふれているので
今はまだ知らん顔をしていよう
まだ見慣れぬこの街の
たいらかな空気にまぎれて
息をひそめて
飛ぶために屈んでいよう
いつの日か高く飛ぶために
エントリ12
宮坂の姉さんを 佐藤yuupopic
宮坂の姉さんを
中学の時の同級生だった
宮坂祐二の姉さんを
俺は
宮坂の姉さん
あなたをナグサミモノにしているとばかり
思い込んできたけれど
全く
その逆だったのだと
宮坂の姉さんのナグサミモノに
なっていたのは
他でもない俺だったのだと
今更ながら
思い知らされたのでした
未だに俺の住んでいる町の
オトナと呼ばれる年齢の人々は
東京。
(様々な場処より様々なヒトやモノが流れ着いて寄せ集まって複雑に絡み合って
故に
表面上は
単一な評価を下す他ないあの都市、)
は怖ろしい土地だと
思い込んでいるキライがあって
宮坂の姉さんは御多分にもれず
すっかり東京にヤられちまって
ブッ壊れて
戻ってきたのだと
聞かされていました
(だってそう思っていた方が楽だから)
だから
俺も
そうとしか思っていませんでいた
(だってそう決めつけた方が楽だから)
本当は
焦点の合っていない
(ように見えていただけだった)
宮坂の姉さんの眼に
色が
戻った瞬間
あまりに美しくて
俺は、
息の仕方を
忘れて
アタマに
頬に
彼処に
薄汚い
熱い
血が
集まって
脈打って
どうにかなってしまいそうでしたよ
(佐藤くん、
わたし
都合が悪いことがいっぱいあって
アタマがダメになったふりをしていたの
酷いこといっぱいして
ごめんね。)
宮坂の姉さんは
俺の兄さんが
好きで好きで好きで好きで大好きで
追いかけて
東京に
往ったのでした
でも
兄さんは
多田小雪さんと結婚したのでした
思い叶わず
帰郷した
宮坂の姉さんは
俺を、
俺は
兄さんと
よく似ているのです
姿形だけですが
非常に
相当似通っているのです
俺は
そんなこと
当然
知る由もなくって
例え表面上であったとしても
目に映る限りの
全てを見ているつもりで
その実
俺は
宮坂の姉さんのことを
微塵も
欠片も
何も
知らンかったのです
その事実に
すっかり
まいってしまいました
胸に
耳朶に
イチバン柔らかい処に
ほくろが
あること
なんて
知っていても
それは
皮膚の上の
ほんの
些細な
情報に
過ぎず
俺のことなんて
その実
全く
見も
知りも
したくなかったのは
あなたも
同じだったはずで
その完全に噛み合わない状況下で
触れたふりで
何一つ
交わす
ことは
なかった
俺達や
私達や
俺とあなたや
ましてや
あなたと俺なんかでは
あるはずもなく
宮坂の姉さんは
唯々
宮坂の姉さん
俺は
唯々
俺
個々で
他人で
点と点で
間をつなぐものなんて
蜘蛛の糸程の
不確かで切れやすいものすらも
宮坂の姉さん。
俺には
(ありがとう、ごめんなさい、さようなら、もうあわない)
なんて通用しないよ
だって聞こえなかったもの
高速の
降り口に近いあなたの部屋の
窓下
あの晩もいつものように
車が通り過ぎたでしょう
何台も何台も何台も何台も
通り過ぎたでしょう
排気音が酷くって
部屋ごと
揺らして
あんな
か細い声じゃ
(ありがとう、ごめんなさい、さようなら、もうあわない)
俺には
ちっとも
聞こえなかったよ
ねえ、
宮坂の姉さん。
俺は、
あなたが、
ねえ、
あなたが、
あ、な、た、が、
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