エントリ1 宿命 双
貴方が宿った子のこの魂、宿りて思わばこの命。
今亡き貴方の遺影を見つつ微笑む私と宿りし子。
昔に貴方と行った行為から宿りたもうたこの魂は今は強く輝いて、私のお腹を蹴り出すの。
提灯ぶらぶら、垂れ下げて、貴方と歩いた神社の道。
その時冬で二人凍えて寄り添いあって、手を繋いで歩いたね。
「別に寂しくないからね」
独り言ぼそりと遺影を見て呟いて、私一人涙する。
この命消さぬように・・・。
宿した魂を実らせなくては。
我が火はちらちらと風に吹かれて消えそう。
でもそれでも貴方が宿したこの子を実らせるまでは・・・。
この世にサヨナラなんて、出来ない・・・。
ちらちら凍える燦然の光の世界。
貴方がいればどれだけ綺麗か妄想働き一人にやつく。
「この子を実らせるからね」
結局、消え入りそうな私の灯火をちらちら輝かせながら根強く生きている。
どんな困難食い入れても貴方の宿した魂だけは必ず絶対実らせるから。それが私の生きている今の使命ですもの・・。
この命消さぬように・・・。
宿した魂を実らせなくては。
我が生は満ちても、この子の生は満ちない。
だから私はまだ逝けないの。この使命が終わるマデ・・。
ひとつふたつ・・。
みっつよっつ・・・。
振り返る先にあるものは、死相。
「この子は奪い取る。」
静かに滴る我が液体。血が滴る。
腹から出でる血は私だけではない。貴方が宿した子のものもあるのやも・・。
許せぬ、許せぬわそんな愚行。
タダで殺され等せぬわ。片腹へと突き刺す。
「我が生は満ちた。故に命は果てる。」
死に対する恐怖ない者に対しては何も意をなさず。
ただ私はここで果てるのだろうか。
そんな訳にはいかない。
この子を実らせなくっちゃ・・・。
貴方の宿した魂を今出だすわ。
この子を実らせるからぁ・・・。
腹部に手を入れ込み、苦痛に歪む表情。それすらをも快楽に変え、子を出だす。
緒を素手でぶちりぶちり、内部のものから何から何までかえりみることなく。
滴り滴る雫。紅。
この子を今出すわ・・・。
無理矢理抜き出して、血を流して、うなだれる子。成熟すらしていないのだろう。
それでも私はその子を見て、決めてた貴方の名前を呼んで、うっすらとした笑み。
「あぁぁ・・今私の生は満ちたわ・・・これから貴方の元へ行きます。」
未成熟な子を抱きしめながら、生を感じながらも、薄れ行く意識の中で見たひとつのもの。
子供が・・・。
笑っていた。
エントリ2
長靴 飴子
今日の天気は雨
昨日もずっと雨降ってた
お母ちゃんに聞いたら
明日も雨やって言うてた
新しい長靴買うてもろて
はじめは嬉しかったけど
やっぱり雨は嫌やなぁ
だって外で遊ばれへんもん
エントリ3 ロシアン・ルーレット 大覚アキラ
投げ捨てたものを
拾い上げてみて
鳥肌が立って吐き気がして
また投げ捨てる
生きるってことは
そういう愚かさを
飽きもせずに
反復することかもしれない
継続は
血から成り
だから
血が出なくなるまで
一滴も出なくなるまで
やり続ける
それが生きるということ
テレビの中で
ずっと続いているのは
終わらないダンス
擦り切れて画質の落ちた
アダルトビデオで
永遠に交尾し続ける
幽霊のような男女
それを
ぞっとするような
悲しい目で見つめている
おまえ
かわいいなあ
おまえ
抱きしめて
口づけして
食べてしまいたいぐらい
かわいいなあ
ピストル
こめかみに押し当てて
震えながら
引鉄を引く
さあ
次はおまえの番だよ
エントリ4 知る銀色 結城森士
(僕を殺した声を殺す為に
知る時計の音)
堅固なピラミッドの秩序が崩壊していく
不可視のラジオの雑音の中で目覚めて
無機質な時計の音が永遠に鳴っていたこと
記憶の朝、
白い光の電車に乗って
揺れながら血の色で
彼女を想いながら春の草花
に揺れながら目覚めて
時計の音が永遠に鳴っていたこと
鉄橋から川の流れを覗く風が長い髪を流れ
水。日々鏡を望む水の色に泣きながら目覚めて
時計の音が永遠に鳴っていたこと
あの日の四人の影が食堂で夕暮れまで笑いあっている
永遠の西日を受け影になりながら四人が笑いあって
、伸びて
(繊細な記憶の
闇グラスの闇の線、
円の内側を流れて
空の
向こうの
上の彼岸の
暗雲の辺りから
重い・・・・・・・・・・・・。
呼吸が乱れて時計の音が
永遠に鳴っていた
こと)
不完全で透明な夜明けの空白
(が、
永遠に鳴っていた夜通し永遠に笑っていた
夕暮れは、402号室は、グラスの闇。闇の線の上を歩く)
あの日時計の針が永遠に壊れ、グラスが流れ
針が回っていなかったことを知った日のこと
例えばそれは永遠に止まってしまった偽善者
偽善者、偽善者、という彼女の叫び
声が水に映り、割れる、割る、
割れる悪夢の内側から
無機質な時計の音が
永遠に鳴り続けている
こと
感情は死してなお目覚めそれでも永遠に鳴っていたい
と願う幻想の記憶の中で、目覚め、虚ろ、
時々、その日を思い返すと
銀色の草花の匂いがする
(僕を殺した声を殺す為に
知る銀色の声、声、声)
エントリ5
武装放棄 いとう
言葉で武装してはならない
言葉を武器にしてはならない
争いは銃からではなく
言葉から始まることを知らなくてはならない
言葉で武装してはならない
言葉を武器にしてはならない
言葉の扱いが巧い者だけが生き残る世界にしてはならない
銃を持つように言葉を持ってはならない
傷つけやすいものをさらに尖らせてはならない
ただでさえ尖っているものを凶器になるまで尖らせてはならない
放っておいても人を傷つけるものを
傷つける意志をもって手に取ってはならない
言葉を武器にしてはならない
決して言葉を武器にしてはならない
身を守ることを正当化してはならない
身を守るために言葉を使ってはならない
身を守ることより
相手を慈しむことを選べ
身を守ることからすべての争いが始まる
居場所を求めることからすべての争いが生まれる
正しいことを証明するために言葉を使ってはならない
間違っていることを責めるために言葉を使ってはならない
すべての正義から争いが始まる
すべてが正義で
すべてが間違っていることを知らなければならない
言葉で武装してはならない
言葉を武器にしてはならない
そして
武器にしてしまう者を責めてはならない
傷つけられたことを叫ぶために言葉を使ってはならない
争いはそこから生まれる
言葉はそこにない
エントリ6 Route Blue Sky 紫生
前を走るCoupeが
この真っ昼間っから
Love−Hoにしけこもうと
Brakeなんか踏むから
信号にとっ捕まっちまって
Fack You!
God Damn!
Son of a bitch!
見上げた空にはSuper carみたいな雲
まったりのったり 走ってる
はしっこが青灰色のGradationで
めっぽうCool!
しばしうっとり
Bravo! Great! Fantastic!
Heavy! Solid! Crazy!
もひとつおまけに Marvelous!
太陽の演出
Sharpなbodyを光らせて
西から東へNovle modeでOver drive
あんな風にCoolなら
のんびり行くのも良いではないか!
ありではないか!
あっ 青ではないか!
おっと失礼…
後ろのSedan
あおらないでいただけます?
エントリ7
戊夜 さつきばらかや
さぶい
ぽそっと呟いたあなたが
こちらにすり寄ってくる
ぽつぽつと腕が粟立っている
ふわふわと踊る髪が頬をくすぐる
そこに軽く口付けを
容赦なく時はすぎるから
あと少しだけ
寝坊の陽が照らし始めるまで
祭りの余韻に浸りながら
あなたの温度を感じていたい
作者付記:戊夜…午前3時〜5時
エントリ8 ジーン 沙汰
ずっと、ひとりだった。
だから、拾ってしまったのかもしれない。
自分より多分重い身体を、無理矢理引きずってベットにのしあげる。
濡れた前髪を掻き分けて、
「生きてる……よね?」
そう、つぶやいてしまうほど冷たい。
温もりを分け与えることさえできないのがもどかしい。
吸血鬼。
そう呼ばれる存在であることは、なぜか知っていた。
薄暗い、広い、赤茶けた家の中で。
飛び回る蝙蝠と、蜘蛛の紡ぐレースの中で。
血を吸ったことはないけど、消えることはできなかったから。
目を覚ましたヒトは、「ジーン」と名告った。
私は、ただ吸血鬼だと告げた。
ジーンは、ちょっと驚いて、でも、それだけだった。
そして、なんとなく一緒に住んでる。
居候だからと、ジーンはよく働いた。
家を覆うレースは消え、赤茶けた家も本来の色を取り戻した。
でも、それだけ。
ある夜、一緒に話しているときに、ジーンは言った。
「ねえ、噛んでよ」
「そしたら、ずっと君と一緒にいれる」
ジーンの腕の中で、ぬくもりを感じながら。
噛むことはできなかった。
ヒトを噛むことは怖かった。
なにより、私はずっと願ってたから。
ジーンのぬくもりの中へ私は、とけて消えてしまいたい。
そのあたたかみに、私を。
まだ、たまにジーンは言う。
「ねえ、噛んでよ」
と。
エントリ9
demo-crass ながしろばんり
あっちの国の大統領と
こっちの国の大統領では
あっちの国の大統領よりも
こっちの国の大統領が
ばっちり縛り馘になるといいなと
はっきり思っている人が世界の半分以上いるそうな
しっくりこないことには
あっちの国の大統領が首を吊っても
しっかりものの側近によって
こっちの国の大統領は
ゆっくりのんびりクリスマス休暇だ
びっくりするのはまだ早い
どっかりソファに腰をおろし
こっくりこっくりしてる間に
さっくりプレッツェルを喉に詰めたりしているのだ
やっぱりこのまんま
ぽっくり逝ってくれないものかと
ぱっくり半分の同胞に加え
ばっちり大多数の人々は
すっかり閑かな大晦日
じっと目を閉じて音楽を聴いている
エントリ10
monument 村方祐治
T[body blow]
胃の奥から
感傷的な幻想
脳の奥から
屈辱的な眩暈
―機械にとって
贅肉が
こんなにも欲しいのは
何故だろう
(悶絶)
U[There...]
「日常は遺跡だらけだ」
恐喝して
空気の群
それらは誰もの
鼓膜を破り
血管を破り
五臓六腑を砕いて
それでも尚 黙っている
なによりも 大声で
V[killed]
季節はドップラー効果だ
一瞬の後ろめたさもなく
ただ交通事故
集計だけが増えていく
どの風景にも
誰も知らない
その時間にも
ただ命だけが通過する
存在するのは
ただ 正常な 大地だ
エントリ11
落影 ヨケマキル
或
乾いた日
ジャンケンに勝った男の子が
チ・ヨ・コ・レ・イ・ト と階段をあがる
あがり切った場所から
何が見える?
昔々
呪われたように暑い夏の日
子と別れた
裏の中学校から
吹奏楽部の音
追複曲
妻が妊娠中に
腹を蹴った
子は無事に産まれ
大変かわいがったが
過去は消せず
昔々
呪われたように暑い夏の日
妻と別れた
たばこを一服
たばこは体に悪いが
健康でないとたばこはうまくない
煙が
寒風に飛ばされた
子がいたずらをして
顔をぶった事があった
あとでごめんねと言ったら
父さんは悪くないよ
と言った
道端の雑草を踏み殺す
雑草という名の植物はありません
昭和天皇の言葉
最近は一年中 体のどこかしらが痛い
耳鳴り
セミの狂い咲きか
はたまた突発性難聴なのか
泣いた
理由は言わない
エントリ12
ニューロマンチッカ トノモトショウ
満月の狂わる夜がZ対のキキに酔い
斜罪は倦怠に 秘骸は停滞に 嘆くべきは
完全主義の卑小なプラレタリオ文学と
尖った舌愛のアンドロイドの生殖器
じったりとした瞳の奥で子猫が爬欲を舐めている
傍らにアクアリルの光沢で吊るされた
ゆらめきらめきだ
非常階段で交錯する裏足のイズム
偽無は既に失墜し 熱瓶が額を焼してしまう
誰かの条件付きの喘みが闇の中でうずうずむ
無意識の広ゲルが魂を乱撫してゆく
さよなら 春深き摩弾の日々よ
今はただ貴女のエクスに溺るるのみよ
ちょうど半全身を砕いた蝋炎のジッタで
腹まる二人はいつしか桃惑の世界にひだ走り
あれはアガだ これもアガだと
対象の不未来に妄実する
僕らのニューロマンチッカ
エントリ13
サイレントナイト 葉月みか
あてもなく彷徨うサーチライト
に
絡む
夜半から激しさを増すばかりの
牡丹雪
「明日の東北道は絶望的だな」
呟く
革巻きのステアリング
の
上で
三周目のR&B 刻む
指
エアコンの微熱
噛み殺し損ねた甘い眠気
紛らわそうと
流れる光 数えては
また
ちいさく欠伸
「龍がいるからね」
丁度さしかかったサビと裏腹なトーン
暇に飽いて差し伸べられた
手
髪かき分け うなじと遊ぶ
「龍?」
「銀の鱗 キレイ」
徐々に スロウダウン
連なり始めるテールランプ
それ反射したみたい
眠気 侵蝕して
上気する
頬
首筋の体温 するり 解けて
1620KHzを受信
フロントガラスの遠く向こう
鈍い緑色 天を目指し
雪とともに
朧
に
灯る
……ンクションヲセントウニジュウタイ2Km
「さっきコーヒー買えば良かったね」
ニュートラル
サイドブレーキ
を
引く
軋んだ音
「別に大丈夫だよ」
今や完全に静止
「一本だけ、いい?」
ほどなく紫煙 漂い
ほろ苦い香り
に
溺れそうになる
「龍はね」
灰 はらり 舞い
「迷子の雪女を迎えに来るの」
橙の明滅
は
眠る呼吸 そのもの
「溶けて消えたら可哀想でしょ?」
「何かの言い伝え?」
ギアボックス越しに 抱き寄せられる肩
シートベルト 外して
収まり
の
良い場所 ほどなく見つける
「いま、作った」
睫毛を伏せて
また
ちいさく欠伸
「明日、帰れるかな」
再びR&B
革巻きのステアリング
の
上で
無言の左手
少し 憎らしくて
戯れの フリ して
噛みついた
「少し眠っていいよ」
「溶けて消えちゃうよ」
優しく下げられる ボリューム
髪梳く 指
から
ほろ苦い残り香
牡丹雪 纏って
彷徨うサーチライト
に
懐かしい 龍
に
見つからないよう
に
腕 絡めて
ちいさく なって
息を そっと ひそめて
ひそめて
エントリ14
真っ赤な海スターレッド ぶるぶる☆どっぐちゃん
イタリーには60億台もフェラーリがあるのでパリまで溢れてしまっている
ポルシェさんが扇風機で全て吹き飛ばしてしまう
ヨーロッパの空をふわふわと真っ赤に染めるフェラーリ
その後人々は象に乗ったり猫に乗ったり思い思いの乗り物に乗る
マルスが幸福のうちに統治する
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