QBOOKSトップ

第79回詩人バトル

エントリ作品作者文字数
1妄想580
2ベストセラー桜はるらん338
3光の回折kikki438
4ゆめのゆくえ紫生297
5きみは止むことのない旋律で世界を奏でよ大覚アキラ263
6一両編成Tsu-Yo151
7人の心に飛び込むとき。鴻巣だりや733
8ロンドンコーリングぶるぶる☆どっぐちゃん797
9殲滅のシトノモトショウ405
101+1=21CB52
11しおり 麻葉219
12闇より深き風を見たかヨケマキル625
13穴田歯科の稲井先生空人377




 


 ■バトル結果発表
 ※投票受付は終了しました。




掲載ミス、送信時の文字化けなどございましたらご連絡ください。
その他のバトル開始後の訂正・修正は受け付けません。
あなたが選ぶチャンピオン。お気に入りの1作品に感想票をプレゼントしましょう。

それぞれの作品の最後にある「感想箱へ」ボタンを押すと、
その作品への投票ページに進みます (Java-script機能使用) 。
ブラウザの種類や設定によっては、ボタンがお使いになれません。
その場合はこちらから投票ください
感想箱




エントリ1  妄想    双



言葉に出来ぬ苦しみ、憎悪。
叶うことの無い願いなのだろうか。私の言葉は届かないのか。
血で血を洗うこの戦場では、意味はないのか。

「邪魔だ」振り下ろされる剣。

「邪魔をしないで!」振り上げる短刀。

「退け!」退けない意味がそこにある。

「退くのは貴方!」隻腕であろうと、抗う。

例えこの身が焼かれ爛れ、腐敗し、腐り落ちようと構わない。
すべては御国の為に。この身、この力、この魂、この理念。全て。

既に数多の人は死に、故郷で待つ者へと慟哭しては生を終える。
無情な刃は、人を嘲笑うかの如く血で血を洗う。

「御国の為に!御国の為に!」左肩から血をだらだらと流す。


何度目かの戦は終わり、私は帰ってきた。
戦死することなく戻ってこれたのだ。
家族が、夫が、子が待っている!早く、早く会いたい!

「ただいま!」がらんとした屋内。

誰もおらず、赤黒く煌く室内。
既に遅く、そこだけ時に取り残されていた。

嗚咽。吐血。嘔吐。
誰も守れなかった。誰も助けられなかった。
なら私は、なんのために戦った。お国の為?否!家族の為!

なれば残すもの等有らず!

血で汚れた短刀は、再び血で洗われる。
奪い去った命は、また新たな命を奪い去る。
どくん、どくん。

「おかえりなさい」
霞む視界に、遠ざかる鼓膜に最後に見え聞こえしたものは
家族の笑顔、そして温かな声。

ああなんだ、いつでも会えたじゃないの。


「ただいま」

意識は、捥がれていった。





エントリ2  ベストセラー    桜はるらん


今日も青空の下で戦争は続き
乾いた風が死体をまたいでゆく
その匂いが市場へ染みつかないうちに
トラックは大急ぎで遺体を積み上げ
十両編成の貨物列車へと運び去る

戦争の無い国から来た女性カメラマンは
僕たちの国の戦争の悲惨さを伝える為に
毎日死体をジグザグに歩き
夢中でシャッターを切る
自分の命がココで終わってもいい、と

彼女は生きている僕たちには
カメラのシャッターを切らない
死体を撮ることが戦争を写すことだと
ときおり彼女の肩を銃弾がかすめ
ある日とうとう彼女は息絶える

彼女の報道写真は遺稿集として発売され
世界各地でベストセラーとなり
遺体を運ぶ十両編成の貨物列車は
それからほどなくして
一両編成の貨物列車になった

遠い戦争の無い国で
僕たちの国の戦争は
今日も誰かの手によってめくられ
君の手で写真集は閉じられる
ベストセラーが終わるその日まで






エントリ3  光の回折    kikki


庭に舞うチンダルブルーの鱗粉が日に灼かれて
ちりちり して
なんだか今日は風がうるさいなあ

小さい頃の家の庭にも
同じのが飛んでいて
つかまえようとしてもひらひら
ひらひらと

あの頃は
特別な言葉の羅列が目の前に悲鳴のようにつんざいては
立ち消えて
そしていつも空が重たくてしかたがなかった
ぬいぐるみの転がる路上にネオンの光差していて
どうしようもなくて走り出して
歩道橋のやさしさと雑音のやさしさに
煙と一緒に溶けていたっけ

恥ずかしい思い出ばかりだよ
マンホールに頭ぶつけてたんこぶできたり
ランドセルを右肩だけでしょってみたり
道に落ちてたドッグフードを食べてみたりね
あれはあんまりおいしくなかったな

年月は歌うように
眼の右上と左上にちかちかと点滅して
空しさは苦笑いに変わり
今は穏やかに

そしていつかゆっくりと忘れていって
それでも悲しくはないのだろう
重かったはずの空を見たりマンホールを見たり歩道橋を見たりして
少しだけ思い出したりして
笑ったり嘆いたりもして

そして蝶はいつまでも
飽きもせずに庭を旋回して いて








エントリ4  ゆめのゆくえ
    紫生


ゆめはうめちゃった
いうこときかないからうめちゃった
ほおっておいたら
めがでてふくらんで
こなまいきにもはながさいた

ものはためしにうちあげた
ゆめのはなをうちあげた
ゆめのともだち
エゴとやらといっしょにね

するとそいつはあんのじょう
スペースデブリになりくさり
そらをよごしてすましがお

あげくのはてに
ブラックホールにのみこまれ
ホワイトホールにうまれでて
またぞろちきゅうにふってきて

やっぱりあおいあおすぎる
だれかさんのゆめになり
いうこときかないゆめになり
ききわけないからうめられちゃった

それでもめがでてふくらんで
はなびみたいなはなさかせ
よぞらにはじけてりゅうせいぐん

やれやれ

まただれかの
ゆめになっちゃうつもりだね





エントリ5  きみは止むことのない旋律で世界を奏でよ    大覚アキラ


きみは旋律だ
最初の旋律であり
最後の旋律そのものだ
目を閉じて思い描く光り輝く十字架だ
書き尽された全ての文字を初期化する黙示録だ
星間を行き来するめくるめく通信だ
都市を跳梁するしなやかな形を持った音楽だ
幾千万の朝と夜を超えて現在に屹立する鋼鉄の精子だ

宇宙がある
きみのなかに宇宙がある

きみは言葉を捨てて荒野へと歩き出せ
襤褸さえも纏わぬ身体ひとつで世界と対峙せよ
きみの中にある宇宙を旋律にせよ
言葉ではなく旋律そのものになって世界を奏でよ

きみは旋律だ
最初の旋律であり
最後の旋律そのものだ
そして決して止むことのない旋律だ

それこそがきみの詩だ





エントリ6  一両編成    Tsu-Yo


戦争のあとにはいつも
殺されなかった死体が転がっている
それが君の言うところの
正しさなのだろう

ぱたりと本を閉じる
車窓の外へと目を移せば
淡い色の田畑が広がっている

「次の列車は一両編成で運行しています」
という駅のアナウンスが
唐突に頭の中で甦った
いったいどうすれば
たった一つだけのものを
上手に編成できるというのか





エントリ7  人の心に飛び込むとき。    鴻巣だりや


 宵やみがひび割れると、虫の音が一斉に泣き止み、風の声さえも消え失せる、
 すると、ひび割れた裂け目から獣のうめき声のようなものが響きわたる。 
 オヤッと思い耳を欹てると、それは野郎の小さな怒鳴り声。
 

 言葉として、届かないものだから、何を怒鳴っているのか気になる。
 闇の中へと入ろうか?
 それとも無視しようか?
 すると、夜空に浮かぶ満月が私を照らした。
 まだ闇の中を歩く気にはなれないが
 そう言うと、
 満月は笑っていた。


 男は何を怒鳴っているのか。
 気になって仕方がない。
 でも、誰なのか分からないから
 相手にしない方がいいかも。


 無視は不安を呼ぶ。
 不安は恐怖を生む。
 恐怖は偽の強気を呼ぶ、
 だから
 再び無視した。
 だが、後味の悪さだけが残る。
 

 すると
 満月がひょっこりと現れて
 お供します。
 そういうが、
 偽の強さが傲慢となり
 いいです
 そう言ったが、
 満月に背中を押された。


 闇夜に独り捨てられた。
 肝心の満月はと思い、天を仰いだが
 いやしない。
 騙されたな!
 そう、叫ぶと
 満月が現れて
 お前は供は要らないよ
 そう言ったはずだ、
 確かにそうだが
 甘えたいのに甘えられない:
 天の邪鬼のムシが体の中を勝手に這いずり回る。
 ジレンマが、その後を追う。
 でも
 でも
 でも
 甘えられない。
 そう叫んだら
 満月の眼から
 涙が溢れだしていた。
 

 満月はでかすぎ。
 涙も半端じゃない。
 一粒が
 一時間に五十ミリ以上の降水になり、
 歩くのもやっと
 でも、泣くなとは言えなかった、
 だって
 私の為に泣いているのだから。


 満月の涙が少し勇気となって、闇の中を一歩だけ足が進んだ。
 二歩めは
 中々、進めない。
 愚図っていると
 涙が止まった。
 そして満月が目の前に降りてきた。


 






エントリ8  ロンドンコーリング    ぶるぶる☆どっぐちゃん


黒大使エドワードがクロスボウ部隊へと放つ長弓
物凄いスピード
物凄いスピードのプジョー
アスファルトに激突し大破する
真っ赤なカケラ。

ばらばらに ばらばらに

長弓の突き立ったセントエドワード聖堂
長弓の突き立ったロンドンコーリング


長弓はフランスを通り抜けイタリアへ



(これがかの有名なクレシーの戦いである。フランス騎兵の死者は千五百五十名。これに対してイギリス兵の被害は微々たるもので済んだ。
なるほどフランス騎兵の勇敢さは十六回も突撃を繰り返したことでも解る。しかしぬかるんだ地面。そして降り注ぐクロスヤード・シャフトの雨。この場合勇敢さは何の助けにもならない。
ジェノバのクロスボウ部隊もその点を指摘し、追撃を終えたばかりてみんなへとへとではないか、と説得したにもかかわらず「どけいっクズども!」と味方のクロスボウ部隊を蹄にかけ、イギリス軍めがけてフランス騎兵は突撃を繰り返す)


ジョー・ストラマーに会いに行く
ピストルには弾が入っていなかった
十字架が崩れ落ちて十字架になる

「電子顕微鏡を使って、卵子の中に十字架を入れたら、どうなるだろう?」

ジョー・ストラマーは笑う

「電子顕微鏡を使って、卵子の中に十字架を入れたら、やっぱり、問題になるのかな。倫理の問題があるのかな。神の領域とかの話になるのかな」

ジョー・ストラマーは笑う

ハウリングが続いている
ハウリング。
どこのアンプだろう
フェンダー? マーシャル? ジャズコーラス?(でもどこのアンプだって良いんだ)
ジャズコーラスのプリントされたTシャツ
あれはどこへ行ったかな。
「ハウリングにメロディが無いの奇跡なの?」
(水晶振動子とは水晶の圧電効果を利用して高い精度の周波数の発振を起こす受動素子の一つ。クォーツ時計、無線通信、コンピュータなどありとあらゆる現代エレクトロニクスには欠かせない部品である)


長弓の突き立ったセントエドワード聖堂
長弓の突き立ったロンドンコーリング






エントリ9  殲滅のシ    トノモトショウ


これは詩ではない
さあ否定しろ



月食の二時だった
俺は商店街にて猫を撃ち
僕は自宅で母親を刺した
大きく裂けた腹から美しい臓物が
一つ、二つと零れ落ち
掌の上でいじらしく輝いて
死のイメエジを具現化させる
俺はあと七匹の猫を殺し
僕は十四人目の母親を抱いた
ビラビラが赤く濡れている
その傍らにはリアル
色褪せた私のリアル
精肉屋と文具屋に挟まれた路地裏で
女の肢体が放置されたまま
ゆっくりと腐乱していく
似たような映画を観たような気がした
俺は思い出そうとして
僕は知らないふりをした
月食がじわじわと終わろうとして
世界が再び取り戻されようとして
何もかもが嘘のヴェールに覆われて
誰も彼もが感情をゲロのように吐き出して
ふざけた文字列が蔓延する
子供の頃に貰った古い水槽と
奇形の金魚を飼う夢
俺は商店街にてサーモスタットを買い
僕は自宅にて十五人目の母親の口内に射精した
月の輪郭はまだ不安定だ
私は全てのものに「シ」という名前を与え
世界から真っ先に飛び降りた





エントリ10  1+1=    21CB


ワンダーライフ

       

  
     

ハッピーエンド


         

         



クソクラエ。








エントリ11  しおり     麻葉



落ち葉が転がされるような音がした
背中の方から小さく
本当に小さく

蝉の翅が1枚
黒くて少し大きめの蟻に運ばれて
あぁ でもよく見ると
確かにそれは
音だけでなく
色や形まで
まるで枯葉のようではないか
しかし 見たこともないほどの大きな
羽虫のようにも思えて

風が吹くたびに左右に
倒れる蟻の餌

最後の日である
最後の頑張りだろうか
最後の豪華な食事であろうか

強めの風が吹き
働き者は
仕事と報酬に足を絡ませながら
飛んでいった


そういえば終わりではなかった
今日は金曜日である









エントリ12  闇より深き風を見たか    ヨケマキル


さよならも言わない
2日前の灰色の病室で
乞食のような母は死に
ありがとうは言わない

マーブリングされた曇り空に
ランドマークタワーが巨大な墓石のように浮かぶ

いつか桜木町で見た両手両足の無い傷痍軍人の
墓であるのか



八月
赤ちゃんポストで素数蝉が発狂を開始し
漏れ出した放射能と絶叫するUVレイ

阪神淡路では再びカタストロフィーが行われる


虐げられし者たちの
あの肌膚の美しさよ
差別を被りし人々のエロスよ
あの藍より青き瞳の翠玉よ


屋上
ランドマークタワーはすでに半分ほど崩れ落ちていて
医師が私に
「お母様の解剖をやらせて頂きたいのですが」
と言ったような気がする


闇の始まり

「手術は散々やったから、もう体を切られるのは嫌だ」
いつか母が言っていた言葉が
吹奏楽部の物騒な音階に乗る


いじめ自殺事件で憤っていた人たちは
政治家の発言に腹を立てていた人たちは
食品会社の偽装事件に怒っていた人たちは
子供たちが事件や事故に巻き込まれて悲しんでいた人たちは
どこへ行ってしまったんでしょうね、母さん


「解剖どうぞよろしくお願いします」
と言ったような気がする


砂埃とチェインソーの音が
町中を覆い
夏を白くする


ダーウィンとヒポクラテスとダ・ヴィンチとモーツァルトは
実は架空の人物で
ある国のベーチェット病患者の妄想である




世界が一旦終わり
本当の意味での復讐が始まる時
マスコミュニケーションはすべての情報操作を放棄し

我々はその時初めて闇より深き風を見るのだ




曖昧で楽観的未来の終わり





エントリ13  穴田歯科の稲井先生    空人


穴田歯科の稲井先生は
歯医者なのに
いつも診察に来る女の子を口説いている

わたしが
男の人に口のなかを見られるなんて 恥ずかしいわ
と 言うと
それは恋人にもかい?
と 聞きなおす
わたしは
いいえ 恋人なら別です
と 言うと
そうか それじゃあ いまから恋人になろう
なんて言うから
わたしはよけいに恥ずかしくなってしまって
うつむいていると
僕にはあなたしかいないんだ と
いつもの決まり文句(らしい)をささやくのです

穴田歯科の稲井先生は
歯医者なのに
ときどきやってくる 好みじゃない女の子には
恋愛相談に 乗ってあげているらしい
聞いた話では
初恋でおなかが痛くて死にそうだという女の子に
メスやスパチュラをカチャカチャさせながら
器具類に注意 器具類に注意
と 何度も繰り返してささやくのです

先生?
そんなことしていないで
早く治療してあげてくださいね
あしたはわたしが治療してもらう番なんですから