QBOOKSトップ

第85回詩人バトル

エントリ作品作者文字数
1真夜中に不可思議な少年339
2きさらぎ やよい3737☆★127
3UTU紫生1430
4淡雪葉月みか569
5アンダーカバー大覚アキラ529
6信仰トノモトショウ897
7絶対空人119
8サクラ シンプレックスイグチユウイチ240
9いろいろな街の風景霧一タカシ325
10桜色のトンネルで桜はるらん※データ無
11そうなんだってさヨケマキル554
12再ポップ宣言歌羽深空929
13トレーサーぶるぶる☆どっぐちゃん1268




 


 ■バトル結果発表
 ※投票受付は終了しました。




掲載ミス、送信時の文字化けなどございましたらご連絡ください。
その他のバトル開始後の訂正・修正は受け付けません。
あなたが選ぶチャンピオン。お気に入りの1作品に感想票をプレゼントしましょう。

それぞれの作品の最後にある「感想箱へ」ボタンを押すと、
その作品への投票ページに進みます (Java-script機能使用) 。
ブラウザの種類や設定によっては、ボタンがお使いになれません。
その場合はこちらから投票ください
感想箱




エントリ1  真夜中に    不可思議な少年


真夜中に
ドクターペッパーを買った

コカコーラの自販機に
表づら大人しげに収まりはしたが
裏(^.^)は相変わらずの自己主張

誰かさんに教えてもらったとおり
振ってみようか・・・
ちょっとだけ

でも
POMJUICEの愛媛みかん旬ストレートを
袖にしてまで買ったのだから
今夜は君を生まれたままの姿で
愉しもう

その白檀に喩えられた芳しきかほりが
20種類(以上)という危ういバランスの上に
成るフレーバーの芸術を

それは漢方薬の構成要素のように
一つでも欠けると既に君ではないという・・・
炭酸の微妙な圧と
適度な冷却をも織り込んだ
香りのタペストリー

そんな無言の情熱を持つ君の口元を
親指で塞いで激しく揺さぶるなんてことが
できるわけなど無かったんだ

何十年かぶりに飲み干した君は
胸の下のほうから込み上げる
熱い思いを滾らせて迸った

burp






作者付記:(^.^)MIXIのお友達の日記へカキコした即興のイタズラの詩より





エントリ2  きさらぎ やよい    3737☆★


きさらぎ やよい

はらえも 過ぎて
まめ 蒔いて
春が来たよと うぐゐすが
つがいで 梅ヶ枝

きさらぎ やよい

やぁ よいとこ 来なすった
やぁ よいとこ 来なすった

お茶 点て
菓子 喰みて

梅ヶ枝 ちりて
桃咲き 櫻

とく 過ぎゆくな
とく ゆくな

きさらぎ やよい

縁側の春





エントリ3  UTU    紫生


鬱です

なんにもする気になれません

なんだかとてもかなしいです
わけもないのにかなしいです

べつにうらみはないけれど
うかばれない幽霊のよう
ひゅうるりこごえたここちです

年末はたいそう忙しくありましたから
その反動でそこぬけに無気力です

おそらく
セロトニンとかトリプトファンとかノルアドレナリンとかメラトニンとか
なにやら、そういったちょこざいなネーミングの
脳内物質やら栄養素やらがたらないのかもしれません
たとえそうだとしてもこのかなしみはあんまりです

かなしいばかりに鬱です
なにをするのもだるいです

なんだかとても疲れます
休んでいるのに疲れます
まるで子泣きじじいにとりつかれたかのような
ずぶずぶと沈みこんでゆく、底なしの倦怠
こころもからだも重苦しくてたまりません

こどものころからどちらかといえば真面目な方でありましたから
限度をこえてがんばるとみんなぜんぶどうでもよくなります

おそらく
キューピットの矢だとか迷路みたいなお話だとかくらくらきちゃう大自然だとか
人類に必要な、そういったきらきらがたらないのかもしれません
たとえそうだとしてもこのだるだるは拷問です

もはやかつてのきらきらは
魔法のとけたセピア調のオーロラで、笑わない泣かないモノクロの太陽で
歌わない踊らない真昼のお人形に偽装中の仮死状態ですし
息をするのでさえ疲れるのですからきらきら探しなどもってのほかにちがいなく
いっそ息をするのをやめてしまえば楽かとおもい
やめてみたりもするのですが、それはやっぱりくるしいです

鬱はどこからやってくるのでしょう
自分の胸に問いかけた

が、息をするのでせいいっぱいなのですからよく考えがまとまりません
せいぜいヒトミはどこへいったのでしょう、くらいしか思いつきません

とつぜんですが
鬱は写らないし感染らないのでこわくないです
心霊写真や未知の病原菌よりぜんぜんこわくないです

ふっふっふっふふふふふふふふ怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖怖……

……嗚呼

……ときどき意識がぼーっとして思考が混線します

ええと……
鬱は健康体と地続きですから
ちっともこわくなんかないのです
躁と鬱もコインの表と裏
、などではなくて日本とブラジル、まあるい地球、
まあるい宇宙、まあるい世界、まあるく行こうぜ世界一周鬱の旅
、なわけですから なかなかどうして捨てたものでもありません

鬱発、躁行きのユーロスターで旅をしている気分です

そういえば、かつてわたしは旅人でした
ノラ犬を尾行して見知らぬ町までてくてくてくてく……
トイショップのディスプレイに誘惑されてふらふらふらふら……
水鉄砲をぶっぱなし
バービードールの首や手足をブラブラにするような
自由きままな旅人でした、自由で無邪気なやっかい者

自由で無邪気な ボニー&クライド

俺たちに明日はない

明日のない旅ってやつにはシビレます

このケチくさい脳みそから、ドーパミンとかβエンドルフィンとか
イイ感じの脳内モルヒネがわんさかわいてきそうです、もりもり悪さをできそうです

わたしときたら相棒いないし、デビルじゃないし、スピードなんかぜんぜんない
それでも明日のない逃亡者気分で刹那を呼吸し今というドットをゾンビみたいにずるずると前進する
うん、べつにうらみはないけどね

ゾンビにはゾンビの目線があって、ボニーにはボニーの視線があって、わたしにはわたしの視界があって、あてのないトランスファーに向かってよろよろとにじりよる死にかけで鬱のわたしは鬱を打って鬱を撃つラリホーなスナイパー

BANG!

一秒前のわたしは死んじゃいました





エントリ4  淡雪
    葉月みか


少年のように透明で淋しげな双眸と
柔らかなまま心閉ざした物腰
誠実という名の手錠をはめた華奢な腕
その凡てを愛らしく思った
年下



      *

思考が停止する程に冷え切った二月
薄氷の夜空に爪立てる三日月
ふたり逃げるように重ねた杯

「もう傷つきたくないから」
胡桃を囓り 呟く私
その横顔を 美しいと囁く君
「男の人は信じないの」
睫毛を伏せる
暫しの沈黙
「俺も男なんて信じてないです」
常通り 押さえた声音
「だから自分のことも信じられないです」

中 に
揺らぎ 滲み
睫毛を上げる

濁りなき眼差しも
雁字搦めの四肢も
役に立たぬ翼が生えそうな背中も
私を救うその凡てを
この手で冒してしまわぬように
白雪が誰にも踏み荒らされぬように

ごとり 刻が動き

目を逸らし 俯く君
堅く結んだ薄い唇
指でそっとなぞって
短い口づけを
猶もほどけぬなら
甘い舌先でこじ開けるだけ

「非道い」
裏切りに跪くなら
「俺だって男です」
言い逃れは全部 見逃すから
「貴女を傷つけてしまう」
その腕の手錠を外さぬまま
「だから嫌なんだ」
私を抱く術を教えてあげる

望みが願いに背くなら 何れかを殺めるまで

光が夜を蝕み始める三月
この白い肌は消え去る道行き
その肩に留まることを知らぬ淡雪

      *

少年のように透明で淋しげな双眸と
柔らかなまま心閉ざした物腰
誠実という名の手錠をはめた華奢な腕
その凡てを愛らしく思った

君は年下の男





エントリ5  アンダーカバー    大覚アキラ


- - - - - キ リ ト リ - - - - -


瞼の裏側にしか存在しない映像がある


- - - - - キ リ ト リ - - - - -


暴力が
形を伴って立ち現われようとする
その寸前の
身体中の毛穴が開くような震え

正直に言えよ
それなんだろう
結局のところ
おまえがいちばん好きなのは


- - - - - キ リ ト リ - - - - -


おれは

おまえを

想像してやる


- - - - - キ リ ト リ - - - - -


おまえが
両手と両足を地面につけて
四本足のいきものの姿で這っている姿を
想像してやる

おまえが
身体中の穴という穴すべてを
舐めまわされて悶えている姿を
想像してやる

おまえが
身体中の穴という穴すべてに
何かを突っ込まれて呻いている姿を
想像してやる


- - - - - キ リ ト リ - - - - -


そのあとで
静かに抱きしめてやりたい

言葉は要らない

やさしさも要らない

体温だけがあればいい


- - - - - キ リ ト リ - - - - -


開いたドア
おまえの肩越しに
一瞬
垣間見える幹線道路
パトカーのサイレン
霧のような雨
オーロラ
ネオン

揺れている

ずっと

幽霊みたいに


- - - - - キ リ ト リ - - - - -


液晶のディスプレイの表面を
爪で強く引っ掻いたら
蛭が這った痕のような滲みができて
いつまでも消えなかった


- - - - - キ リ ト リ - - - - -


そんなイメージで


- - - - - キ リ ト リ - - - - -





エントリ6  信仰    トノモトショウ


「天皇だってヤルことはヤッてんだぜえ、あんな顔でもさ」

僕より年下の少年が
子供の首を切断して校門に置きました
なんだかそれが悔しくて
負けたって感じがして
真夏の熱い夢の夜で
眠りました

「完全ってどういうものだと思う?」
「えらく哲学的だなあ、それは概念として?」
「いや、具体的な事物として、完全なるものとは何か?」
「まあ、普通に考えたら神とか仏とか」
「ふむ、でもそれは人それぞれの信仰心に依るだろうし、どちらかと言えば概念だよ」
「じゃあ、きっとアレだ、性器だ」

父親が不倫していました
僕は気付いていたけど知らないフリをして
母親が毎晩泣いている姿を横目で見ながら
マスターベーションを覚えたんです
とても気持ちが良い
世界はゴミだ
言うまでもなく実話だよ
詩とか関係なく実話だよ
殿元聖 14歳(当時)

で、

その頃の俺が何をしていたかっていうと
マスターベーションを覚えた少年が横目で見ている母親を毎晩泣かせている父親が不倫している女の子宮でまさに発生していたのだ
不思議だろう?
素晴らしき世界の寵児として
完全なる性器を通過しようとしていたのだ

「今まで誰もなし得なかった犯罪とは?」
「天皇を殺すこと?」
「違う、オマエあんまり歴史は得意じゃないな?」
「なんだろう、思い付かない」
「地下鉄をジャックすることさ」

その数日後
東京地下鉄に致死性の高い神経ガスが散布され
12人が死亡、5千人以上もの重軽傷者を出した
カルト宗教団体による無差別テロだということが判明し
概念として完全なる犯罪が遂に実行された
彼らが性器を信仰していたかどうかは不明だが
僕たち(俺たち)の結論は
「悪意とは最も人間らしい感情だ」という
わかりきったことで

戦後最大規模の地震が関西地方を攻撃し
「いくつもの尊い命が奪われた」と俺を堕胎したアナウンサーが言い
「皆様の辛い気持ちはよくわかります」と俺を裏切った父親が叫び
「アーメン死ね」と俺の狂った友人が歌っていた(ずっと先のことだが)

マスターベーションの概念で
ノストラダムスに祈りを捧げた日々
僕と俺は一人だけの対話の中で
より真実らしい事柄を探していた
「太陽は存在するか?」
「太陽など存在しない」
あ、これは書いたことだったかな





エントリ7  絶対    空人


絶対の同義語って 知ってる?

完全? それとも無?

絶対なんてありえない
そんなこと 当たり前だと思っていたのに
人は絶対という言葉に憧れ
絶対の存在を 何度も何度も 信じたがる

絶対の同義語って 知ってる?

この前 神さまが言ってたよ
それはエゴだって






エントリ8  サクラ シンプレックス    イグチユウイチ


三月の よく晴れた日曜日ですので
桜の花の下では やけに電波が飛び交っていました

誰もが ひとりきりで 無言で 無線で 無表情で
ときどき 花を見上げては
ただ ひたすらに 発信をおこなっていました

彼らが 無秩序に発した電波は
偶然いあわせただけの ぼくのからだを
暴力的に 何重にもつきぬけるのですが
それは 花びらひとつ 散らせぬほど無力で
風のおとにさえも なれないほどでした

そんな彼らと同じように ぼくも 桜を見上げます
三月の よく晴れた日曜日には いつも
もう あの人とは繋がっていないのだと 思い知るのです





エントリ9  いろいろな街の風景    霧一タカシ


映像を作る。
いろいろな人が会うことを知る。
その人は歌が壊れた街だということを知る。
本屋を壊す。
いろいろな人を書いていく。
書いていく映像を作る。
映像はしだいに歌のように壊れていく。
いろいろな人がその街のビルに行く。
いろいろな世界がこの街にある。
この街の世界で僕は絵を描いていく。
映像を作っていく。
お茶を飲んで僕は小説を書いていく。
いろいろな景色を覚えている。
その部屋の暖房で暖まる。
僕はいろいろな小説を書いていく。
きれいな夜空を見ながら小説の話をする。
テスラはいろいろな本を読んできた。
テスラは本について勉強している。
テスラは本について書こうと思っている。
車に乗って旅行をする。
途中で車が壊れてしまったのでタクシーに乗る。
タクシーの中で映画の本を読む。





エントリ10  桜色のトンネルで    桜はるらん


桜の花びらが
流れてゆきます
僕の町を 君の町を

明日のことなど思いもしないで
つくしの子は伸び始め
僕らはいま確かに歩いています
桜並木のトンネルを

花びらがこぼれてゆきます
僕と君が手を繋ぐ指と指のあいだに
ときおり風に揺れる君の髪にも

若い夫婦がベビーカーを押す
赤ちゃんの膝掛けの上にも
桜の花びら
ほろりほろり
落ちてゆきます

スニーカーの少女たちは
はしゃぎながら笑い転げ
ときおり立ち止まっては
グループの記念写真を撮り

おだやかな春の陽射しが
銀髪の男性のブレザーの肩に
ご婦人のレモン色の
カーディガンの袖に降り注いで

ああ
もうすぐ日が暮れますね

夕暮れの風のなか人はみな
桜並木のトンネルを折り返し
僕は何も言わずに君と
手を繋いで歩いています

道は桜のはなびらを敷きつめて
ベビーカーの赤ちゃんはもう眠りかけ

車椅子を押してくれる
息子を母親はときおり
振り返っては微笑み

夕暮れの風のなか
誰も帰ろうとはせずに

ああ
もうすぐ日が暮れますね

桜色の風が微笑む
幸せな日曜日
明日のことなど思いもしないで
つくしの子は伸び始め

花びらはこぼれてゆきます
桜色のビロードを
僕らは
流れてゆきます

桜色のトンネルを







エントリ11  そうなんだってさ    ヨケマキル


すごく小さな物音が気になって眠れなかったり
大音量の音楽をヘッドフォンで聴いてて眠ってしまったり
そうそう
昔気まぐれでド田舎の田んぼの中の一軒家に住んだ時の話は前にしたよね?
夜あまりの静けさに自分の耳鳴りがうるさくて眠れなかった
耳鼻科に通ったが治らず
仕方なく都会に帰ってきたら町の騒音で耳鳴りが聴こえなくなって
よく眠れるようになった

なんの気なしに言った一言が相手を傷つけたり
ああ悪い事言ったなあと思っていたら相手はその事を憶えてもいなかったり
いつも適当に仕事をやっている奴がたまたま大きな仕事をして出世したり
いつも真面目にやって来た奴がたった一回の失敗で職を失ったり


子供の頃嫌いな叔父さんがいた
俺がひどい虫歯でほっぺたが腫れちゃって苦しんでいる時
その俺の顔を見てその叔父さんは大笑いしたんだ
中学生の頃は新年会に来るといつも俺を横目で見るような嫌な目つきでさあ
ある時お父さんに言ったんだ
もうあの叔父さんをうちに呼ばないでくれって
お父さんはこう言った
「なに甘い事言ってんだ。
 社会に出たらなあ、もっともっと化け物みたいな奴が普通にごろごろいるんだぞ」ってね
その時は反抗して喧嘩したけど

ほんとだった

ところで知ってる?
アスファルトに咲く花は
別に強いから咲けるんじゃないって

土よりよっぽどあったかいから咲きやすいんだってさ





エントリ12  再ポップ宣言    歌羽深空


「パステルの春が るらりと歪む」

ねえねえ化け物 もどってこいよ
昔つくったカレーのうたと 旅行のうたを思い出してさ

かつて遊んだ歩道橋には みな真新しくて似ても似つかず
あの時上からこっちを見ていた すがしい兄さんならなおのこと
探せばどこかにゃいるのでしょうが 私のマナコにゃどうにもどうにも

ねえねえ場違い みとめてみろよ
狸寝入りも雲隠れだって すこしの意味すらくれなかったってさ

梶井センセの本の匂いも 獏に食われて覚えちゃいないな
泡にまみれた妄想臭も マリンの制汗剤の香りも
都会の海はあの香りのハズ 私のオハナにゃけれどもけれども

ねえねえ茨掻き おそってこいよ
花を切ってる和室でも良い コウカイしている船上でも良い

オセロの季節を見てきた私にゃ 世界の中心、元より合わず 
アクセントさえも命取りなら 浴用セージは浸けてしまおか
お高い食べ物ぐるりと囲うが 私のオクチにゃみじんもみじんも

ねえねえ化け物 もどってきてよ

ねえねえ化け物 どもってきたよ

ますます化け物 どもってどもって

どもってどもって なみだがなみだが
もどってもどって みじめなみじめだ

化け物 色の世界にあこがれ 気付かれぬように滑り込んだが
何でも身の丈ありますもんで 彼はそのまま悟ったのでした

歳には勝てない、エイジにゃ勝てない
六分の一で受粉にまわる きれいな色の けたたましく咲くバスにも勝てない
時間と痴漢と弛緩にまみれて
真綿以上のクウキに絞められ 「のん」と言われて死んでしまうわ

それでも唯一 希望と鬼謀
にやり ぐにゃり ふふん ふふん えへえへ えへへ
それでなんとか ようやく笑える

「仕掛けるつもりなんです ここに 全てと灰色の春」

ねえねえ化け物 もどってこいよ
るらりの世界を 灰色で塗れ!
人が気づくと笑い囃すわ だから歌わず小鳥に被せて

「ただいま」
「おかえり」
「なんだ来ちゃ駄目だったのか」

皮肉なほどの卑屈を許せよ
変わらないものたまには許せよ
振りかえるのだってたまには許せよ
ぜんぶ、許す
だから、許せ

ねえねえ馬鹿馬鹿 あいしてみてよ
色づく春に怯えた様子で つたない指先のばしてみりゃいい
昔つくったカレーのうたと 旅行のうたを鳴らしながらさ
さあ 高らかに
さあ のびやかに

ここなら私とうただけ、おいてる





エントリ13  トレーサー    ぶるぶる☆どっぐちゃん


見た夢は燃え上がるひまわり。燃え上がるひまわりの夢。少年は燃え上がるひまわりを抱きしめる。燃え上がる少年。
ラプラスの悪魔。
ゴッホがその前に座り、絵筆を取る。
「やあ、今日は良い天気だね」
爆撃機から降り注ぐ爆弾の爆炎のその中で、男に向かって女が言う。
「白いドレスはもう飽きちゃった」
「そうか」
「ねえ、白いドレス、あたし、飽きちゃったわ」
「ああ」
「ねえ、ブティックに行きましょう、あっちの方の通りに、ブティック街があったから」
男と女は歩き出す。爆弾の降り注ぐ荒野。爆弾の降り注ぐ日本庭園。爆弾の降り注ぐ降り注ぐ降り注ぐビルの屋上。それらを通り抜け、男と女はアルルのブティック街へ辿り着く。
「ねえ、映画、見ましょうよ」
女は気が変わったのか、看板を見上げて笑う。
「ねえ、映画、見ましょう」
「ああ」
看板には様々な映画の宣伝ポスターが描かれていた。恋人が死ぬ話。恋人が殺される話。父が死ぬ話。母が死ぬ話。妹が死ぬ話。息子が死ぬ話。娘が死ぬ話。悪魔が死ぬ話。
神に悪魔が殺される話。
「そうだな」
ブティック映画館の看板を見上げて男は言う。
爆撃機に乗った少女は虹を目指して飛ぶ。闇夜にかかる七色の光芒。そこを目指して少女たちは飛び続ける。
「痛いなあ! 脚どけてよ」
「そんなところに腕置かないで、操作出来ないじゃない!」
「ねえ、おトイレは?」
「ねえ、ご飯は? お弁当、作って来たよね?」
「あ、忘れてた」
「もうこんな白いドレス飽きちゃった!」
 少女たちは虹に向かって飛び続ける。
爆撃機の中で響き続けるファット・ボーイ・スリムの軽快なコンピュータ・ミュージック。少女の一人は後部座先の後ろのドアを開き、パンツを脱いでスカートをたくし上げ、放尿をする。荒野に雨が降り注ぐ。The rine in Spine stais minely in the pline。スペイン荒野にただ雨は降り注ぐ。
かたかたかたかた。映写機の回る音。少女たちの乗る爆撃機がスクリーンに映し出されている。スペイン荒野にただ雨は降り注ぐ。

歴史書。
歴史。
エーテル。
派手な表紙のELLジャパン。
七ページに分けて書かれた詩(生について考察および方法)。
七ページに分けて描かれた受胎告知(作者不詳)。
七ページに分けて描かれたドラムセットを運ぶ男(ロンドン・コーリング)。

じゃらじゃらとコインを吐き出すスロットマシーン。じゃらじゃら。じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら。かたかたかたかた。じゃらじゃら。じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら。もう誰も居ない、もう誰も知らない遺跡で。

悪魔は海岸線で椅子に座り、本を読んでいる。その細い足首を、打ち寄せる波に濡らして。


(「何を描いているの?」)
(「簡単なものさ、羊だよ」)
(「たくさん、描くのね」)
(「ああ、たくさん描くよ」)
(「何を描いているの?」)
(「簡単なものさ、音符だよ」)
(「たくさん、描くのね」)
(「そうでもないさ」)

悪魔は海岸線で椅子に座り、本を読んでいる。

彼の首をぎしぎしと締め付けている、金時計の、鎖。