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第86回詩人バトル

エントリ作品作者文字数
1朱のノクターン矢凪祐174
2腐った野苺大覚アキラ196
3インサイド アウト葉月みか133
4破壊トノモトショウ526
5子供は空を飛ぶ夢を見ないTsu-Yo138
6特に面白くもないある日の出来事やまなか たつや294
7パンドラの非常燈ヨケマキル183
8嘘つきkikki267




 


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エントリ1  朱のノクターン    矢凪祐


歪んだ愛というものに
どうにか形を与えようと
貴方はまた、その実を齧る

妄想ばかりで
目を覚まさない私
禁断の味も
私には効き目が無いのよ

もう解っている筈でしょう
虚構 虚耗 虚無
渾ては存在しない

貴方が此処にいる理由を
私が此処にいる理由を
誰も知らない

ただ

腐った愛というものが
どうにか繋ぎ止めている
世界はまだ、回り続けてる

その薔薇をちょうだい
貴方だけに教えてあげる





エントリ2  腐った野苺    大覚アキラ


ぼくは
腐った野苺を食べてしまったから

おかあさん

さよならです

片耳のちぎれた野良犬が
悲しい目でぼくを見つめているよ

灰色に濁った
その目の奥から覗き見る世界は
どんな風に見えるんだい

降り注ぐ
溶けるような緑の光を
身体中に浴びながら
ぼくは
喉笛を掻きむしりながら
水たまりの中を転げまわる

おかあさん

そういえば
いつか
光について
語り合ったことがありましたね

いったい
どんな話をしたのか
もう
すっかり忘れてしまったけれど





エントリ3  インサイド アウト    葉月みか


暴力的なセックスを描く人は
ベッドの上ではとても優しい
ヘタしたら
臆病で繊細で泣き虫で
ただ裸で抱き合っていられれば
ただ私の胸で眠れれば
それでいい
なんて
言ったりする

だから
あなたが掻き鳴らす歌
あなたが紡ぐ詩
インサイド アウト
何もかも 愛おしい


インサイド アウト
そう 何もかも





エントリ4  破壊
    トノモトショウ


「アメリカでテロが起こった瞬間、セックス真っ最中だった男女は無数にいる」

僕が初めて本物の女性器を目撃したのは
まだ寒さの残る四月半ばの
いびつな空気が香る部屋の
薄汚れた斑のシーツの上の
発熱した両足の間、だった
殿元聖 19歳(当時)

その裂け目はうっすらと濡れ
暗い穴の向こうからは何かが産まれる時の
あの独特のキーで鳴る
あの不快な声が聞こえ
俺は自らのペニスで耳を塞いだ
まるで同じ

※その頃の僕は
夜や自身の闇を透過させるような
詩(と呼ぶべきかどうか今でもわからないが)
を書くことに没頭していた

「詩人の条件とは何か?」
「うーん、考えたこともないなあ」
「それだよ、考えない人だよ」
「ロダンだっけ?」
「全く違うけど、的を射てる気もする」

インターネットで知り合った何人かの女性が
僕の詩を好きだと言い
僕自身の闇を好きだと言い
結果的にそのうちの何人かと寝た
顔も知らずに会って
本当の名前も知らずに抱き合って
知ったような気分になる
という快楽
積み重ねては砕け散るような

「知ってるか?性的な欲求はそのまま死の欲求に直結するんだと」
「生きてるって感じがするけどなあ」
「まやかしだ」
「幻想かあ、ところでそれって詩の話?」

燃え盛る二本のビルから
真っ黒い煙が濛々と立ち上るヴィジョン
遠い国の話だ





エントリ5  子供は空を飛ぶ夢を見ない    Tsu-Yo


子供の頃は
大人になったら
お嫁さんになりたいと思っていました
けれど、大人になった私は
気が付くとお母さんになっていました
子供の頃の夢は叶わないもの
空を飛ぶ夢を見なくなったときに
私の子供時代は終わりました
なんて、ごめんなさい
幼い嘘をつかせたのは
子供の私に憧れる
私のなかの子供の私です





エントリ6  特に面白くもないある日の出来事    やまなか たつや


退屈だ
あっちもこっちもワイドショー
何か事件があったらしい
見知らぬ国で誰かが死んだ
知ってる駅で誰かが死んだ
おどろおどろしい音楽と
マイクを持つ女の真面目くさった顔
まるで映画みたいだ まるで映画みたいだ まるで映画みたいだ

今日はレディースデーだから
シネコンに行った
手がもげた血まみれの男が
喘ぎながら助けを求めてる
ポップコーンをつまみながらなんとなく見ていた
特に面白くもなかったが1500円払った
グショリ
と何かの音がする
ドサリ
と何かの音がする
まるで事件みたいだ まるで事件みたいだ まるで事件みたいだ

まるで映画みたいだ まるで映画みたいだ まるで映画みたいだ
まるで事件みたいだ まるで事件みたいだ

まるで……





エントリ7  パンドラの非常燈    ヨケマキル


おのれ ひっくりともして見よ

「パンドラの非常燈」
         --ヨケマキル--

日続ぎて罪わざわいの ひたひたる

飛弾くぐるる 非ツートンの険艱な道々

非常燈のピッチカート明滅の下

さわがしく番う人々

高きユミハリ月に満ちるゼウスの伝言
物ミナ幻化ナリ

霧の紛

幻人の濡れ髪は風にかわらぎ

原体験のまほろば

春の先触れ

四海波静か

高き高きニビイロ空に満ち満ちるジュピターの遺言
物ミナ××××






エントリ8  嘘つき    kikki


月をしばらく凝視して
まぶたを閉じると
月は暗闇の中で影になって
そしてすぐに溶けていなくなった

街を歩けば骨と骨がぶつかりあって
地面がこすれて悲鳴を上げて

無意味な国に生まれて
無意味な生に意味があると偽る大人たち

夜中眠れなくて
虫の死骸を手のひらに転がしながら
夜は明けて
落下しかけた月は青空に逃げる
墓場のすべてに意味はない

事実には何の意味もない

外へと繰り出せばあまたに散らばる
無表情な人人の塔
例え重力すら嘘だったとしても
僕の人生はさほど変わらなかったろうね
無意味な国に生まれて
無意味な生に意味があるらしい
大人は嘘つきで
ひどくロマンチックだと思う