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第94回詩人バトル

エントリ作品作者文字数
1ポリエチレン21CB382
2Depression乱坊333
3頭上の鐘の音トノモトショウ374
4小名木川、夕暮れ西山海音396
5舞踏U花植木1
6空間桜はるらん36
7永遠の10分柿坂 鞠127
8ヒヨワな月宮邊シソラ559
9人生は素晴らしい 世界は美しいヨケマキル743
10観光大覚アキラ203
11草食ロックイグチユウイチ258
12ラ パエーリャ パラ マニャーナTsu-Yo498
13春一番葉月みか667




 


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詩人バトル読書会
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エントリ1  ポリエチレン    21CB


君の凄さを証明しようと
たくさん言葉を並べてみたけど
嘘八百にしかならなかったから
破いた先のポリエチレン。

ポリエチレンには全てがあって
ペットボトルとしけった柿ピー
腐った納豆破けたTシャツ
ティッシュに包まる乾いた未来。

君が好きだとおもっていたけど
実はあの子も気になっている
夕べ電話があったんだけど
今の僕には暖かか過ぎた。

女々しい気持ちもポリエチレンに
投げ捨て壊れた携帯電話
さよなら僕のしがらみと
君と歩いたキャンドルナイト。

全てを受け入れポリエチレンは
ネクタイ締めた男が片手に
所定の場所にそっと置き
燃えるゴミの日何時もの8時。

しがらみ無くした男が一人
トボトボ寂しく家路に着いた
玄関前にがポリエチレンが
分別しろと張り紙一つ。

全てを持って帰ってきたんだ
ティッシュに包まる乾いた未来
嘘八百の君の凄さと
腐った納豆破けたTシャツ。

お帰り僕のポリエチレン
ただいま僕のかすかな燃えカス。






エントリ2  Depression    乱坊


新型うつ病が溢れてる
何を考えても、手応えがない
思考に現実感がなくなってどれくらい経つのだろう
ひとの生死に接し一過性の息を吹き返し、
太陽から逃避する
諦観は段階的だ

目の前で人形劇が繰り広げられている
最後に残った自分への涙が、一昨日涸れた
いつから仕事が暇つぶしになったのだろう
有名人の転落を見て一喜一憂し、
オバマに嘔吐する
明日が嫌だ

どっちにしても死ぬんだよね
野望とか欲望って何だったっけ
君と離れてどれくらい経つのだろう
株価の暴落に救われて相対的に胸を撫で下ろし、
自殺企図に微笑する
救世主はいない

後輩が説教たれている
自暴自棄ってこんなに虚しかったっけ
21世紀になってどれだけ経ったのだろう
サバイバルゲームに疲労しし少女の無邪気に救われて、
平和憲法に乾杯する
新型うつ病が溢れてる






エントリ3  頭上の鐘の音    トノモトショウ


少年はまだ少年で
世界の全ての虚飾性に気付くはずもなく



The sound of bell above his head



ある晴れた日曜の午後
教会で殺人事件が起きたという噂で
花屋の大きなおばさんも
靴屋の小さなおじさんも
みんなが揃って口々に
探偵気取りの推理を始めた
「殺されたのはシスターで」
「いや、死んでいたのは犬だった」
「殺したのは八百屋の伜で」
「いや、キリスト様の天罰だろう」
「凶器はバールのようなもので」
「いや、散弾銃でぐちゃぐちゃだ」
「動機は保険金目当てで」
「いや、むしゃくしゃしてやったのさ」
どうにも収拾がつかないもので
鼻息と拳骨が渦巻いて
喧騒と暴力は言い訳じみて
……
ただ少年が一つだけ確信したのは
花屋の大きなおばさんが
靴屋の小さなおじさんに
恋をしているということだけで

ところで事件の真相は
殺されたのは母親で
殺したのは少年で
凶器はナイフで
動機はなし

それだけのこと
鐘が鳴って終わり





エントリ4  小名木川、夕暮れ
    西山海音


もうゆきかわないけれど
水は船を記憶しているんだ
流れて新しくなってしまったと
みんな思ってるけれど
ほんとうはなんにもかわらない

橋の上をあるいた幼な児は
ずいぶんと大きくなってから
ここに帰ってきて
あの日とおなじにおいをかぐ

夕暮れのにおいだ
すこし塩気がまじって
街が海とつながる時

街の名前がかわっても
地下鉄が一本ふえても
このにおいはかえられない
1000年前から
かわらないにおい
きっと1000年後にも

街がぜんぶ燃えた日に
この川は死であふれました
かなしみと、いたみ
血と涙
水はぜんぶおぼえている
かわらないんだ
なんにもかわらない

なくしたものたちが
流れてくるのを
ぼくは待ってる
あの日々になくしたものたちが
水に抱かれ戻ってくるのを

包まれていた記憶
ぼくがさかなだったころ
水は世界のぜんぶでした
さかなであることをやめたって
ぼくはずっと水の子どもです

いつか
この街をながれる水になるよ
1000年のうちに
きっと
ながれる水になる








エントリ5  舞踏U花    植木








エントリ6  空間    桜はるらん






そこにはちゃんと、

私の席が用意されていた

そのことを私は

とても嬉しく思った










エントリ7  永遠の10分    柿坂 鞠



どこにいくの?

置いてかないで

お願い

このまま震えながら

待つしかないの?

愛された日々

ギュッってしてくれた夜

忘れない

忘れられない

寒いよ

助けて

あなたしか

いなかった

それなのに







・・・5分が1時間に感じた






10分が永遠に感じた

















たった10分と人間はいう

でも毎回が

永遠の孤独




作者付記:寒いこの季節、外に繋がれて買い物を待たされる
散歩途中の犬の心を描いてみました。






エントリ8  ヒヨワな月    宮邊シソラ


ワタシは月 ヒヨワな月
アナタの回りを グルグル回っているだけ
見えないつながりが切れるなら
ワタシを宇宙のカナタに 突き飛ばして
近づくこともできない
ワタシは月 ヒヨワな月

ワタシとアナタの間にあるもの
じつは何もなかったことに気づいた

恋人でもなく 友人でもなく
言ってみれば ただの知り合い
なのに まるで磁石のように
ときに近づき ときに離れ
お互いを 一瞬だけ結びつける
キズナというものすら なく

ただ あるとしたら
あの夜 アナタが残していった
荒い皮膚の感触だけ
その記憶だけを抱いて
ワタシはいったい何年の時を過ごしたのだろう

自ら輝くこともなく
誰かといっしょにいて
はじめて存在できる
このワタシは
まるで月 ヒヨワな月
見えない力に逆らえない ヒヨワな月

やさしい微笑みを投げかけられるだけで
ワタシはしあわせを感じる
まだ 大丈夫なのかな

小さく期待したりもする

でも アナタとワタシの間には
何もないのよ
信じられるものは 何もないのよ
ワタシがアナタに与えられるものは
小さな力で
アナタの海に少しだけ波風を立たせることくらい

ワタシは月 ヒヨワな月
アナタの回りを グルグル回っているだけ
見えないつながりが切れるなら
ワタシを宇宙のカナタに 突き飛ばして

きっとワタシがいなくなっても
アナタは いままでと同じように
クルクルと回りつづけているのかな
そうなのかな






エントリ9  人生は素晴らしい 世界は美しい    ヨケマキル


人生は素晴らしく
世界は美しい


これは小学校5・6年の時の担任の先生が
担任になったその日から卒業の日まで
口癖のように繰り返し言ってきた言葉だ

正確には
人生には素晴らしい出来事や出会いがたくさんあり
世界は美しい物に満ちあふれている

さらに正確には
言葉の合間に「ね」が入るのだが
そんな事はどうでもいい

とにかく彼はこの言葉を2年間僕たちに言い続けた



同じクラスに沙崎くんという
いじめられっ子がいた
クラスのいじめっ子連中に金を巻き上げられたり
思いつくありとあらゆる典型的ないじめを
沙崎くんは2年間受け続けていた



人生は素晴らしく
世界は美しい



ある日沙崎くんの両親が
借金苦で自殺した
沙崎くんはいじめっ子に渡す金を両親の財布から盗んでいたが
まさかそのせいで破産したというわけでもないだろうが

とにかく沙崎くんは
家族を失った



人生は素晴らしく
世界は美しい



中学生になり
いじめから解放されると思っていたら
運悪く
そいつらと沙崎くんは同じ中学のしかも同じクラスや隣のクラスになった


1学期の期末テストの直前
沙崎くんは住んでいた親戚の家の近くの団地の外階段から
飛び降りて死んだ



人生は素晴らしく
世界は美しい



彼のお葬式の時

小学校から彼と同じクラスだった女の子が僕に
「渡す前に死んじゃったよ」
と言って彼宛のラブレターを見せてくれた



人生は素晴らしく
世界は美しい




数年後
彼が飛び降りた場所に
来てみた
とても天気のいい初秋の夕暮れで
遠くに富士山のシルエットが
くっきりと見えた


美しかった


彼が死んだ時
ここからは何が見えたのか

この季節だったら
彼は死ななかったかな



人生は素晴らしく
世界は美しい


そもそも風景なんかを見たり
季節を感じたり
同級生の女の子を気にしたりする
余裕もなかったのか



人生は素晴らしく
世界は美しい
この言葉が真実なのか
クソなのか
今はまだ知らない






エントリ10  観光    大覚アキラ


何しに来た?
って
ぶっきらぼうに
訊かれて

機械みたいに
サイトシーイング
って応える

観光と書いて
サイトシーイング

笑える

遠い遠いところから
光を観にきました
わたしたち

ウォッチングライト
そう
光を観に来たの

なんちゃって



空が
ぶち抜けてるね

風が
キラメキまくってるね

雨が
まばゆすぎるね

虹が
ありえないね



さて
これでもう
気が済んだよね

どこか
遠いところで
きみは
きみの幸せを
見つけなさい

こんな
くだらないものすべてを
必要としない
どこかで





エントリ11  草食ロック    イグチユウイチ


凛としてよく晴れた12月の冷え切った朝にキッチンのテーブルで向かい合ってふたりで草を食む
咀嚼するたびにカチャカチャと鳴るのは腰のウォレットチェーンと革ジャンのスタッズのせいで
その軽薄な金属音とウッドコーンスピーカから流れる古いロックのリズムが合わない事について
以前は嫁が口を出してきた時期もあったが最近は慣れたのかあきらめたのか話題にしなくなった
プラスチックカップの水を飲み干してお気に入りのブーツを履いて小屋を出ると外はもう冬の風
フロリダとマイアミの太陽を思いつつ東京の街路樹の下の落ち葉を踏みしめながら会社へ向かう





エントリ12  ラ パエーリャ パラ マニャーナ    Tsu-Yo


「私には何もない」と絶望して言う君には
「私には何もない」という言葉がある
なんて言葉の綾取りよりも、
ずっとずっと大切な夕食が君には残っている
君のためにとびきり美味しいパエーリャを僕が作るよ



まず米を洗う
パエーリャの米は研ぐんじゃない、大ざっぱに洗う
無駄なくイカをさばいて輪切りにする
緑ピーマン、赤ピーマン、インゲンを切り刻む
トマトを湯むきして、ざく切りにする
パエーリャ鍋の登場!
オリーブオイルを熱する
さっと熱する
玉ネギ、トマト、米を放り込む
米がきつね色になったところで
暗転
イカ墨を流し込む
黒いパエーリャ、今日の絶望
今日の悲しみは今日食べるんだ
でも間違ってはいけない
悲しみだけでは美味しくない
だからミキサーにかけたスパイスを入れる
大量のだし汁を流し込む
しばし沈黙
そして沸騰
そこでイカ、ピーマン、インゲンを入れ
真っ黒なパエーリャに色をつける
それが希望
塩、こしょうで味を整えたらまた煮込む
後は待つだけ



ラ パエーリャ パラ マニャーナ!
絶望と希望のパエーリャ
君は今日を十分に食べきらなければいけない
美味しいパエーリャの米の中には、しっかりと芯が出来ている
君はただそれを頬張る
すると芯のある明日が君を待っている







エントリ13  春一番    葉月みか


春一番が運んできたのは
一枚の葉書と忘れていた名前

海の見えるチャペルで寄り添う
ウエディングドレスとタキシード


今よりちょっと昔
私がもう少し向こう見ずだった頃
とても寒くて長い夜に
たった一度だけ
寄り添うように肌を重ねた
恋人でもなく
愛人でもなく
友達ですらなかった
いつかのクラスメート


「2組にいた竹内って覚えてる?」
「陸上部の?」
「そう、それ」
「てゆーか、腕しびれない?」
 軽く引き寄せられて
「これで大丈夫」
 鼓動が近くなる
「アイツさぁ、吉野のこと好きだったんだよ」
「ふーん」
「修学旅行でそんな話になってさ」
「うん」
「俺、吉野はやめとけって言ったんだ」
「なんで?」
「はしかみたいなもんだから」
「何それ」
「1回は惚れちゃうんだよ」
 ストーブに照らされた
「俺は免疫あったから大丈夫だったけど」
 オレンジ色の輪郭
「遠藤先生と付き合ってたから?」
「風邪引くぞ」
 頭からかぶせられた毛布
 もがいて抜け出したら
 額に小さなキス
「吉野、髪キレイだな」
 毛布よりあたたかな腕の中で
「先に寝ちまったらゴメン」
 聞いた
「おやすみ」
 声


私たち結婚しました。

印字された定型文

下に

元気か?

右上がりで

なんかさ、

クセの強い

吉野に会いてぇよ。

アイツの字


ぬるくてザラついた強い風に
甘い花の香りがかすかに混じる
錆びた郵便受けがギイギイ鳴って
やけに喉が乾いた


――全然先生と似てないじゃん


友達がいても
恋人がいても
こんな時
ケータイは何の役にも立たない

土埃に乱反射する淡い光
なびいた髪が金色に透ける
トレンチのポケットに右手を突っ込んだまま
黄砂が渡る空を見上げた