エントリ1
狂人世論 RISE
親に暴言はいて
もう誰も信じられないとか
そんなこと言っといて
自分は信じるのだろうか
否
自信とは
自分を信じると書く
そいつも無くしたのか
そうかそうか本当だね
もうどいつもこいつも敵ばかり
こんな状態じゃ何もかもが恐ろしくて仕方ない
部屋の隅にうずくまって
とまらない体の震えになお恐怖して
息が詰まって苦しくて
意識がかすんで
なにか遠くなって
遠く
遠く
気がついたら真夜中だった
小さな錠剤がそこいらじゅうに散らばっている
睡眠剤のシートが抜け殻になっていた
何も覚えちゃいない
遠くなってそれから何があったのか
自分の部屋の惨状を見て
ただひた泣いていた
自分の人生そんなくだらないくりかえし
作者付記:ずたぼろよぉ・・・
エントリ2
雪洞手毬歌 百
ぼんぼんぼんぼり ゆらゆらゆれる
はなびらまいちる ゆうやみに
たっているのは どのあねさ
ここにいるのは このわたし
ぼんぼんぼんぼり ぼんやりひかる
はなびらとびかう つきあかり
とおりすぎるは あのあねさ
だまってみてる このわたし
ぼんぼんぼんぼり ふっつりきえる
はなびらきえてく どこぞへと
ゆくさきしれず そのあねさ
あねさこいしや このわたし
ぼんぼんぼんぼり いしだんのぼる
いつかわたしも あねさまに
ぼんぼんぼんぼり くらやみうかぶ
しろいべべきて まいりましょ
おににとつぐは このわたし
おににくわれる このわたし
あねさまかえらず わたしもきえた
エントリ3 ノート&ペンシル&葡萄畑 桜はるらん
アルミの壁に、 銃弾の痕跡
ドアの前で、 しゃがみ込んだ少女
左目に、埋め込まれた、水色のビー球
空に絡まる、 有刺鉄線
ロープの影に 足、足、足
兵士が銃を、 構える
目隠しされた、 少年たち
汽車 、国境、隣町
子供に、せがまれた、
ノート&ペンシル、
何日も家に帰らない、 母親
村に取り残された、幼い兄妹、
古いレンガ造りの家、ガラス窓の向こう
蔦の葉の隙間から、一面に広がる葡萄畑
透明なワイングラスに、こぼれ落ちる涙
母親を捜す父親、身分証明書、検問 、
口、の中にねじ込まれる、洪水のホース、
いつもなら今ごろ 村の男たちが
トラックに葡萄をたくさん積み上げ
女たちは葡萄酒のプールで
スカートを 捲くり上げ裸足のまま
陽気な歌と踊りで笑い続けている夏
無人の駅、届かない夏
花柄の包装紙、破れ
泥 、落下 、線路
半ダースのペンシル、ノート5冊
雨、風、空に、ちぎれるワインの匂い
一面に広がる、小鳥達の群れ
彷徨い続ける東と西の空のあいだ
誰も摘むことのない葡萄畑を
小鳥たちだけの戯れが、ついばんで、ついばんで
その種の行方 誰も知らず
雨、風、空にちぎれる
ノート&ペンシル&葡萄畑
エントリ4 水色 大覚アキラ
おれはきっと
あんたが死んでも
泣いたりなんかしないし
この先二度と
あんたに会えないとしても
たぶん平気だ
*
たぶん ね
*
実際のところ
ほとんどの関係性は
その程度の濃度でしかないと
誰もが薄々は
気づいているのかもしれない
*
さびしいな
素晴らしくさびしいよ
この澄み切った世界
*
死ぬのが怖いんじゃないの
わたしが死んだあとに
みんながわたしのことを
忘れてしまうのが怖いの
*
と
彼女は言った
*
なにもかも置き去りにして
痛いほどの速さで
引きちぎるようにして
ここから飛び立って行きたい
*
怖くなんかない
どうせ
なにひとつ
最初から繋がってなど
いないのだから
*
こんなにも
澄み切った世界に
涙など不純物でしかない
*
この世界が
果てしなく
水色になればいい
*
澄み切った
うつくしい水色に
*
祈りは必要ない
エントリ5
詩人誕生 わいさん
忘れたい記憶は 覚えていられる
雨に濡れても 困るわけでもない
電車を乗り継いで逃げ出しても 巡り回って戻ってしまう
応えたくない答えは どんな疑問を生むのだろう
悩める冒険家は 新しい秘境を検索中
これは嘘だけど 本当でもかまわない
犬と話すのは疲れる
天気や景気や サッカーの話題
最後は いつもの昔話で終わる
それから また最初の話題を繰り返す
会話を繋げて こすりあわせて 煙草をぷかり
満腹なのに 食べたがる
疑問は お皿の下にでも隠しておこう
強い風が ぜんぶ吹き飛ばしてくれますように
革命家の自伝映画 ロードショー
ふかふかのイスに マスタードが多めのホットドック
ガムシロ抜きの紅茶と マナーモードのケータイ
帰りの話題ぐらいにはなった
それぐらいは 覚えていられる
ドアブが汚れていた
いつも触れているのに気付かない
雲を眺めているうちに 迷子になった
いつも歩いている道なのに
花屋の店先で
あなたが悩むのは 自分が欲しいものを思い出せないから
花屋の主人に尋ねても 教えてくれるわけもない
交差点で募金箱をぶら下げる子供たち
炊き出しの豚肉を数える老人たち
セカイ なんて言葉は ゴミと一緒に捨ててしまえ
自由があなたを縛り付けている
だけど
部屋中のボタンを押し飽きたころに 少しだけ 気づいたふりをすればいい
理解は むしろ問いだ
病理が あなたを健全にするように
ファンファーレはない 歓声もない
詩人が生まれた だけだから
エントリ6 ゲーム Tsu-Yo
5人目のマリオは
川に落ちて死にました
4月の暖かい日曜日でした
私は庭の片隅に小さな穴を掘り
真っ白いノートに「やりなおし」と書いて
ビリビリ破って埋めました
あれから毎日、
マリオのお墓に水をかけ続けていますが、
かわいいキノコは生えてこない、と
密かに確信しています
エントリ7
まるで駅のベンチ ゆた香
誰か乗ってる。
あたしの「…」に
誰か乗ってる。
あたしの目の前で
あたしの「…」が
ガコガコと縦揺れに連動してる
あぁ、あたしの「…」。
美しい「…」、あたしだけの「…」
骨盤を押し付けられてる
陰核を擦りつけられてる
そしてギシギシと軋む声
あたしの「…」に
あたしだけの「…」に
誰かが骨盤をドカ乗せしている
誰かがあたしだけの「…」に
薄汚い子宮を乗せた
牛の頭みたいにデカい骨盤を、
さも自分の「…」のように
このあたしの目の前で
あたしだけの「…」に乗せている!!!!
汚い!
汚い!汚い!!!
あぁ、この苦々しさったら!!!
***
何。そんな目で見たりして。
今日という今日は許さない。
アンタは言ったわ。何度も。
あたしだけを愛すと。
なのにアンタったら、
まるで駅のベンチ!
いいえ、違うの。
決してアンタを蔑んだわけじゃない。
でもだって!
いつもあたしだけのアンタだったから!
そうでしょう?
アンタはいつだって、
誰の影も見せずにあたしだけを
あたしだけを
乗られるのはアンタだってのに、
尻軽、なんてね。
いいの。
愛しているのはあたしだけ、
そう言ってくれればいいの。
そしてまた、
いつもみたく、
あたしを乗せるといい。
それだけでいいの。
わかってる。
あたしだってそうよ。
でも戻らなくちゃ。
戻らなくちゃならないわ。
そうでなくちゃ、
愛なんて言葉には
大した意味がないんだもの。
作者付記:いつもの席に誰か座ってると
なんかムカつく、っていう。
エントリ8
ごはん 越冬こあら
遠い国へのタビダチを延期した夢から突然
覚めたような朝
三度目の結婚も失敗だったと打ち明ける電話が
鳴り出す直前の宵
ぼくたちはごはんをいただく
白い湯気上げほくほくほくと
箸に絡んでもちもちと
生き抜く力を与えてくれる
ごはんを
ぼくたちはごはんを食べる
日本全国津津浦浦に
溢れる毀れる杓文字が揺れる
経済大国気取ってみても
平和原則謳ってみても
所詮は火加減水加減
御米が立ったら大成功
国粋主義のお兄さん
ミーハー丸出しのお姉さん
破壊に歯止めが懸からぬ地球
全てに終わりが有るんだ宇宙
暫らく暫らくお待ちあれ
ぼくたちはごはんを食べる
ほくほくもちもちあつあつの
ごはんを
ぼくたちはいただく
ぼくたちはごはんを食べる
|