第12回詩人バトル Entry50
「3番線に電車が参ります」
あらこんにちは。いや、お疲れ様でした、かしら?
貴方も快速に乗るのね。私が言うのもなんだけど、勿体ないわ。
最後なんだから、各駅停車にすればよかったのに。
え?私がどうしてコレに乗っているか?
そりゃあ簡単よ。過去は興味なんてないもの。
それだけつまらなかったって事よ、私の人生。
あなたはどうなのよ。私と同じ?
へぇ、成る程ね。でも折角なのに…。本当勿体ないわね。
まぁ個人の自由だし、これ以上は口を挟まない事にするわ。
ガタタンガタタン
あ、ホラ。駅を一つ通過するところよ。
各停なら降りる人も沢山いるんじゃないかしら。途中下車ってヤツね。
貴方みたく有意義に過ごせた人なら、惜しくもなるんじゃないの?
あぁごめんなさい。口は挟まないとさっき言ったばかりよね。
それにしても、この先どうなるのかしら。
私も貴方も今までこの電車に乗ったことがないし、この先乗ることもない。
判らないのよ。でも不思議と不安にはならないものね。
アラ、貴方は不安?まだ未練があるせいよ。羨ましいわ。
ガタタンガタタン
何だか、少し若返ったんじゃない?目尻の皺が消えたわよ。
そうね、また駅を通過したんだわ。
貴方、若い頃は結構いい男だったのねぇ。
怒った?ふふ、許してちょうだい。口が悪いのよ、私。
私はずっと変わらないわ。ずっと醜かったんだから。
空がセピア色だわ。これも夕焼けのせいじゃあないのね。
でも、とてもきれい。
なぁに?さっきの話?貴方、私を慰めてくれているの?
そんなこと、しなくったっていいのに。
また若くなってるわ。昔から、真面目だったのね。
ガタタンガタタン
またさっきの話なの?もういいわよ、しつこいんだから。
私はそんな事、少しも気にしちゃいないのよ。
でも、いくらこの目に涙が浮かんでいたって、悲しいからとは限らないのよね。
ガタタンガタタン
ねぇ、黙ってないで何か言ってよ。どうして難しい顔をしているの?
……判ったわよ。観念するわ。
私、貴方の言った通りよ。さっきの言葉、本当に嬉しかったの。
外に出たことがなくて、人を知らないで。
心からそれを言ってくれる人が誰もいなかったのよ、きっと。
ガタタンガタタン
外が、暗くなってきたわ。もう終点に近いのね。
着いてしまったら、離れてしまうのよ。
でもありがとう。本当に嬉しかったの。
短かったけど、楽しかったわ。さようなら。
「ご乗車、お疲れ様でした」