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第14回詩人バトル Entry64

雨の昼

 
 ああ、雨の昼。

 僕は傘がない、毛糸の帽子はもう水を吸っている。
 
 この冬初めての重たい霙雪は、
 今朝には雨に変わってしまった。
 
 化学繊維でできた上着さえも、もう。
 重たく湿っている。

 駅へ、歩く。

 
 雨の日は傘がいい。
 さすのではなくて、眺めているのだ。
 歩道橋の上、学童達の列を見下ろして。
 色とりどりのパラソルだ。
 星か、夢か考えては、
 帽子の毛糸は益々水を吸い続けていた。

 ホームの反対側には、君か。
 身知らぬ君よ。
 黒い服を着ている、君も傘がないのだろう。
 髪が濡れている、凍えて。震えないように、
 自分を抱くようにしているのだ、左腕で。
 しかし、その視線は、
 反対側、雨のこちらに居る僕の足元の方へ向いていた。
 或いは、昔このホームに君の恋人が身を投げたのかもしれないな。
 それで君は彼の遺骨でも探しているのか?
 と。

 黒いドレスが喪服のような悲しい顔の美人だった。


 落ちる透明な、冷たい様子の雨粒よ。
 赤錆びた、スチールのレールに当たり、
 砕け、雨粒よ。

 その一打ちごとに赤銅のレールは冷たさを増し、
 頑なになるのか。
 不動で在ることに満ちているかのように、
 口を利かぬ悲しげなレールよ。

 
 透き通る雨粒は、光を微かに放ち落ちてくる。
 それぞれの色を放つ億の粒が在る。
 透明の中に広がる色彩に、恍惚の眼差しの僕は
 顔を上げまた君と視線を交わすが、
 滑り込んだ鉄の塊に遮られた邂逅は、
 永遠の中断を向かえ、
 僕と君も、お互いの場所へと車両に乗り込んだ。
 
 無表情な美人だ。


 ああ、雨の昼。
 線路沿いの景色は流れて行く。
 雨に濡れる家屋。
 人。
 は灰色の今日だ。
 行過ぎた工事現場の若者は泥に汚れ、白い息を吐き
 強く光る目で僕を見つめていた。
 
 雨粒を砕き進む列車。
 打たれ車輪は啾啾と鳴き、蒸気を発する。
 灰色の今日を、
 踏みしめるように駆け抜く。オレンジの列車が。
 
 悲しく写る線路沿いの雨情。
 雨に染まれぬ悲しげな列車。
 水滴は、音をたてず。
 猛り走る列車の窓を這うて行く。
 窓に映る僕の顔の上を這うように。
 

 雨の昼が、過ぎるのだ。

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