エントリ1
壁 駄々
出口のない迷路の中で
ずっと彷徨っている人がる
行き止まりのその壁を
拳で殴り続ける人がいる
壁をすり抜けていく幽霊を
ずっと追いかけている人がいる
交差点の真ん中で
悟った男が座ってる
迷路なんかじゃないんだと
親子が手をつないで散歩する
スプレーを持った若者が
「この世はあの世」と壁に書き
私を向いて一緒に笑う
エントリ2
インアウト・インアウト トノモトショウ
あの日
ただ淫靡な
私達の対幻想は
濡れたシーツに潜み
爪痕の境界線が
愛憎を描く
実際は
空虚な反復
永遠という名の
インモラルなアート
入れて出しての
欲深き躰は
逆回転
欲深き躰は
入れて出しての
インモラルなアート
永遠という名の
空虚な反復
実際は
愛憎を描く
爪痕の境界線が
濡れたシーツに潜み
私達の対幻想は
ただ淫靡な
あの日
エントリ3
僕が僕で有る限り 影姫の夜ナハト
誰も僕を知らないんでしょ?
誰も僕を知ろうとしないんでしょ?
ほら、
皆僕を見て見ぬふり…
誰も僕を知らないんでしょ?
名前も…顔も…性格も…
全部全部ぜーんぶ、
知らないんでしょ?
なら
知らなくていいよ。
だって、
皆僕を知らなくたって
僕は死なない。
けど、
僕が僕じゃ無くなれば…
僕は死ぬんだ。
ほら、皆僕をみてないよ?
悲しいことなんてない。
苦しいことなんてない。
僕は死なない。
僕が僕じゃ無くなるまで…
誰も僕の名前を知らない。
だって僕も名前を忘れたから
ほら、
君だって知らないんでしょ?
僕の名前…
作者付記:シリアスですね〜^^
まぁ思い付きでーす
エントリ4
もうふ 凛々椿
わたし まくら もうふ
わたし まくら もうふ
三層に連なる眠りに寒さはおりて久しく
外気に触れた右人差し指は人肌を求めて冷たく
わたし まくら もうふ
わたし まくら もうふ
わたし
そして
吐息かかる場所にかすむ
ひかり
エントリ5
ひかりかがやく涎の海をこえて 大覚アキラ
真昼の沖に浮かべた
大きな蓮の葉のうえで
みんなが寄り添って眠る
母のない子も
子のない母も
夢を見ることのない
安らかな眠りの底で
みんなが寄り添いあって眠る
涙よりもやさしく
汗よりもすずやかで
血よりもうつくしい
この
ひかりかがやく涎の海
世界中の子どもたちの
やわらかな耳の奥の奥にある
貝殻のかたちをした器官から
子守唄の断片を拾い集めて
それを繋ぎあわせて
ひとつの曲をつくりました
聴いたことがないのに
誰もが知っているような
誰も知らないのに
聴いたことがあるような
そんな曲を
やわらかな旋律が
はるか遠くから
海鳴りのように静かに響き
潮のにおいのする空気を震わせると
涎の海はいっそう強くかがやきながら
白く白くひかる
いちめんの白
見たことのない白
ひかりかがやく白
まぶしい
とてもまぶしい
まぶしさに目を瞑る
眠りの中でもう一度深く目を瞑る
お母さん
ごめんなさい
ぼくはきっと
お母さんが死んでも
涙を流さないと思います
お母さん
お母さん
この曲が
ひかりかがやく涎の海をこえて
お母さんのもとにも
届きますように
エントリ6
ベゴニアの鉢 Tsu-Yo
窓辺に置いていた
ベゴニアの鉢から
ベゴニアが生えてきたので
窓の外へ投げ捨てた
こうあって欲しいと望んだことが
そうなってしまった悲しみ
小さな風がカーテンを揺らす
窓辺が少し寂しい
その寂しさに気が付かず
生きてきたわけでもない
割れた植木鉢の散らかる庭が
ことさらに羨ましく見える
エントリ7
20141231-20150101 サヌキマオ
子供は生まれたが
消防士さんは死んだのだ
アタシの子供は生まれたが
***くんは死んだのだ
十二月三十一日のことだ、束京から新大坂終点の新幹線に乗り、新大坂から傳多行きの新幹線に乗り換える。新大坂を出ると「陣痛っぽいから病院に行く」とメールがある。蝠山で「病院についたとたんに破水した(笑)」と二報が来る。5・7・5だ。新尾逢に着く。義父がいる。これじゃったら二原まで切符を買うんじゃったのう。そういいながら、新幹線で5分のところを30分かけて病院に車で走る。峠道はダイヤモンドダストになっている。路肩をむくむくとした犬の群れが走っていく。犬ですね、肥えとるのう、などといいながら、病院に行く。分娩台の脇で頬杖をつくこと二十分、ずるんと産まれる。なんと空気を読む子供か。最近の病院はもうそろそろとなると「旦那さん、写真の用意をお願いします」と云われる。おろおろと携帯を取り出すが、撮るものもなく、いきんでいる妻の顔を撮る。
一月一日のことだ、NHKのニュースのトップで、路面スリップで夜勤明けの消防士が蝠山と広嶋を繋ぐ高速バスとぶつかった。車は田んぼに突き刺さる。パーマ屋の前のごっそり堂の後ちょい先にあるカーブの話。むりやり5・7・5・7・7だ。妻の16人いた小学校の幼なじみのうちの一人。義父は坊主である。消防士につけられるような戒名は何がええかのう。そういいながら、ジャージ姿で落ち着きなくうろうろしている。田と田の間を突っ切る道はよく凍っている。二原の街に出るまでの峠道もよく凍っている。スタッドレスタイヤでない車は坂道で往生する。停まっている車はもれなく犬の集団が取り囲む。飯呉れ飯呉れと取り囲む。たまーにドッグフードを道路にばら撒きよる人があるんよ、目撃したことがある、とは義母の弁である。それにしても産まれた時から三十年も知っとる子をお見送りせにゃならんのは辛あねえ、***くんの戒名書かんければいけんことになるとは思わなかった。これも義母の弁である
峠道にはごみの処理場も火葬場もある。火葬場は年末年始で遺体が詰まっていて、前倒しで二日から人を焼き始めた。
産まれた子供はずっと寝ている。腹がへると泣き、排泄で濡れると泣く。まだ、そういうふうに出来ているだけの装置だ。
子供を見てから寺へ車で帰ると、峠道にむくむくの子犬が三匹、走り周り転げまわり遊んでいる。
たまに保健所が一斉に野犬狩りしよるんだけどね、かならず逃げおおせるのがいて、またわっと増えるんよ。
これは義母の弁である。
エントリ8
寒烏(かんがらす) 石川順一
今少しだけこの世に未練が有った、それで日向ぼこをして居ると
冬桜が咲いて居るな、乳房も含まさずに逝って仕舞った死児の事を想うと・・
ふと聞こえて来る霜柱を踏む音に我に返る、朝刊が配達されて居た
私は弓初めをしながら、重力は粒子の一つだとの思いを強くした
今日は元旦だ、生死がゆるりと隣接して居る様な思いに
年賀状が来ても紙一枚のきずなだと嘲笑したくなるのだが
寒烏(かんがらす)の鳴き声に人恋しさが募って来るのだった
*以下7句を参考に詩作しました
今少しこの世に未練日向ぼこ 九州男子
冬桜含ますこともなき乳房 廣瀬布美
霜柱踏む音朝刊入る音 ジロー
重力は粒子の一つ弓はじめ 木野俊子
元旦や生死ゆるりと隣接す 赤松勝
年賀状紙一枚の絆かな 漫歩人
人恋へば人の声する寒鴉 宮本悠々子
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