エントリ1
霧雨 りよ
槍先に頬をかすらせ、
滲む哀愁を盾に彼は弓を取った。
想いは双曲線、
僕らは背中合わせだ。
遮られた月光が行き場を求めて、
放たれた矢は嫉妬を秘めて、
遠のいた幸福は臨場を待ちわびて。
鱗粉を撒き散らし、
蝶はそっと羽ばたきをやめた。
エントリ2
2020、夏 はなもとあお
うわべだけの笑顔をはりつけた母親が言う
「あなたのことが心配なのよ」
あやふやな与えられた恐さの記憶
疑いは疑いのまま
親子は
向き合えないまま
交信を絶った
「本当に心配なら病院に来て」と、
わたしは心の中でつぶやいた
「夕立ち」と、
あなたが言い、
そのあと
ひとしきり庭の土を叩きつけた雨は
土に波紋を残したまま
今年の夏を迎える
砂埃の匂い
風
ちりん、と、鳴って
明日が訪れる
それぞれの世界線の
エントリ3
流体 日向さち
楽日の芝居がいつまでも脳内を掻き回す
隣人の発した言葉は形を失った
ルールを持たないコミュニケーションは
冷蔵庫の麺つゆに溶け込んだ
論理よりも自分の感性で判断していく
エントリ4
チャリンコ Tsu-Yo
ペダルを漕ぐ速度を上げる。
瞬く間に、追い風は向かい風に変わる。
川の流れはとまり、
木々は抽象的な色になり、
姿のない鳥の鳴き声を耳にして、
僕は、僕はなにになったのだろう。
どれだけ速度を上げたとしても
振り落とせない記憶があるのなら、
いっそこの想いだけ乗せて
飛んでいってしまえよ、赤いチャリンコ。
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