エントリ1
メッキ 日向さち
久しぶりで馴染みの無い街へ
一人だけの車内
すれ違うヘッドライト
丸ゴシックで統一された案内標識
オーディオはつけず、ずっと考え事をしている
他の誰かになりたくなくて
理想の人物像は描かない
他人と接する時には
傷つかないようメッキに覆われて
更に仕事柄というメッキが被さって
形式的な挨拶、偽りの微笑み
まるでニンゲンの振りをしているみたいに
その場に相応しい振る舞いをするということが
自分を裏切っている気がしてしまうのは
この先もずっと変えられない癖なのだろう
ドラッグストア
アパレルのチェーン店
飲食店の前にはテイクアウトの文字が入った看板
経済の低迷とは無関係に
新たなトレンドは生まれ続けている
流行っているということ自体の価値なんて
見えない他人からの支配に過ぎない
支配されるニンゲンたちを嘲笑いながら
商品を売るのが私の仕事だ
私だってニンゲンでしかないのだけど
信号やコンビニの前を通り過ぎては
また次に近づいて通り過ぎるのを繰り返す
骨や内臓の塊の分際だと思い知って
運転するためだけに脳を働かせる
ということができるはずもない
メッキを剥いだ内側の自分
誰かに似ている自分
夜に見れば何処にでもあるような街も
闇の向こう側にそれぞれの景色を持っている
道交法に守られて進む
ルールを当てにしていれば
たくさんの正しさから選ばなくていい
何処にでもあるような車の中で
私は他の誰とも違うと思っている
エントリ2
呆気ない りよ
あっけない
朗朗と走る
急カーブも慣れてくる
音だけはいっちょまえで
どんなに雑でも壊れないのに
やっぱり内から壊れてく
あっけない
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