エントリ1 詩人 天内日月
詩人は遠くを見つめながら無気力に風になびいている
見ているのは 茜色の空
聞いているのは 透明な風
肌に触れているのは 灰色のアスファルト
詩人はぽつぽつと 言葉を紡ぐ
誰にも解せない 詩人にしか分からない
でも 誰かに分かって欲しいと密かに思いながら
潮風が遠くからやってきて 詩人の横顔を流れてゆく
アスファルトの隙間の雑草が 風になびいて揺れている
茜色に染まったそいつを見て 「同じだな」って呟いて
詩人は斜め下を見て歩き出す
エントリ2 形は残らずとも 山本 翠
銀木犀を貴方に頂いた日から
わたくしは其の香りに縛られ続けてをります
樹は想いと共に大きくなつて
何時かはわたくしをも飲み込むでせう
しかしあの日
微笑みながら銀木犀を下すつた貴方を
金木犀でも
柊木犀でもない
銀木犀を下すつた貴方を
わたくしは
きっと想つて止まないでせう
エントリ3 またやってくる月曜の朝に 凜一
何か色々考えてみた
考えるだけ無駄だって分かったのは
浴槽を満たした紅茶が全部冷め切っちゃったときだ
蜂蜜が溶けきれずに下のほうでモヤモヤしてる
オォバァコォトの袖を捲くりもせずにかき混ぜてみたけど
あんま変わんなかった
仕方がないから
隣でニコニコしながらしゃがみ込んでる君の手首を舐めてみた
・・・しょっぺぇ
エントリ4 腕枕 長田一葉
寝返りをうつ君の首の下に腕を入れて、幸せの重さをかみしめた日曜日の朝。
ニュースダイジェストで、どこかの国で自爆テロが週に4回もあったと知った。
昨夜のコンドームの袋のカスを捨てながら、子供を捨てた母親のことを聞いた。
便所で小便をしながら、医療ミスで死んだ女の人が自分と同じ歳だと分かった。
チャンネルを変える直前は、殺された16歳の少女の顔写真のアップだった。
君を起こそう。
君を起こしてどこかに遊びに行こう。
そう思いながらベッドで君の横になり、君の首の下に腕を差し入れた。
幸せの重さが、さっきよりも重くなっていた。
エントリ5 情緒の焦燥シンドローム 歌羽深空
燃える燃える
胸と山の端とが
じりじりとする胸と
赤朱黄に燃えていく山の端が
染まれ
染まれ
焼けた
焼けた
朝の光は薄紫
月の光は蒼白い
行け 行け 飛び込め
乗れ 乗れ 届かないものに
嗚呼 紅葉が巡る
ヰヰ 紅潮する空と頬とが
宇宇 窓辺の空は
得得 何も、何も。
於於 ・・・
光れ太陽
惹かれたい様
今こそ 今こそ 月を飲み込むとき
・・・
朝五時三十六分四十二秒
東の空にて 窓辺から
手に持つは
胸焼け原因≒チヨコレイト?
胸焼け原因≠チヨコレイト
エントリ6 妄想癖 相川拓也
山ぎわに
光があふれ、なびく
空
いろ透きとおり
朝日さす
右手には
冷たい、小さな手、にぎって
肩ふれる
まあるい時よ
秋の風 すぅっとなでて
ゆれるコスモス
ひゅうひゅうと右の肩を、
風がかすめてゆく。
のっぺらぼうの空。
コスモスは隅で
自らを持て余し、
右手は痛々しい熱を帯びて、
寒風に晒される。
ただ青いだけの空のむこうに
何があるというのだ。
エントリ7 SEEKING YOU,BABY 鈴矢大門
そうだ あれを唄いながら行こう
鍵かけて 行こう
あそこへ 行こう
そこに あれを聴きながら行こう
ほんのり色づく
頬を挟んだ
手のひら温かく
自分の温度が
あることに気づいたのさ
ぼんやり歩く
ここを知ってる
あの日は暖かく
自分にそいつが
あることを思ったのさ
ホントは ねえ
ホントは 無かったのだとしても
そいつはきっと
そばにはあったはずなんだよ
そうだ あれを唄いながら行こう
鍵かけて 行こう
あそこへ 行こう
そこに あれを聴きながら行こう
しょんぼりしてる?
そうなのかもね
その日は嬉しく
自分がそのまま
あることに感謝した
どんより見える
雲をつきぬけ
この日にはあれを
自分へご褒美
あることへ感謝
ホントは ねえ
ホントは もう無くなっちゃった
そいつはきっと
君といっしょに消えた
そうだ あれを唄いながら行こう
鍵かけて 行こう
あそこへ 行こう
そこに あれを聴きながら行こう
君の鼻歌真似て
家に鍵かけて
君の好きな歩道橋の上に 車見に
鼻歌唄いながら 空も見上げに
も一度 君と 君の持ってた物を探しに
行こう
エントリ8 無題 香月朔夜
青く青く突き抜けるような空。
ただ純粋に染め上げられたみたいに美しい。
そう。
キレイだ。とても。
青に重なる白。
雲ではない。鳥だ。
孤高の渡り鳥。
純白の羽を広げて滑るように飛ぶ。
昇る。風に乗る。流れる。迷いなく。
怖くはないのだろうか?
力強い動きに緩みはなく。しなやかな動きに怯えはない。
目はきっとまっすぐ前を見定めている。遠く。遠く。高く。
ぴんと伸ばした肢体。
透明な思考。一点の曇りもなく陰りもなく。
キレイでもろくて自由で。
だから尊くて。
盲目の未来の中を晴天に負けない清浄さを持って希望は飛び退る。
それに呼応するように背中の羽がかすかに揺れた。
エントリ9 星屑 有機機械
ビッグバン
膨張する宇宙
輝き出す星々
生まれる新しい粒子
超新星爆発
四散する星屑達
そして長い旅
辿り着く太陽系
星屑達のつくる地球と生命
そう
僕のからだをつくる
ひとつひとつの粒子は
かつて星屑だった
宇宙を旅していた
僕の見たこともないものを見てきた
それなのに
そのからだに宿る僕のこころは
なんて未熟なんだろう
なんて無知なのだろう
いつか僕のこころが
そこに辿り着けたなら
そこを旅してみたならば
僕は僕という存在のすべてを
知覚し
理解し
コントロールできるだろうか
例えそれがかなわなかったとしても
僕のからだはまたこの惑星に還り
その星屑はいつかまた大宇宙へと旅立つ
それはほんの一瞬先のこと
エントリ10 願わくば、そこに私が在るのなら。 武流
かごめ かごめ
かごの中の鳥は
いついつ出やる?
ホントに出たいと望むなら
私が出してあげましょう。
傷つくことは厭わない
(二人で分かつ痛みの方が、今より笑顔でいられるでしょう。)
あなたの名前を取り戻しましょう
(歓びと慈しみに満ちた歌、彩の内で歌いましょう。)
籠女 籠女
いついつ出やる?
夜明けの晩に
……後ろの正面だぁれ?
エントリ11 さくら 陽
これはあなたに送りたかった言葉。
そして、あなたから送られた言葉。
「散り際の潔さと、儚さが好きなの」
そういった、私の言葉を少しでも覚えてくれているならば、
さくらの季節になったら、私のこと想いだして。
花びら、ひとひらでいいから。
孤独を愛したあなた。
そして
孤独を恐れた私
月の光を浴びながら独り仰ぐ杯は、
どんな感情を飲み干しているのかな。
血の涙を流し、手から零れ落ちる想いを
あなたが語る言葉は抽象過ぎて
私には理解が出来ないことがたくさんあった。
でも
ひとつだけ分かったことがあったの。
寂しいって。
おかしいよね。
孤独をあんなにも愛してやまなかったあなたなのに。
変わるのが怖いあなた。
そして
変わることを望む私。
時は残酷に刻まれ、否が応でも変化が訪れるのに
それは周囲であったり、立場であったり思想であったり
様々だろうけれど。
あなたが何故そんなにも変化を恐れるのか
私には理解できなかった。
ただ、
変えたくないものがあるのはホントウだと想うよ。
それは、海の宝石みたいなのかな。
静かに静かに輝き続けるもの。
私にもあるのかな。
あなたがしてくれた絵画の話。
一枚のキャンバス。
描かれる絵。
自分ではもう描き尽くされたと思われた1枚。
「自分が限界と思ったら限界なんですよ」
そう、かけられた声。記憶。
現実の私の限界。
本当に限界なのか。
突き破られた限界。壁。私の精神。
壊れたもの。
消えてしまったもの。
「何かを得る代わりに何かを失うのよ」
遠い私のコトバ。
それを真実だと知ったのはいつだろう。
私は限界を超えた代わりに
こころを失ったよ。
あたたかな血が通う身体なんて欲しくないのよ。
こころを埋めるもの。
こころを失った代償は大きすぎたよ。
さくら散るもと、私はからっぽの器で寝ているの。
早く来て。
でないと、私が消えてしまうから。
花びらで覆われて
そのひとひらになってしまうから。
早く来て
けれどもう遅いのよ
だからせめて、
私のために一滴のなみだを流して。
エントリ12 琥珀の魔法 木葉一刀
暖かい音がたつ夜
目覚めの音
目覚めの香
天井に揺れる水面
声も無く爆ぜる夜
誘眠の香
誘眠の暖
壁に揺れる青い炎
目覚めの琥珀
誘眠の琥珀
二人が一つの床に収まる
暖かい間だけ心擽る香
思い出したように
一匙すくった淡雪は
夜陰の中に融けてゆく
闇が手の中で暖かく薫る
今宵月明かりの元
雪原となった街
寒さに肌を寄せ合った君と
暗い部屋で灯したアイリッシュ
君の特製ブレンドと
僕の隠し玉ヘネシー
足りないシナモンスティックは
二人の言葉で補った
エントリ13 暮らす人 狭宮良
オレンジ色のキャップのついたペットボトルを両手に抱く風に
して、その老人はベンチに座っていた。僕が二人分くらい離れ
て腰を下ろすと、彼は少しこちらを見て、それからペットボト
ルを開けて飲んだ。自販機でもコンビニエンスストアでも必ず
と云って良いほど売られている、ポピュラーなメーカーのレモ
ンティーだった。それが温かいだろうと云うことは、彼の仕草
とキャップの色とで分かった。彼が一人きりで、何処へ行った
としても今ここに座っているのと同じに一人きりで、だから寒
いビル風の吹く公園から立ち去らないのだと云うことも、一目
見れば分かった。老人の持っていたのが珈琲でも緑茶でもなく
限りなく甘いレモンティーで、しかも温かなもので本当に良か
ったと思う。公園を出て駅に向かいながら、僕は不意に、あの
ペットボトルが冷めていたら、と想像した、オレンジ色をした
キャップの、小さなボトルが彼から体温を奪ってしまうほど、
冷え切っていたとしたら。ただただ静かな彼の所作が思い出さ
れて、僕はコートの襟を立てた。
正体のない寒気が背筋を撫でた。
エントリ14 先まで読めない物語 五月原華弥
好きだよと今も伝えたい
だけどそれをしてはならない
自分を変えるために
その檻を破るしかなかったんだ
心痛む言葉だけど「終わりにしよう」
君の返事に心は揺らぐけど
とりあえずこの話は「続く」
これは先まで読めない物語
このあとどうなるかなんて誰も知らない
連載は続く
また君と恋人になるかもしれないし
ならないかもしれない
もしかしたらトモダチになるかもしれない
このあとの物語で
君も他の人と出会うだろう
もしかしたらその人と……
これは先まで読めない物語
このあとどうなるかなんて誰も知らない
物語の作者は誰?
誰も知らない
エントリ15 キリサキジャック ヨケマキル
「犯行声明」
闇夜にカミソリ潜行シ
笑う差し歯の吸血鬼
玩具芝居が覚醒し
伝家ノ宝刀ふりおろす
オレは昭和の風太郎
色即是空のキリサキ魔
ヘビがチロチロチロリアン
婦女子の陰部をなめまわす
麝香の夜のデスマスク
血で血を洗ってジャブジャブと
スケープゴートはどこにいる
オレは昭和の風太郎
色即是空のキリサキ魔
「首都潜伏」
随喜の涙の夜は更けて
阿修羅の刺客は眠ってる
安全カミソリ危険なり
懐深く眠ってる
息を殺して待ってるよ
あそこの角で待ってるよ
ホントの闇がやってきた
真っ暗クラクラやって来た
嗜虐主義者のお通りだ
キリサキサマのお通りだ
今夜の犠牲者どこかいな
あなたの町で会いましょう
「終章」
ホントの事はどこにある
ホントのヤツらはどこにいる
インチキ頭にインチキ服
インチキチキチキ歩いてる
インチキチッチキしゃべってる
贋贋偽偽偽贋偽偽偽
ガンガンギギギガンギギギ
偽偽偽が通ればオイラが引っ込む
インチキチィチキ笑ってら
<臨時ニュース>
警視庁は今日
一連の、通称「キリサキ」による連続殺傷事件を、
住所不定無職 下高美作(27)の犯行と断定
全国に指名手配した
ホントの歌はどこにある ホントのヤツらはどこにいる
なんとかごっこをやってろよ
色んなごっこをやってろよ
せまいニッポンそんなに急いでどこへ行く
広いニッポン短いアンヨでどこへ行く
さよならキリサキ また来てジャック 三角四角の世の中だ
切った張ったの世の中だ
オレは昭和の風太郎 風が吹いたらまた来るよ
「再」
切った女の音調が
ドゥードゥードゥドゥドゥと踊ってる
偶数拍子の殺し屋の
風雅なパバーヌ踊ってる
憚りながら申します
文痴な私が申します
なんてこの世はばばっちい
得てしてこの世はみみっちい
人に揚げ足取られたら
転んでそのまま起きれない
足腰弱いのボクちゃんは
いやいやそうではないのです
起きたら金槌飛んでくる
頭にハンマー飛んでくる
やられる前にやるのです
切られる前にキルのです
転転転麻里転手毬
てんでにお手手を天日干し
キリサキジャックはオレじゃない
キリサキジャックはボクじゃない
キリサキキリサキあなたです
切り裂ききりきりキミかもね
何か言ってもいいですか?
何か書いてもいいですか?
言ったらジゴクが待ってます
書いたらカンゴク待ってます
自由はどこにあるのかな
ボクのポッケの中だろか
さあさみなさん切りましょう
ナイフかカミソリお持ちなさい
文化包丁大歓迎
さびたハサミもいいでしょう
切った切ったのセカイです
言うより前に切りましょう
書くより前に切りましょう
だってやつらが睨んでる
三白眼で睨んでる
さよならキリサキまた来てジャック
再びやってキマシタよ
あなたに会いに来ましたよ
<臨時ニュース> 連続殺傷事件都内で再び発生 死傷者が多数出た模様
エントリ16 咽頭炎 麻葉
赤黒い液体におっきな綿棒を浸して
人より小さな顎を頑張って開いて
僕はヒリヒリする喉を消毒する
ルゴール液は火のようで
独特の匂いと味で苛める
ここ数ヶ月 少しだけ丈夫だった僕の体
今日になって久しぶりの風邪
僕はヒリヒリする喉を消毒する
ルゴール液をいつの間にか
一人で塗れるようになったのは
僕が病気に慣れた証
薬を飲むのが上手くなったり
そんなのいらないのに
日曜日が終わったら
レポートを出さなきゃいけないんだ
僕が大人になっていく証
寝過ぎで痛い腰を擦りながら
机に向かったりして
布団をかぶって妄想するより
効率よくダルさを払う薬が必要となってくるんだ
ルゴール液が ルゴール液が
無理矢理喉の奥を弄る母の手を思い出させて
ルゴール液が ルゴール液が
泣くほど大嫌いだった子供の頃を思い出す
三面鏡に写る眉毛のない僕を
老けたねって 使用期限が切れた茶色の小瓶が笑う
しまった という顔で僕は慌てて
明日に備えて早く寝る
エントリ17 命綱付き 小松知世
トレドミンを
命綱みたいに握る
最近の薬は万能で
吐き気も眠気も便秘も
以前よりは少しですんだ
副作用の方が先に出るなんて
意地悪
そんな風に思ったりして
誰にも分からなくていい
こんなのは分からない方がいいんだ
でもそれがより一層
アタシを孤独にさせる
自らの命を絶とう
なんてしない
そんな気力も元気もないから
本当の苦しみはこの時にある
何も出来ないこの時にある
傷だらけのアタシは
自らの意志で
生きている
でもそれが苦しくて泣いてたあの日
助かりたくて
手を握りしめてた
少しは動けるようになった頭と体で
アタシは
穏やかにそれを見る
自らの体の中に入る予定の
薬たち
アタシを繋ぎ止める命綱
アタシを救うのはアタシしかいない
戦いはこれからなんだ
今はまだ
命綱付きのクライミング
落ちないようにしがみついて
上を見据える
エントリ18 真っ黒い炭酸水 佐藤yuupopic
「壊れてしまった、もう鳴らない」
真っ先に思った
夜の海で落としてしまった、いや俺ごと落ちたと云う方が正確だろう
堤防が途切れる処で
ただ、島を
見たかっただけだった
イヤな事が続いて酷く酔っ払っていたんだ
ケータイどころじゃない
俺だってあやうく死ぬ寸前で
見上げた海面が炭酸水みたく泡立ってた
水は
冷た過ぎると痺れるなんて知らなかった動かないが手足は未だあるのか眼球膨れる鼻とハラワタ喉の奥捻じ上がる塩辛い痛い痺れる痛いいやもう痛くない何故か頭の中に炎上するビルが浮かんだ月の光がひんやり射して静かでキレイだキレイだけどそれが何だ、て云うんだああ、こんな処で終わるのか音が無いこの泡は俺が吐いているのか最低で終わるなんてそれこそ最低だ、どうか、
どうか、
俺に
起死回生のチャンスをくれないか
真っ黒に水を吸って
全身真白に膨れ上がった
俺は
夜の浜辺をそぞろ歩いてた
男の恋人同士に
消滅寸前で
助け出された
ごめん、ムード台無しにして
俺はまさに無様の中の無様王だ
でも
無様でも何でも構わない
あんな処で終わりたくなかった
有り難う恋人達
二人は優しかった
舌焼ける缶コーヒー
自分らの上着にくるんで
ずっしり濡れた身体を両脇から捉えられた宇宙人みたく抱え国道脇まで寄り添い
タクシーを止め
ケータイも財布もポケットの中一切がっさい落とした俺に
札を何枚か握らせ
「そんな事どうでも好いのよ。しっかり帰って眠りなさい」
連絡先も名前も教えず
いたわりながら後部座席に押し込んだ、
バックミラーの中小さくなってゆく手をつないで見送る二人を
塩で焼けただれ半ば潰れた目で
見送った
彼らに出会えて好かった
すげえな神様
きっと
あなたはそこにいるんだな
生まれて初めて、
心から、有り難う
なのに真っ先に思ったのが
「壊れてしまった、もう鳴らない」
だなんて
他に考えるべき事なんて
いくらでもある筈だったろう
お前
単なるバカだろう
だからこんな目に遭うんだろう
「番号がわからない 下の名前と生まれた町しか メールもやらない、て 今時めずらしくないか 故意じゃない でも、もう会えない 去年 空港で 出会っただけの あの子に」
なんてな
メモリーがなんだ
大バカ野郎
生きていれば偶然だってあるだろう
本当に会いたいと願いさえすれば
いやもっと
他にも願うべき事はあるだろう
あの二人に何か返す事だって
それから
彼ら以外にも
歯がガチガチ云う
俺、生きてんだな
運転手さん、暖房上げてくれて有り難う
魂込めて起死回生図れ、
俺
仮面詩バトルの為に描いた同タイトルのほんの202文字の詩(未提出)がずっと自分の中にあって、最近の日々の何かに触発されて、全く異なる本作が生まれました。自分で不思議です。だから詩が好きです。
エントリ19 立体 植木
仕
事
柄
殺
さ
れ
る
夢
で
目
覚
め
る
娘達はそれぞれの朝を淡々とこなし
不可解な冗句に化身し消えてしまう
陰
毛
の
生
え
揃
わ
ぬ
子
供
達
に
嬲
ら
れ
噴
水
の
中
で
旋
回
し
て
い
る
背中越し妻の乾いた咳
音を立てず新聞を捲る
エントリ20 バス停 空人
そもそも
僕を待ってなん か
いなかったん だね
エントリ22 ない日 大覚アキラ
とりあえず
(テレビもおもしろいのやってないし)
何もすることがないので、
(読む本もないし、お腹も減ってないし)
きみは外に出てみることにする。
(ちょっと肌寒いかもしれないな)
建て付けの悪いアルミサッシを弾くように開け放ち
(力いっぱいじゃないと開かないんだ)
底の磨り減ったサンダルを裸足に突っ掛けて、
(一昨年の夏買ったやつ、だな)
ダブルベッドぐらいの広さの庭に出る。
(庭、っていったらアイツ、笑ってたな、あの時)
空は晴れでもなく曇りでもなく、
(どこかでヘリコプターが飛ぶ音だけ聞こえる)
かといって雨が降っているわけでもなく、
(いっそ、土砂降りにでもなればいいのに)
当たり前だけど雪も降ってなんかいない。
(去年の冬はここで雪ダルマ作ったんだっけ)
なんてつまらない日なんだろう、ときみは思う。
(なんてつまらない日なんだろう)
エントリ23 斜輪 さと
自転車をこぐ
上り坂になった 紅いトンネルをこぐ
がむしゃらに 死ぬほど がむしゃらに
ペダルが軋み チェーンが軋む
膝を踏ん張り 腕を引く
声にならない唸りが 喉元から絞り出る
風も 木も 道も
何も 考えずに ただひたすら
自転車をこぐ
君は あの人に挨拶をしましたか?
君は 素直にハイと言えましたか?
君は あの子に優しく出来ましたか?
君は 元気に笑う事が出来ましたか?
自分をこぐ
傾斜になった 赤い時代をこぐ
がむしゃらに 死にたくなくて がむしゃらに
身体が軋み 内蔵が軋む
神経を踏ん張り 心を引く
声にならない唸りが 喉元から絞り出る
人も 夢も 闇も
何も 考えずに ただひたすら
自分をこぐ
風は あの人に挨拶をしましたよ。
風は 素直にピューと鳴りましたよ。
風は あの子に優しく出来ましたよ。
風は 元気にそよぐ事が出来ましたよ。
自転車をこぐ 自分をこぐ
上り坂の頂上 自分の未来
その先が見える所まで
その先が分かる所まで
がむしゃらに 清き汗を流しながら
がむしゃらに
がむしゃらに
がむしゃらに
エントリ24 『睡眠病』 橘内 潤
睡眠病に冒された彼女は、今日もまた眠りつづける。
医者曰く、夢の世界で泣いて笑って傷ついて額に汗して今日も一日生きている ――のだと。
眠りの中で、彼女は夢を見る ――のだと。
それは自分が永遠に眠り続けている夢で、その夢の中で彼女は夢の世界を生きている。
夢の中の彼女はやはり睡眠病で、そうして夢の見る夢の中でまた夢を見て、
そうして夢の世界で、泣いて笑って寝る間も惜しんで働いて、線路に落ちて轢死する ――のだと。
夢の世界で死んだ彼女は、夢なら醒めて、と願うらしい。
そうやって夢のシャボンがひとつづつ弾けていって、それでようやく睡眠病が治るらしい。
「ぼくも死んだら、治りますか」
そう尋ねてみたら、
「できないでしょ、そんなこと」
医者は、ぼくの左手首の十字疵を見て笑った。
エントリ25 電車の中にスズメバチ ヒヨリ
「信ジラレナイ」
という顔をして
死んでいく奴が
嫌いだ
同情なんて、するもんか。
エントリ26 タイム・マシーン 深神椥
「あの頃に戻れば幸せになれるよね」
僕はそう思いながら、
タイムマシーンを動かした
(I%%%%%。
まっ、失敗は成功のもとって言うからね
エントリ27 彼岸花 凛
あなたという小さなかけら
中心に
私
引き裂かれ
血まみれ
天を仰ぎ
声すらなく
涙 流す
しゃがみ込み
血溜まり
赤く
赤く
永劫の時
流れ
果ては
土手の彼岸花
エントリ28 ローマへの道 ぶるぶる☆どっぐちゃん
細いタイルの道は
歩くたびに割れて
美しい音がする
遠くからは
聞き慣れない歌
きっと遠い
昔の歌
「ごめんなさい」
「さようなら」
「許して下さい」
砂浜にはそのような文字が消えずに残っていたね
一年も前から
旅を続ける私達
許されない私達
絶えない波の音を聞き続ける
だから遠くでは
目に見えないほど遠くでは
炎上するスクリーン
抱き合う男と女
早口言葉
のように
「愛してる」
ともかく雨は止まない
スペイン荒野に
ただ雨は降る
エントリ29 まなざし 詠理
眠たくなるような浪のうえで
息を止めた
溶岩の遠吠えがきこえる
ガシャン
緑色の魚はねて
一瞬だけ青くなる
淡くはない
こつこつ
また眠たくなる
目をひらいたまま泡に
へばりついて
ざぶざぶ
だ
訴えるのっぺら
やってくるな
分裂のない細胞
くる
天上からビニル
ビニルの衣が降る
衣の足取りが浪を伝って
腐りそうもない足取り
頑丈なリズムで
伝って
眠たい
息は止められた
桃色の皮膚
ビニルの指に
止めた
いき?
ガシャン
あいわからず
僕の身体からはあらゆる
オーが
生成されている
浪のうえで
遠吠え
また遠吠え
エントリ30 午後 日向さち
あなたのひざに乗って
のどをなでてもらい
お腹もなでてもらって
甘えてすごす午後
でも肉球をさわられたら
あなたの手をすりぬけて
そっぽを向くことに決めている
エントリ31 たまご 葉月みか
しん と 冷えた
真夜中のキッチン。
スリッパの足音、やけに 響く。
母さんの作ってくれたエビフライも食べず、
自分の部屋にこもっていたワガママ娘が
今頃になって、お腹を空かせてシンデレラタイム。
黙りこくったテレビ。
父さんのいないソファー。
明かりの消えたダイニング。
中々に、きまりが悪いでないの。
まったく。
ああ、もう、やってらんないってば。
ファンを低く唸らせつづける冷蔵庫から
たまご 二つ、取り出す。
ひんやり。
するり。
手のひらにすっぽり収まった彼らと、
なんでだろ。
しばし にらめっこ。
ここんとこ ずっと、
たまごの上を歩いているような、
そんな 気持ち。
ねえ。
そんな風に言えば、わかってくれる?
蟹玉、だし巻き、茶碗蒸し
巣ごもり、オムレツ、目玉焼き
プリンにメレンゲ、カスタード
この殻の中から
たくさんのおいしいものが
産まれてきちゃうんだぞ。
妙に真剣に
たまご 握り締めてたら、
ほんのりあったかくなってて、
でも なんにも孵ってこないの
知ってる から
だから
だからってワケじゃないかもしれないけど、
わたし 泣いてて
しゃっくり 止まんなくなっちゃって、
でもだけど、お腹も啼き出す始末だから。
だから
だから コンロに火を点けよう。
銀のボールに たまご コツリ。
鮮やかな二つの黄色 すべるように踊り出て、
ふるる 震えて、ぴたり 静止。
キミたち。
その殻の中から
たくさんのおいしいものが
産まれてきちゃうんだぞ。
産まれてきちゃうんだぞ。
産まれてきちゃうんだから、
だから
キミは覚悟してなくちゃダメなんだからね。
とりゃっ
エントリ32 鳥取砂丘 ながしろばんり
砂に埋まったらくだを
ブツブツ云って掘り返す
道路を隔てた土産屋で
二十世紀梨を味見する
鳥取砂丘 ミミズが元気
この塊は 何のフン
砂の溜まった運動靴を
ブツブツ云って脱ぎ捨てる
空は青空 汗は潮
登った先は 日本海
鳥取砂丘 馬もいる
この高まりは 何の縁
砂に埋まったらくだを
ブツブツ言って掘り返す
思えは遠く来たもんだ
帰りを思うと気が滅入る
鳥取砂丘 永久にあれ
土産に拾うは 何のフン
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