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第13回中高生1000字小説バトル Entry9
教室移動が嫌だった。
音楽室は三階。校舎の最上階にある。私の教室は一階。長い廊下を渡って、階段をたくさん上らなくてはならない。
階段をぼんやり上っていると、そのまま音楽室には辿り着けないような気がする。階段は三階までしかないが、ぼんやりしていれば、三階よりも上へ行ってしまうかもしれない。
二階へ行くために階段を上っていたはずなのに、ぼおっとしていると、うっかりそのまま三階まで上ってしまうのだから、きっとありうると思う。
……普通ではないことを考えるのは得意なんだ。
とにかく、教室移動が嫌だ。
「繭、大丈夫?」
友人が私を心配して声をかけてくれた。今日は体調が悪い、ような気がする。
「保健室に行ってから音楽室に行く」
「一人で行ける?」
「うん」
本当は、音楽室に行きたくないだけだ。
それでも授業を受けなくては成績に関わるので、階段を上らなくては。
私はだらだらと音楽室へ向かった。ほっと一息ついて、教室へ入る。
「え?」
それなのに、教室には誰もいなかった。急に気持ちが悪くなった。みんな、どこへ行ってしまったのだろうか。
「どうしたの?」
扉の前で突っ立っている私の背後から、少年の声がした。見たことのない少年だったが、同じ制服を着ていた。
「誰もいないの」
私は本当に困っていて、どうすればいいのか分からなかった。
「三階じゃないから、誰もいないんだ」
少年は笑っていたが、気味が悪かった。
「どういうこと?」
「君が望んでいたから」
どきっとした。私はいつもここへは来たくなかったから階段を上ることが億劫だったのだ。それなのに、目の前の少年は逆のことを言う。
「僕は君が本当に願っていることしかしない」
私は願ってなんかいなかった。でも、勝手に怯えていたのも事実だ。それが願うという事だろうか。
「『普通』は嫌なんだろ?」
「嫌よ。ここも、嫌!」
「そう」
少年は少し残念そうに言った。
「君がそう願うなら……」
彼の言葉を最後まで聞くことは出来なかった。なぜなら、私は気を失ってしまったから。
気がついたら保健室のベッドの上だった。
後になって先生から聞いた。私は音楽室の前で倒れていたのだそうだ。
少年の言っていた「望んでいたこと」にしては美しくなかったな、と思った。それに、どうしてもあれが私の望みのようには思えない。
もう少し、あの少年と話をしてみたかった。
それから、階段を上ることが嫌ではなくなった。
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