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第14回中高生1000字小説バトル Entry10

その缶

 彼は探し物をしていた。
 朝からずっと探しているのに、一向に見つかる気配はない。
 出す前のゴミ袋をすべて開封して中身を確かめて、せまい部屋のスミからすみまで歩き回った。
 だが見つからない。ふと立ち止まって、真っ青な彼は呟く。
「ちくしょう、郁美のやつだな……」
うつろな目は、フォトフレームの中で笑う1人の女をとらえた。

 気がついたのは、郁美が「その缶」を落としてしまったからだ。
「あっ、ごめん裕也。何か落ちちゃった」
裕也は、郁美が拾うより速くそれに手を伸ばした。そして急いで隠そうとする。
 その態度と、彼の気まずそうな顔に、郁美は何かピンときた。
 青い小さなドラム缶みたいだ。彼が動くと合わせてカラカラという音。
「……それ、写真でしょ?」
裕也は眉をよせて、郁美ではなく缶を見た。自分を見つめて「ゴメン」と謝ってほしかった彼女は、憤慨して缶をもぎ取ろうとした。
 裕也はその手を荒々しく払い除けて郁美をにらみつけた。
「前の彼女だよ、触るなってば」
 郁美は嫉妬深い質だ。
 もしかして、私よりもかわいい女の子かしら……
 どうしても、裕也の「元彼女」を見てみたくなった。目は大きいか、髪は長いのか、背は高いのか、自分に劣るか勝るか……。

 自分を抑えきれなくなって、ついに昨夜「その缶」を持ち出したのだった。カゼをひいた裕也の看病という表の名目に、真の目的・「缶を借りる」ことを隠して…。
 勿論、無断である。夕暮れになり人の消えた公園で、彼女は缶のフタを開けた。
 とたんに、彼女の耳に膨大な数の叫び声が飛び込んできた。

 いやたすけてだしてここからだしてあのおとこのろってやるいえにかえしておねがい

 一瞬で、
「きゃあぁぁぁ!!」
郁美は缶へと吸い込まれていった。ありったけ出したはずの声も、缶が飲みこんだから誰にも聞こえなかった。
 いや、彼には聞こえていた。
 裕也は公園の遊具から顔をのぞかせた。
「あーあ…だから触るなって言ったのに。ま、俺は我慢強い女がタイプだから、ちょっとしたテストってところかな?なあ、郁美」
彼は、拾い上げたその缶をカラカラふった。何千何万という大合唱は、ただ乾いた音にしか……それすら聞こえなかった。
 いや、彼には聞こえていた。
 今までに何回も、その声を聞いてきたのだから。

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