←前 次→

第14回中高生1000字小説バトル Entry9

無名兵士



大国同士の間に勃発しかけた戦争を、
一人の兵士が両国の首相を説得し、
食い止めたという伝説があるという―――。



「何をしているんだい?」

綺麗な子供。多分、そう言うのが一番しっくりくるだろう。
艶のある長い黒髪。透けるような肌。宝石を閉じ込めたように煌く瞳。成長したら、さぞ人目を引く美女になるに違いなかった。

十歳に満たないその少女は、熱心に枯れ木の枝を組み合わせていた。
何かの形を作っているのだろうか。

見知らぬ男に尋ねられたのを不思議に感じたのか、少女は小さく首を傾げた。

「お墓を作ってるの」
「……誰のだい?」
「お母さん」

母親のお墓。
申し訳なさとやるせなさが、同時に胸に込み上げてくる。

「おじさんは、兵士?」
おじさんと言われたことに苦笑しつつ頷くと、少女はにっこりと笑った。
「お母さん言ってた。兵士さんに会ったら、頑張ってください、って言うんだって。私達の生活が楽になるように、他の悪い国と戦ってくれてるんだからって」

心臓を、槍で貫かれたような気分だった。

「頑張ってください」
笑顔でそう言い放つ幼い女の子に、どうしようもない罪悪感が膨れ上がる。


(言わなくて、いいんだよ)

拳を握り締めた。国蘇ってくる、国を発つ時響いた国民からの声援。敵を蹴散らせと、最後まで叫んでいた隊長。銃弾に倒れていく中間達。
戦火。爆撃。全てを灰にした、敵の容赦ない攻撃。悪夢の一ヶ月間。

(おじさん達は、戦争に負けたんだから)

敗戦。国に戻って来た時の国民の瞳は、冷たかった。
店から弾き出され、暴動が度々起き、何度か殺されかけた。
残酷過ぎる人々の心。
家に残っている筈の妻と息子の姿も見えず。
捜し続けて、街道で炎から逃げ切れず二人とも焼け死んだと解ったのは一週間前のこと。

「おじさん、泣いてるの?」
心配そうに覗き込んで来た少女を見て、良い子だな、と思った。

奪われすぎた命。

絶対に報われない。報われる筈がない。

何を思い、何を信じて死んでいったのだろうか。


「おじさん。お花、いっしょに摘んでくれる?」
優しい微笑みを見せた少女の頭を撫でる。
絶対に守って見せると。
そう、誓った。
哀しみしか生まないその虚しい戦いを、二度と繰り返させるわけにはいかないから。





この出来事が歴史に呑み込まれた未来。

大国同士の間に勃発しかけた戦争を、
一人の兵士が両国の首相を説得し、
食い止めたという伝説があるという。

国の危機を救った彼を、人々が名前で呼ぶことはない。

←前 次→