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第16回中高生1000字小説バトル Entry11

見晴らしの木

 玄関に入って無意識に、親父の写真に一礼する。
 事故で親父が死んで、五年経つ。いつのまにか親父の死は、日常に没してしまった。いや、没したのは俺自身かもしれないが。斎藤顕二、享年十七歳…
 二度目のドアベル。性急な客だ。
 覗き穴の向こうには、ちびで色黒の少年がいた。
「何だ?」
「あ、ちょっと近くまで来てくれる?」
 印象とは裏腹に、おとなしい物言いだ。見覚えはないが、その雰囲気だけは、知っているような気がした。

 近くの公園の、中央で屹立する欅の下まで連れて行かれた。ここに立つのも久しぶりだ。
 今日も、葉の群れは遥か高みにいる。遠目には二十米もない欅だが、この幹を延々登っていけば、きっと天にも届くのだ。
「行こう」
 少年の言葉に、上げていた視線をおろす。何のことかわからず、聞き返そうとしたその時――
 頭上でざわりと音がした。見ると、秋でもないのに葉が降ってくる。やけにゆっくりと。葉は幹に絡まりながら、螺旋状に降りてくる。地面の手前でぴたりと止まり、天へと続く螺旋階段ができた。すぐさま少年が登り始めた。俺も後に続く。
 葉の階段は柔らかかった。それでいて、崩れることもない。その感触を楽しむうち、木の上まで登ってきていた。階段はそこで終わりだ。葉の上に腰を下ろすと、不思議な安心感が俺を包んだ。
 飛行機の轟音が空を過ぎる。
 俺は――いや僕は、飛行機の尻尾を最後まで見つめる。ここは…お父さんの肩の上。ここからなら、僕の目いっぱいに飛行機が映る、安心して手を伸ばせる。僕、パイロットになるんだ――
 少し照れ臭くなって、少年の顔を盗み見る。下を見ていた。
 ずっと下にある公園が、なぜかすごく身近に感じられた。この欅の根元で一心に土を穿っている少女に、ふと目が止まる。虫かごを抱えている。死んでしまった虫を埋めるのだ。頭の中で何かが白く弾け、その少女に昔の自分が重なった。
 親父が死んだ後、手紙を書いた。親父宛。ポストはこの欅だった。
 隣の少年と目が合った。微笑んでいた。
「お父さん」
 ふと、口からこぼれた。その瞬間、希望は確信に変わる。
「この木の妖精に、体を借りたんだ」
 お父さんはまだ微笑んでいる。その顔の横で、細い手が振られている。
 風と共に足元の葉が舞い上がり、二人の間を埋めた…
 気づいた時、欅の幹に手を振っていた。
 その手を握り締め、ポケットに突っ込む。

 見晴らしの木で、飛行機の尻尾を捕まえた。

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