第18回中高生1000字小説バトル Entry5
柏の木に跨って、路傍を眺める。
時間は只過ぎて行き、密やかな不安さえ覚える。
指に絡み付く蜘蛛の糸を、玩びながら幹に擦り付ける。そして玩んだ自らの手を、自らによって誡める。
其の侭時間は止まり、何も動かなくなった。空気すら、地上を漂う事を止め、消えた。
皆無の、地上。
一時此処は、全てを失った。
何を連想するでもない、下らないだけの脳細胞。
既に其処は腐り切っていた。考える事しか出来ない脳細胞は、単調な動きの為平伏し、其れ以外の機能が錆びた。
此処で漸く僕は口を開く。
「完膚なきまでに打ちのめされましたね。」
「ああ。一波わずかに…何て言ったかな。」
「<一波わずかに動いて万波随う>、ですか?」
「そうだな。」
再び動き始めた空気を吸いながら、僕等は息を吹き返す。密封状態に近かった地上が、慌ただしく呼吸をする。
「名前も知らない、性別も分からない。何にも知らない。其れが、幸せだってのかい?」
「少なくとも、僕はそう思っているんですけどね。」
噛み合わない会話は、何時までも続く。何時までも続くから、尽きる事は無い。
「如何してこうなったかは、お前だけが知っているんだろう。」
「さぁ。」
こうしている時間が、心地良くなる時は来るのだろうか。
「俺等は、何時まで生きているんだ。」
「そんな事僕には分かりませんよ。分かるのは、自分の体が段々腐って行く事だけです。」
何時かは、終わりが来る。終わりが在って欲しい。終わりが無ければ、この体は腐り切っても尚生き続ける事になる。
「結局、俺等は如何なるんだろうな。」
「其れは僕達を造った人に委ねてみないと分かりませんよ。此の侭生き続けるかもしれないし、殺されるかもしれない。でも、僕は何でもいいと思う。どうせ人間にコントロールされるなら。」
人間が嫌い等、言った覚えは無い。然し幾度も聞かされていたような記憶は在る。
記憶。僕等の全てが思考と記憶によって成り立っている事を、彼は知らない。僕は彼より少しだけ頭が良いように造られた。所詮僕は造り物の、人間の言葉を持っただけの器にしか過ぎない。
彼は考えて、学習した。
そして答えを見つけた。
「今、殺してくれねェかなぁ。」
僕等造り物にとって、「死」なんてものは存在しない。存在するのは形だけ。
この場所では、消毒液の臭いが常に漂っている。
僕等は新しく地球に降り立った、人間のクローン。