第19回中高生1000字小説バトル Entry11
"東の荒野"をよこぎることは誰にもできないという。
だからそのシマリスが"豊かの森"にいくといったとき、彼をひきとめない者はいなかった。
"荒野"の向こうにあるといわれる"豊かの森"。
この貧しい森でしんでゆく、たくさんの同胞をやしなえるだけの食べ物がある"森"。
――ぜったいにぼくが"森"への道をひらいてみせる。
いいきったシマリスもとうとう、ほおぶくろに三粒のドングリをつめこんで、朝日ののぼる大地へとたびだっていった。
ひびわれた岩の影で、シマリスは脚をやすめる。
緑の欠片すらみえない地平線。ふりかえればわきあがる不安。
しかし、彼の目にうかんできたのは怒ったような泣き顔でお守りを首にかけてくれた母親の顔だった。
――大丈夫。このお守りみたいにぼくも……。
立ち上がったシマリスは一路、"森"へとはしりはじめた。
シマリスはうつぶせになって、砂嵐がすぎさるのをまつ。
大気をみたす突風のうなり。ふきとばされそうな小さな勇気。
しかし、彼の耳にきこえてきたのは姉夫婦と七人の子供たちが枝の上でうたってくれた祝福の歌だった。
――やらなきゃ。あの子たちにもたくさんの幸を……。
嵐のあと、シマリスは身体をぶるんとふるわせて、ふたたびはしりはじめた。
さえぎるもののない太陽の光が、シマリスの毛皮をこがす。
陽炎のたちのぼる焼けた大地。あるくたび身体をつらぬく激痛。
しかし、彼がおもいだしたのは森の外れまでついてきた幼馴染みのよこしたはじめてのキスだった。
――"森"についたら、まず、あの子とくらす樹をさがすんだ……。
シマリスは一歩一歩、足跡をきざみつづけた。
夜。
シマリスはたおれた。
彼の脚は地上を長く走るためのものではなかった。
彼はそれを初めてしった。
自分もしぬことがあるのだということを。
所詮、夢物語だったことを。
一人の力では、どうするとこもできないことがあるということを。
――ごめん、みんな……。
――でも、だいじょうぶ。
シマリスはほお袋から最後の木の実をとりだした。
そして、つぶれた前足で、荒野に小さな穴をほりはじめた。
東の荒野に小さな林があるという。
荒野をよこぎり、"豊かの森"へとむかう動物たちは必ずそこで歩をやすめ、湖の水でのどをうるおし、果実で腹をみたすそうだ。
まるで離れ小島のような林。
その中心にある大木。
その隣にある、いまは土となってしまった、
ちいさなふくらみ。