第19回中高生1000字小説バトル Entry9
旧友がFAXで送ってくれた手書きの地図なんか、役に立たない。
どうしてここは、こうなんだ。
東京は都会だということは知っていたが、生来長野で生まれ育ったおれには、いささかこの喧騒はうるさく聞こえるし、通りすがる人々もおれと同じ日本人には見えない。これなら、旧友の招きなんか受けずに大学のサークル仲間とつるんでればよかったな。
おっと。考え事してる場合じゃない。さて、渋谷駅は…。
「ねえ、ちょっと、堀内君じゃない?」
不意に名前を呼ばれて、おれはどきっとして振りかえる。
髪を茶色にした、おれと同年代くらいの女だ。
振りかえったおれの顔を確認すると、女はにわかに笑みを零した。
「ほんとに堀内君だ。うっわー、何年ぶり?」
「?」
はて? この女は誰だろう。口ぶりからするとおれのかつての知り合いらしいが、覚えていない。
おれは首を傾げてみるが、女はてっきりおれが自分を覚えていると思っているらしく、おれのリアクションに関して触れるようとしない。
誰だ?
なんとなく、鈴木っぽいけど。
「折角会ったんだしさ、お茶してこう。そこの喫茶店で」
女に促されるまま、喫茶店に入る。
コーヒーを啜りながら、まだ考える。
高校の友達ならまだ覚えてるはずだ。じゃあ小学校か中学校?
うーむ。
西澤か? 小林? 太田かも? 湯本って線も? それとも池田? なんか違うなあ。意表を突いて手塚か? それも違うな。
我ながら人の名前と顔を思い出せないなんて、珍しい。
淡々と言葉を重ねる女に適度にあいづちを打ちながら必死に、何か思い出せるような話題をしてくれないかと願うが、女は最近の世相を語るばかり。懐かしそうな顔をしてたのに、ひとっつも昔話をしようとしない。
いっそ正直に覚えていない、と言うべきだろうか。
いやいや待て待て。
この目許、口調、髪、雰囲気…。ええっと、誰だっけ。
あ、もしかして岡崎? でもあいつは海外へ留学してるはずだよな。
ああわかった。津村だろ? ん? でも確かあいつ男じゃん。ヤバイヤバイ、なんか混乱してきたな。
一体誰なんだ、この女。
気になるなあ。
…あっ、手の甲のホクロ。
やっぱこいつ、鈴木じゃん。
って、オチになってないぞ、これじゃあ。
おれはコーヒーを飲んだ。