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第21回中高生1000字小説バトル Entry13

笑う


スクリーンの奥で女の人が泣いてた。
その腕に抱かれた男の人が静かに目を閉じた。愛しているよ、と言い残して。
女の人が呆然と彼を呼ぶ。彼は答えない。

また呼ぶ。
また答えない。

呼ぶ。答えない。呼ぶ。答えない。

女の人が叫ぶように泣いて、映画館には悲しげな溜息が充満した。
僕は笑う。
唇の端を吊り上げて、喉の奥で笑う。

何人かの大人が僕を振り返ったけど、僕は構わず笑ってた。
スクリーンの中で女の人が泣きじゃくる。
映画館の、ど真ん中の席で僕は笑う。
別に男の人が死んだのが嬉しい訳じゃない。悲しくないだけ。
なんで他の人は悲しがるのさ。

現実じゃないのに。

スクリーンの中の人たちは僕のことなんか見向きもせずに話を進めていく。

僕の席とはとても近いのに、空間が違う世界。
同じ時間を所有しているのに刻むときは違う。
その『違い』が異様に可笑しくて、僕は笑う。

誰かが鼻をすする気配がした。
それはスクリーンの中じゃない、この映画館の中だ。

「…あは」

つい笑いが漏れてしまった。

何を泣いてるのさ。

現実じゃないのに。

現実じゃないのに。現実じゃないのに?現実じゃないのに!

「あははははっ」

僕がどんなに笑って、周りの大人に睨まれても
スクリーンの中では相変わらず悲劇が展開されてる。
近いのに遠くて、同じなのに違って、
何故だかやたらと可笑しい。
僕は笑う。

笑う。


笑う。



夜中、父さんが母さんを殺すのを見た。
『僕の』父さんが、『僕の』母さんを殺してた。
現実の光景。

でも、うすいカーテン越しに見たそれはまるで映画のようだった。
裏切り者が、殺される瞬間のようだった。

「あは」

近い。遠い。
同じ。違う。

「あははは」

現実だってわかってたけど、実感なんてなかった。
噛み殺すのをやめて、僕は素直に笑った。
僕に気付いたらしい父さんは、しばらく迷ってたみたいだけど
母さんを刺した包丁を持ったまま僕のところまで歩き始めた。
僕、殺されるのかな。
父さんに?母さんみたいに?
殺される、のか。

「あはははははははは!!!」

何故だか、やたら可笑しくて。
僕はずっと笑ってた。

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