第21回中高生1000字小説バトル Entry12
今わかった。
今までとてもワガママだったこと。
まわりを巻き込むような迷惑をいつも掛けていたこと。
それなのに、可哀想なのは私だと思いこんで…。
なぜまわりは私を苛めるのかと頭を抱えて、目を瞑って。
本当の自分の姿を、見ようとしなかった…。
私は被害者なのではない。
私は加害者だった…。
「ああもう…わかったから…」
深夜、静まり返ったキッチンで、加奈子は自分の心臓が痙攣するのを感じていた。
左手に握っていた包丁は、いつの間にか絶望のまま床に滑り落としている。
赤く染まった床。
その染みは今もなお、その規模を広げている。
〈…どうかこの血を、止めて…〉
震える右の手首を呆然と、加奈子の瞳が見詰めていた。
普段ならばこんなものを直視することなどできないはずだった。
赤く裂けた傷は赤々と煌めいて、血は泡を吹く勢いで流れ出てくる。
それはまるで自分の命の終わりを告げるように…。
〈…怖い……〉
右の腕に散る幾筋もの線は加奈子の付けた「ためらい傷」だ。
刃物を皮膚につきたてはするものの、死というものに直面する恐怖。
そして今 生のある体に対する痛みへの恐怖。
この体を傷付けるという恐怖が、このためらい傷をつくらせる。
震える手により、その傷はギザギザと不気味な形を作りだしていた。
この特有の傷の形こそ、ためらい傷というものの最大の特徴である。
そして、刃はこのためらいの後に致命的な傷をその手首に刻んだ。
深く食い込んだのだろう。
溢れ出る赤い血を目の前にしたショックに、
握りしめていた包丁を握り続けることはできなくなっていた。
これがあの床に滑り落ちていた包丁である。
赤い液体が床に座り込んだ加奈子の足を濡らす。
暖かい。
生きている証拠がこの血にはある。
その血を今物凄い速さで、加奈子は失い掛けている。
「ああ…、ぁぁ……嫌……」
〈私が悪かったの。 自分を過賞してたから…〉
どんなに自分が未熟だったか…!
それに気が付いたのだからどうか…
〈お願いだから…このまま死にたくない…〉
「お父さん、お母さん……!!!」
〈お願いだから…私を助けて……〉
叫び声をあげたその反動で、
加奈子は自分の抜け出て行く血を感じながら倒れ込み、意識を失った。
***
異常な娘の叫び声に起こされた両親が加奈子の元へ駆けつけたとき、両親は言葉を失った。
見開かれたままの瞳には涙が幕を張り、玉のような涙は頬を濡らしている。
そしてその娘を濡らすものは何だろう。
赤く、ドロリとしたこの液体は……。
父親は直ちに救急車を呼んだが、母親は恐怖のあまり、その場に佇んでいることしかできなかった。
我が子が、親よりも早くこの世を去るなんて
そんなことは考えもしたくない。しかしつきたてられた現実は母親を絶望の淵へと追いやっていた。
救急車のサイレンの音。
それは心臓の動きと重なった。
***
「知ってる? 自殺をして助かった殆どの人がね…あの時死ななくて良かったって…」
「あの時ね、私、動けなかった。…ごめんね、お母さんなのにね…怖かった。…このままカナが死んじゃうんじゃないかって…」
「……よかった…。例えどんな子であろうとね…、あなたは、私のただ一人の子供なのよ。…忘れないで」
母の言葉が胸を満たしていく。
腕に巻かれた包帯が現実を教えてくれる。
ああ、あの時、死ななくて良かった…。
この言葉に、そんな重みがあるとは思っても見なかった。
「死ななくて…よかった……。」
やり直すことができる。
だって、こうして生き残ることができたんだから…。
もうあのころの馬鹿な私を、繰り返さないから…。
「ありがとう…」
この命が、一つであることを忘れない。