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第21回中高生1000字小説バトル Entry1
洗濯物泥棒。
都会では珍しいことでなくとも、ここでは大ニュースになる。実際には誰も泥棒の
姿を見た事がないくせに『見知らぬ男に注意!』と観覧版まで回ってきた。町内会も
暇なものだ。これくらいしかすることがないのだ。
しかし僕はたった今、噂を否定できなくなった。
目の前に僕の服を触ろうとしている人影が見えたのだ。
「さ、来やれ」
長い黒髪を腰まで垂らした少女は、静かに言った。同じ年頃だろうか。伏しがちの
目をゆっくりと開いて僕を見た。思わず表情が固くなるのを感じる。
「泥棒? …その前に、人間?」
僕は取込みかけの洗濯物を抱えたまま、棒立ちになる。ぬるい晩夏の風が足元を通
り過ぎてゆく。体が金縛りにあったように動かない。どうしたというのだ。僕は足が
震えているのを感じた。
「答えずともよかろ」
少女はふわふわと雲の上を歩くような足取りで近づいてくる。そこで僕はようやく
気づいて、目を伏せた。
「その歳で女の裸も知らぬのか」
薄い浴衣のような着物を打ち掛けたのみの姿で少女は笑う。
「そんな格好じゃもう寒…」
「季節など感じぬ。感じぬが…美しい物が欲しい」
そう言って少女は、妹のキャミソールと父のシャツを指差した。もっと綺麗な物
が、と言いかけてやめた。彼女は生地のつるりとした、いわゆる合成繊維のものを欲
しがっている。
「…有難う」
鮮やかな色のキャミソールに男物の見るからにサイズの合わないシャツを羽織り、
僕のカーキ色のカーゴパンツを履いた姿で少女は微笑んだ。
「今宵の事は秘め事にしようぞ」
ヒメ、という名を名乗り、彼女は夜の帳を潜って消えた。僕は母親に呼ばれるま
で、ずっとそこに立ち尽くしていた。
「また出たんだ、泥棒」
それに大して全く、友人は気楽なものだ。
「今度はジャージなんて盗みやがった」
ヒメはもう我が家の服には飽きたのだろうか。友人の話を聞きながら、僕は答えの
出ないことをぼんやりと考えた。彼女にも着替えたい気分の時だってあるだろう。僕
は、学校指定のジャージをぶかぶかに着た少女の姿を想像して少しだけ笑った。
「明日にでも古墓地に行ってみろよ」
「…裏山の?」
僕は頷いた。今夜、僕は庭に立とう。洗濯物をたっぷり抱えて。
「きっと戻ってるよ」
ヒメとの約束は守ろう。あのことはヒメと僕だけの秘密だ。今度はヒメはどんな物
を欲しがるのだろうか。この程度の不思議な事ぐらいなら、あってもいいだろう、と
僕は思った。
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