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第22回中高生1000字小説バトル Entry2

秋の海

 僕らはきっと、何もかもを否定していなくちゃ死んでしまう。

 新学期が始まって、それから何回か夜が来て、
 不真面目な僕は、やり残した宿題に追われながらゆったりと日常に孵る。

「ねえ、海に行こう」

 君がそう言い出したのは、なんの変哲も無い金曜日の夕方。
 あまり相応しくない空模様。
 垂れ込めた灰色に、僕は流行りのR.P.G.を思った。
 或いは項垂れた犬。

 バスを2本乗り継いで僕ら2人共通の、昔馴染みの離縁した母親の、その、実家の 前を、君と僕は一切何事も無かったように、通り過ぎ。
 前に来た時、紫陽花は炎天下のもと白茶色に、その枯れ朽ちた身を輝かせていたの に。

 ジャリ、と、僕のボロいスニーカーは汚いアスファルトを踏んで、僕らは閑散とし た小さな駐車場から身を乗り出した。

 穏やかな海は、泣いている。

 風が、強い。
 まとわりつく、柔かいネコのような髪を、君はしきりにかきあげ、僕は日焼けし て、茶色くなった父さんの文庫本を開いた。
 空は、どこまでも灰色。

「私は毎日、煙になって空を飛ぶ夢ばかり見る」

 僕は、君の独白を聴くのが好きだった。

「望んでなど、いないのに」

 君は、夢を見、それを語るには如何せん、険しい表情のまま。

「それでも、可愛がった猫の死に目には逢いたいわ」

 僕は少し考えて、それから言葉を選んだ。

「…祈ればね」 湿った空気が、背をジトリとさせる。

「随分と、遠いところまで来たね」

 僕は小さく頷いた。

「…もう、曖昧でしかいられない。もう、抽象的でしか、いられない。僕らはリアル から切り離されてしまった。これ以上無い程の、 」

 僕は君に手を伸ばす。――やっぱり、だ。触れられない。

「視覚的な事実なのに」

 君の胸、透けて向こう、灰色の空を掴んだ指先が白くなるほどに握り締めれば。君 は一層、その綺麗な眉を悩ましげにひそめて、それから薄く、笑う。

「何故、僕のところに還ってきたの」

 君はあの、狂うように太陽が照った夏の日に、気違いのような蝉が鳴いていた夏の 日に、姿も見せずに消えた。まるで可愛がった猫の様に。

 僕に向き不向きを教えたのは君だし、僕にも出来ないことを気付かせたのも君。

 いくら理論立ててみせても、何一つ。

 それでも君の存在を僕は否定したくない。
 気狂い染みた矛盾の中で足掻く。

 唯、まだ触れれた君の隣りで、全て知れた気になっていたのが懐かしくて。
 …少女趣味だ、って笑うかい?

 僕らは結局、

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