第23回中高生1000字小説バトル Entry3
分離してしまった。
一言も言葉を交わさないまま。
一口も飲んでいないまま。
くっきり ふたつに。
分離してしまった。
濃い茶色の層と、その上の白っぽい層。
ふたつに、なってしまった。
暗くなりかけた空に、店内は照明を強める。
それでもやっぱりどこか薄暗い店内で、
赤と青のランプは静かに光をたたえていた。
窓際、彼女が気に入っていたソファの席。
雨の降り出しそうな空に目をやろうともせず、
彼女は目の前に置かれたカップをただじっと見つめていた。
ホットコーヒーと向かい合うように立つ、コーヒーフラペチーノ。
見慣れた、その姿。
混ざっていたはずの生クリームとコーヒーは分離してしまっている。
がしがし、がしがし。
多少の力加減をしながらコップを振る。
元に戻ってよ。
ひとつに戻ってよ。
がしがし、がしがし。
彼女はコップを振り続けたけれど
コーヒーとクリームは頑固に分離したままだった。
コップを置いて、ささっている緑のストローを上下する。
ふたつが混ざるように。
もう一度 ひとつになれるように。
がしがし、がしがし。
手が疲れるだろうに、
それでも彼女はストローを動かしていた。
目の前にいる人物など、見ようともせずに。
ただストローを上下させていた。
そのまま、しばらく時間が過ぎる。
静かに彼女を見ていた彼は、ゆっくりと口を開いた。
「もう 終わりにしよう」
…………………。
がしがし、がしがし。
深く俯いたまま、それでも彼女は手を休めなかった。
混ざって。分離しないで。
もういちど。
もういちどだけで、いいから。
「…終わりに、しよう」
がし…
「………」
手が、止まった。
それからまた、堰を切ったように夢中でストローを上下させる。
彼はしばらく彼女の手が乱暴に上下するのを見ていたが、
少し 顔を伏せた。
まったく混ざる気配のないフラペチーノの正面で、
冷めてしまったホットコーヒーは
ただ静かに立っていた。
がしがしがしがし。
珍しく人の少ないコーヒーショップ内に、その音が響く。
がしがしがしがし…
ぱたり、と。
テーブルの上に、雫が落ちた。
コーヒーとクリームは、もう混ざり合えなかった。