←前 次→

第7回中高生3000字小説バトル Entry14

ぱらのいあ

 病室参百四号室。
患者名:糸口多恵子 性別:女 年齢:二十三歳
病名:偏執病→
   パラノイア{paranoia}
   体系立った妄想を抱く精神病。
   妄想の主体は血統・発明・宗教・訴え・恋愛・嫉妬・心気迫害など。
   妄想症。

特記事項:十二月十六日。
       ハルシオンを瓶一本飲み下し、緊急で運ばれる。
       十二月十七日。
       緊急室より、精神科へと移動。
       入院。

担当医:滝口和磨


 …十二月二十一日…
二度目の回診。


「先生…自殺を図ったのは謝ります。御免なさい。
だから、此処から、早く出して。」

『…そうはいかない。君は病気なんだ。
治るまで、此処にいなくてはいけない。分かるね。』

「先生。あたしは病気なんかじゃない。
狂ってなんていないわ。あたしは大丈夫よ。
だから、お願いだから出して。」

『君は、自覚していないだけなのだよ。
君は、れっきとした病気だ。
病名だって、ちゃんとあるんだ。』

「…あたしは、病気なんかじゃない…。
狂ってなんて無いわ。
…出して…此処から出してよ!!」

『それでは、僕は行きます。
お薬、きちんと飲むように。
…それでは、お大事に…。』

特記事項:暴れる傾向が有る。
参百四号室の患者、
     彼女はしきりに狂っていない事を証明しようとする。
     「狂っている」という事に異常な執着を持っている。
     …彼女は、確かに狂っている。
     確かに精神病を患っている…はずだ。

 …十二月二十九日…
八度目の回診。


『また、暴れたそうだね…。
君の症状は軽いし、君は正気を保つ事が出来るのに、
それなのに、何故。』

「…あたしを狂っている、病気だ、って扱うからよ。
あたしは、狂ってなんていない。
正常よ。
何処が狂ってるって云うのよ。
如何して此処に閉じ込めるのよ!!」

『暴れたら、もっと退院が遅くなってしまうよ。
今は、我慢してくれないか。』

「嫌よ。
もうこれっぽっちも待つのなんて嫌。
病気扱いしないで…。
お願いだから…。」

『…また、明日、回診に来ます。お大事に…。』

特記事項:近頃、よく泣きながら暴れるらしい。
     沈静剤を投与する機会が増えた。
     病気扱いされる事を、嫌がる。


 …一月三日…
十一度目の回診。


「先生も、あたしが狂っていると思っているんでしょう。」

『…君は、病気なんだよ。』

「…病気扱いするのね、やっぱり。
此処の看護婦は嫌い。
あたしを狂ってると思ってる。
精神病患者の扱い方をする。
先生もそう。嫌いよ。」

『仕方ないだろう。君は、確かに病気なんだ。』

「精神病患者は、人間じゃない。
そう云う扱いをするわ、あんた達は。
狂ってもいない者を捕まえて、
精神病患者に仕立て上げて…。
それであんた達は、私たちを世間から排除するんだ。」

『…』

特記事項:「精神病者は人間ではない。そう云う扱いをするわ。」
      彼女の言葉が、引っかかった。
      僕達は、自然と患者の事をそんな風に扱っていたのかと、考える。
      狂っていると思って、患者の言うことを聞かない事も多い。
      僕達は、ちゃんと彼らを本当に一人の人間として、
      一つの人格として彼らを捉えていただろうか。


 …一月五日…
十二度目の回診。

『やあ。昨日は大人しくしていたそうですね。
具合は如何ですか?』

「ねえ、先生。聞きたい事があるの。
…狂ってるって、如何云うことなの…?
何が狂っているの?
人と少し違うだけなのに、如何して狂っているっていうの?
どうして、人として見てくれないの?
人と違う事をするのが、そんなにいけないことなの…。
ねえ、先生。教えてよ。何が悪いの?
如何して?如何してなの…?」


特記事項:…真面目に、考えた。
      狂っている、とは如何云うことなのだろう。
      何が如何狂っているのだろう。
      人と違う事をする事の、何がおかしいのだろう。
      …僕には、解からない。
      解からないのだ。


 …一月六日…
十三回目の回診…ならず。
午前三時二十四分、見回りに来た看護婦に因って死を確認する。
死因は、十八階からの飛び降りによる即死。
遺書らしき物が見つかるが、死の原因はわからず。
残された手紙には只、
「あたしは、狂ってなんていない」
とだけ在ったという。

特記事項:彼女が死んだ日の朝、僕は看護婦から彼女の死を聞かされた。
     看護婦達は、
    「あの人は狂っていたから」
     とひそひそと噂話をしていた。
     僕は、それを聞いて、何ともいえない気分になった。
     彼女が狂っていた?
     そんな事は、決して無い。
       
     だって、狂っていたのは、私達なのだから。

←前 次→

QBOOKS