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第7回中高生3000字小説バトル Entry13

少女の日の思い出 Ver.1

 デパートでショッピングをしていたら、偶然昔の友人と出くわした。私はガラス細工の置物コーナーにいて、ネコやフクロウを眺めている所だった。
「最近これの収集に夢中になってるのよ。子供の頃からキラキラする物が好きでねぇ。でもあの頃はこんな高価な物を買う余裕なんてなかったから、今こうして埋め合わせをしてるの」と私は言った。
 友人は七色の光を放つハクチョウをしばし見つめていたが、ふいにそれに背を向けると
「これから何か予定はあって? 一緒にお茶でもどうかしら」と言い、半ば逃げる様にしてその場を去った。まるでガラス細工が忌まわしい物ででもあるかの様に。
 最上階のカフェで落ち着くと、友人は困った様な苦笑いを浮かべた。
「ごめんなさいね、でも気を悪くしないで」と彼女は言った。
「貴方の話に、興味がなかったとかそういうんじゃないのよ。実は、私も十一歳くらいの頃ガラス細工が大好きで、でも貴方と同じでお金がなくて、収集したりは出来なかったの。だけど大きなお店でクマのとかを見る度に、心躍らせたものだわ。でもね、私は自分の手でその思い出に傷をつけてしまったの。愉快な話じゃないけど、聞いてくれるかしら」
 そこで彼女は言葉を切って、注文したコーヒーの、湯気のたつ表面を見つめた。ミルクの入っていないコーヒーは漆黒で、それはさながら友人が闇を覗き込んでいるような印象を与えた。カフェ内ではショパンのピアノコンチェルトが流れていて、Eマイナーのそれは、さらに空気に哀愁を足した。そして彼女はスプーンを持ち、コーヒーをゆっくりと掻きまわしながらこう語った。

 「私の家は、本当に余裕がなくてね。洋服は同じ物を週に何度も着なくちゃいけなくて、しょっちゅうその事でいじめにあったわ。そんな時いつも助けてくれたヴァレリーという女の子がいたの。ヴァルは貿易商の一人娘で、賢い上に美人で、クラスの人気者だったわ。だからいじめっ子達も彼女には逆らえなくて、退散するしかなかったのよ。
 私とヴァルは何故か気があって、よく学校の後も一緒に遊んだわ。もっぱら外かヴァルの家で、私の家で遊ぶ事は皆無だった。母がね、嫌がったのよ、家をお見せするのは恥かしいって。ヴァルもその辺をなんとなく感じとってくれて、何も言わないでくれたわ。
 ある時、私達の間でガラスの置き物が流行りだしたの。キラキラ光るイヌとかネコとかを見るためにデパートを訪ねたりしたのを覚えてる。ショーケースの周りをグルグルして、あのクマが可愛い、とかネズミの方が断然良い、とか好きなのを言い合ったりしたの。
 そんな折、十一歳の誕生日に父が小さな箱をくれたの。誕生日はいつもケーキだけでお終いだったから、最初は喜びよりも驚きの方が大きかったわ。箱を開けた刹那も、自分の目が信じられなかった。中には、光輝く小さなガラスの林檎が入っていたのよ! 私は何度も箱を開けたり閉めたりして、林檎が消えてしまったりしないかと確認してしまったわ。そうしてようやく満足すると、父に飛びついて心から、ありがとうのキスをしたの。
 私は次の日早速、学校の後ヴァルの家に行って林檎を見せたわ。彼女もその美しさにうっとりとして、良かったわね、素晴らしいわねと言ってくれたのよ。でもしばらくして、林檎の側面に傷があるのを発見したの。『貴方のお父様は、アンラッキーだったわね。でも、箱の中の林檎全部が腐るのを防いだんだから、良しとしておきましょうよ』と彼女は笑いながら言ったわ。でも、私は笑えなかった。林檎と父を侮辱された様な気分になってすごく不愉快だったから。その瞬間から、私の林檎に対する喜びと熱情は激減して、ヴァルも心の底では私や家族の事を見下してるんじゃないかという疑惑が、頭を過るようになったわ。彼女の事を、相変わらずの憧憬の念に加え、消し去れない嫉妬の眼差しで見るようになってしまったの。
 そんなある日、ヴァルが興奮して学校にやってきたの。何事かと思って訊いたら、彼女はベルベットの小箱を鞄から取り出して、私達の目の前で開けて見せたの。その中には、眩い光を放つ、ガラスの蝶のブローチが入っていたわ。ただの透明だけじゃなく、青や赤や緑に着色されたガラスで出来ていたのよ。あんなに綺麗なガラス細工は見た事がなかったから、思わず言葉を失ったの。『パパがオーストリアから買ってきてくれたの! これはね、ガラスじゃないんですって。クリスタルなのよ!』ヴァルは自慢げにブローチを摘み上げて、光にかざして見せた。煌く光線が、心に突き刺さった気がしたわ。
 放課後、教室に戻ると、ヴァルの鞄がまだそこにある事に気がついた。直後、もう一度あの蝶を見てみたいと言う欲望が頭をもたげたの。もう一度だけだから、と誰とも無しに言うと、私はヴァルの鞄を開け箱を探し出し、ブローチを取り上げた。夕陽に輝く蝶は先程とはまた違う雰囲気をかもし出して、私はしばらくそれに見入ってしまった。
 とその時、遠くから誰かの足音が聞こえたの。私は本能的に蝶をスカートのポケットに隠し、箱をヴァルの鞄の中に放り入れ元通りにしたわ。教室に入ってきたのは、いじめっ子達だった。いつもの様にいちゃもんをつけられ、逃げようとしたら壁に突き飛ばされたの。壁に激突する瞬間、ポケット越しに嫌な感触が伝わってきたわ。私は戦慄して、いじめっ子の手からなんとか逃れると、家に走り帰ったの。
 部屋について恐る恐るポケットに手を入れると、指先に鋭い痛みが走って思わず手を引き出したわ。指の先には血の粒があり、それはみるみる大きくなって指を伝っていった。そしてポケットを裏返して出したブローチは、もはや蝶の形なんてしてなくて、砕けた両羽が無残だった。私はどうしたら良いのか分からなくて、母に全てを話したの。『貴方はヴァレリーに謝りに行かなくちゃいけないわ、ラヴ。そして許しを請わなくちゃならない。貴方の林檎を持っていって埋め合わせにしてもらうよう申し出るのよ。』と母は言い、私は泣きながらヴァルの家に向かったわ。でも、走っていく気にはならなかった。申し訳ないと思う反面、彼女の宝物を壊す事に成功したという、微かな満足感が私の中にあったのでしょうね。自分をこんなにも曲げたヴァルが、なんとも恨めしかったわ。
 けれどヴァルの家に着くと、私は彼女に一切を打ち明けひたすら謝った。林檎をヴァルの手に押し付け、どうかこれで許してほしいと頼んだの。するとヴァルは苦笑して、『…あんなに綺麗だったんだもの、自分の物にしたくなっちゃう気持ちは分かるわ。それに形ある物はいつかは壊れてしまうんだし、しょうがないって思うわ』と言ったの! 自分はなんて醜いんだろう、そしてヴァルはなんて清く気高いのだろうと思うと堪らなかった。私は許しを得た感激で嗚咽が止まらなかった。そして家に帰り、母に抱きつくとベッドに入ったの。もう二度とヴァルを憎んだりしないと思いながら。
 だけど、次の日私が学校に行くと、私の机の上に粉々になったガラスの林檎が置いてあったの。驚いて教室を見回すと、ヴァルを中心に人が集まって、全員が私に侮蔑の眼差しを向けていたわ。肩をいじめっ子に掴まれた瞬間、私は初めて悟ったの。壊れてしまった物は、もう二度と元の形には戻らない上、その破片は今までの全てをも傷つけてしまう事があるのだという事に」

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