第7回中高生3000字小説バトル Entry3
私(わたくし)には、空を見上げる癖がある。
私は、姫子。名字は気に入らないが、この名はとても気に入っている。時々、源氏名などと思う輩もいるがそんなアホウはアウト・オブ・眼中である。私は、わがままで高慢。白い肌も、ぱっちり目も、プロポーションも完璧。でも、そんな事はどうでも良い。ともかく私には、空を見上げる癖がある。前々から癖があったかどうかは知らないが、私はある1人の人間によってこの癖がついたように思う。空の青の深さは、私に思い出させる。
1.夏の空
11月の何日か。空は、異様に強い光を放っていた。私の愛すべきアヒルちゃん達(クラスメート)はヒステリックに日焼け止めを塗りたくり、ペンキのようなニオイを振りまいていた。普通レベルの女子校に入り込んで早2年。こんな光景は見飽きていた。この名のせいか、頭蓋骨にまとわりつく皮のせいか、どうでもいいオトモダチが増えた。決して、「姫子」と呼ばせなかった。私のこの名を、軽々しく口に出すな。
この強い光は、私の全身に「姫子は独りぼっち」と歌っていた。そんな事はもう、知っていた。「トモダチでしょ。」「トモダチだもんね。」を連発しているこの子達の言葉は、安っぽく偽物の香りがした。自由なんて死ね、愛なんてクソ食らえ。それが、私のキャッチフレーズ。私は、空を見上げた。私をあざ笑うかのように雲が平然と浮いている。空は、驚くほど近くて、それは正に、夏の空だった。
2.宵
学校からバス停までの間にとても古くさびていて、大きなトラックが下を通るものなら、ギシギシと揺れてしまう歩道橋がある。見るからに危ない歩道橋は人々に利用されなくなり、忘れかけられている。しかし、私はそのすりきれた青色も、危なっかしさもスキだった。私は、いつも帰り道その歩道橋を渡って帰った。
その日も渡っていた。夏の空の終わりは、とっても呆気なかった。三日月の反対の月がでていた。私は、何を思ったのか歩道橋の真ん中に立ち止まり、ゆっくりと下を見た。冷静だった。何も思わなかった。ビュンビュン通り過ぎる車や、クラクションの音、全てが止まった。私は、「下を見つめる姫子」を見ていた。「姫子」は泣いていた。きれいな塩水が、キラキラ光った。ああ、私は「姫子」の声に気づいてあげれなかった。わかってあげれてはいなかった。ごめんね。
バイバイ、姫子。
「君が死んだら、僕も死のう。」
人は死ぬ時、精神が混乱するという話を聞いたことがある。ああ、幻聴かな。それにしても、ありがちなくだらないセリフだわ、笑える。私は、カバンを足下に置き
、手すりに手をかけた。もう、相当ヤバイらしく、幻覚まで見えてしまった。私の美しい左手の隣に、もう1つ手がある。その手は、吸いかけのタバコを持っていて、灰が風に乗って空に上がっていった。私は、ぼんやりと灰を見守った。空が見えた。暗いけど、やさしい色だった。
「良い色だねえ。」
私は、思わず隣を見てしまった。何ともヒョロッとした背の高い男がいた。天使にも、悪魔にも見えない、生身の人間だった。その人間は、不作法にも私に笑いかけ、手すりに両足をかけた。私は、不本意にも焦ってしまった。万が一、風が吹き落ちてしまえばひとたまりもない。
私は、人間のセーター裾をつかみ、怒鳴った。
「止めてよ!死んでどうすんのよ!とにかく、降りて!」
他にも何か言ったが、もう覚えてない。半分鳴き声で、手が赤くなるほど強くセーターをつかんでいた。その間、人間は空を見上げたり、タバコをポイ捨てしたりしていた。すごく長かったようだけれど、1秒もたっていないようにも感じた。私のおかげか、本人にその意思が無かったおかげか、人間は無事手すりから降り、何事もなかったかのようにニタッと笑って、私が上がってきた階段で行ってしまった。人間は名乗りもしなかった。
再び、車はスピードをあげて走り出し、あちこちでクラクションの音も聞こえた。あまりに、不確かな時間だった。夢の中のような。フワフワして、少し寂しい感じ。私は、もう1度空を見上げた。今日、11月の空が夏の空に見えた。私がこの世界から、今この瞬間消えようとする時と、同じ空の色だった。私は、カバンを持ち、本格的な冬が来ようとしている風を受けて歩き出した。
あれからあの人間には、会っていない。歩道橋も、とうとう通行禁止となった。あの空の色も、永久にない。そして、空を見上げる度、私は思う。私なんか死んだって何も変わらないこの世界は冷たく残酷だけれど、あの瞬間、私はあの人間にたまたま会った。
この世界は、愛情に満ちていて、愛しいと。 おわり