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第9回中高生3000字小説バトル Entry1
「あじぃ・・・・」
夏休み、列車に乗ること数時間、ようやく俺はこの地に降り立つことが出来た。
やかましく鳴り響く蝉時雨が、暑さに拍車をかける。
額の汗を拭いながら見渡した光景は、去年見たものと全く同じで、「彼女」に会えるかもしれないという期待を高めた。
一年前、俺が恋をした、名前も知らない少女に・・・・。
一年前の夏休み、叔父と叔母を訪ねて、一人この田舎町へと旅立った。
辺りに広がるのは田圃ばかりで、遠くには山々が並んでいる。
一面を緑に包まれて、新鮮な空気が清々しい、そんな場所だ。
へんぴな場所だが、俺はここが大好きだった。
都会では味わうことの出来ない、新鮮な空気に、俺は心を踊らせていた。
駅では叔父と叔母が出迎えてくれていた。
久しぶりに会う2人は、相変わらずのやさしい笑顔で、長旅の疲れを癒してくれるようだった。
車に乗ること1時間、ようやく叔父の家につく。
叔父の家は米の集散地で、円錐花序を直立した稲がたくさん生えていた。
木造の大きな家に腰をおろし、ようやく一息つく。
その後、山に登って川遊びをしたり、虫を捕まえてばらしたり、そこいらにはえている植物やきのこを食べたりで、気づけば、日が暮れるまで遊んでいた。
そして夜には、叔父の家の庭で花火をした。
昼の暑さもなく、肌にあたる風が気持ちよかった。
時折、花火に蝉が突撃し、朽ち果てていくさまは実に滑稽で、夏のいい思い出が出来そうだった。
花火のあとには、虫のやかましい合唱会に耳を傾けていた。
そして、ふと見上げた空には、数え切れないほどの星が、まばゆく瞬いていた。
「おおっ・・・」
思わず感嘆の声を漏らす。
都会では決して見ることの出来ない、感動的な光景がそこに広がっていた。
月夜の空にちりばめられた星は大河を創り、時折光の筋が流れては消えていった。
俺はそれをもっと近いところで見たくなり、山に登ることにした。
月明かりが照らす山道を歩くこと数分、木々の切り開かれた丘を見つけた。
俺はそこに腰をおろし、夜空を見上げた。
「綺麗だね、星空」
ふいに、後ろから声が聞こえた。
振り返ると、俺と同い年ぐらいの女の子が立っていた。
涼しげな白いワンピースを纏い、夜風に長い髪の毛をなびかせ、月明かりに照らされた彼女は、どこか幻想的だった。
そして、彼女を一目見て、俺の心が揺れ動いた。
胸の高鳴りを感じた。
いわゆる、一目惚れというやつだ。
「ねぇ、君、ここの人?」
彼女が口を開く。
妙に馴れ馴れしいが、嫌気を感じさせない雰囲気をもっていた。
「いや、夏休みを利用して、数日遊びにきてるんだけど・・・」
彼女は俺の隣に腰をおろした。
「そっか、残念だね。帰ったら、こんな綺麗な星空見れないでしょ?」
「まあ、都会だからな」
「かわいそうにねぇ、私なんか、毎日でも見れるのに」
「その代わり、色々と不便だろ?」
「そんなことないわよ〜、失礼しちゃうわ」
初体面なのに、何故か気兼ねなく話せた。
そして、俺たちはおざなりな会話で盛り上がった。
環境の違う2人が、お互いの自慢話を繰り返し、そして俺たちは急速に親しくなっていた。
「あっ・・・」
ふと、彼女が夜空を指差す。
見上げると、流れ星が瞬いて、そしてすぐに消えていった。
「残念、お願いできなかったね」
彼女が本当に残念そうに呟く。
「それじゃあ、私は用があるから、そろそろ帰るね」
彼女が腰を上げる。
「ああ、またな」
「うん、またね〜」
去りゆく彼女の背中を眺め、俺はどこか寂しさを感じた。
またね・・・・・か。
俺も帰るか。
ゆっくりと腰を上げ、帰路につく。
去り際、もう一度星空を見上げ、瞼を閉じて祈りをささげた。
“もう一度、彼女に出会えますように・・・・。”
あれから一年、俺は再びこの地を訪れていた。
もう一度あいたいという、淡い期待を込めて・・・。
例年どおり、駅には叔父と叔母の出迎え。
車で移動して、叔父の家に着き、そして山に登る。
スイカを川で冷やして流されて、蜂蜜狩りをして刺されて、熊さん達と戯れて、一日を楽しく遊んだ。
そして夜、満天の星空の下、あの丘へと向かう。
数分歩いて、ようやく見つける。
俺は腰をおろし、そして俺は待った。
一年前に出会った、あの少女に・・・。
月のように、俺の心を照らしてくれた。
星のように、輝いていた。
流れ星のように、刹那の間だったけど、俺は彼女が好きだった・・・・。
そして・・・・空に一筋の光が流れたとき、俺は祈った。
「星、綺麗だね」
祈りが通じた。
振り返ったとき、捜し求めていた姿がそこにあった。
「よぉ、今夜もお月見かい?」
「うん」
俺の隣に腰をおろし、そして空を見上げる瞳は輝いていた。
「ちゃんとお願いした?」
「ああ、そして、それは叶ったよ」
「え?なになに?」
「君に、会いたかった・・・」
「え?どうして・・・?」
「それは・・・・」
頭の中用意しておいた言葉が、のどに閊えている。
そもそも、俺は思いを告げる必要があるのだろうか・・・?
どうせ、俺は数日の間ここにいるだけで、すぐに帰ってしまう。
そんな俺が、彼女に何を求めているんだろうか・・・。
「ねぇ、どうしたの?」
黙りこくっている俺に、彼女が疑問符を投げる。
「いや、なんでもないよ」
「あ、そう。ところで、さっき何を言おうとしたの?」
「いや、なんでもない、忘れてくれ」
「え〜、気になるなぁ」
「なんでもなって・・・」
「ふ〜ん・・・・」
止めよう・・・・。
今はまだ、言うべきではない。
なぜか、そんな気がした。
「あっ・・・!」
彼女が空を指差す。
光の線が弧を描いて、夜空を走る。
彼女は瞼を閉じて、両手を合わせた。
俺も瞼を閉じて、願い事をした。
“また会えますように”と・・・。
そして、その時こそは・・・。
「ねぇ、何をお願いしたの?」
光が消えたとき、彼女が口を開いた。
「ん?内緒。君は?」
「う〜ん・・・・たぶん、君と同じことだよ」
そういって微笑んで見せた顔は、ひときわ輝いて見えた。
また、来年も来よう。
俺はそう、星に誓った。
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