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第9回中高生3000字小説バトル Entry2

朱に染まる

私は一介の女でしか無い。だが所詮、私は骨の髄まで女には成りきれない女である。だから、今日の様にスカートや、踵の高い靴を履いてきちんと着飾ってみても、なんだか心持ちがすうっとしないのだから、困る。困るが、一体何の所以でこんな格好をしてしまったのだろうと思う。

昨日、ふたつ年上の姉が衣替えの為に箪笥の整理をして、その時出てきた可愛らしい小花柄の膝下丈のスカートを、サイズが合わなくなったと言い、気まぐれに私によこしてみたのであるが、私といえばいつも小汚い色落ちしたジーンズで、そんな女らしいスカートに合わせる服や靴など持ち合わせていないものだから、貰っても仕方がないよ、と姉に断ったらば、姉は面倒臭げに箪笥の奥からシフォンのブラウスを、押入奥の箱からは、使い古してはあるが綺麗な状態の革のパンプスを引っ張りだし、それらをオマケにして、私に再び押しつけた。高かったんだからちゃんと着なさいよ、と姉は念を押す。スカートもブラウスも靴も、成る程姉が高かったと言うだけあって確かに上品で可愛らしく、だから尚更、姉ではなくて私のような半端者の女の元に回されてきたのが可哀相で、勿体無い。私も洋服達も、どちらも他人行儀で、よそよそしいのが悲しい。

その日は貰った洋服達に袖さえ通してみる気にはなれず、無造作にそれらをハンガーに掛け、私の部屋の隅の棚の角に吊し、その後はそれに全く見向きもせずにいた。だが一晩明けて、私がのそのそとベットから起きあがった時、寝起きで重たい私の目の端に、今にもハンガーからズレ落ちそうな、昨日姉から頂戴したあの白いブラウスが写った。そしてその下には、私が眠っている間にそこから落ちたのであろう、小花柄のスカートの情けない佇まいがあり、窓から入った朝日は、床にポンと放っておかれたパンプスの、光沢のある革の表面をてかてかと照らしていた。こうなっては折角の服自体の美しさも形無しである。
私は何だか後ろめたくて、ハンガーからブラウスを外し、ブラウスにそっと袖を通した。ブラウスのボタンを留め終えると、ブラウスだけではなんだか物足りなくて、次にスカートを履き、パンプスに足を入れてみる。最初ブラウスに袖を通したのは服に対する申し訳無さと同情からだったが、今は別の感情が私に働きかけてきているような気がした。最後に寝起きの髪をそくささと櫛でとき終え、鏡台の前に立って見ると、全く知らない女がこちらを見て、どぎまぎと落ち着かない様子である。
女らしい服を着慣れていないものだから、どこか不格好なのだが、それでも鏡の中には私の知らない、当たり前の女である私の姿があって、なんだか新鮮で照れくさく、だのに自分の中にそれを喜ぶ心を発見したりし、私の心は複雑だった。複雑ではあるが、楽しいのは確かだ。
私は皆が寝静まっているのを起こさないように、家の廊下を足音を忍ばせて、そっと玄関まで行くと、こそこそ錠を外して家から出、人通りの無い道路沿いの歩道をせかせかと歩いた。普段したことの無い散歩を、こんな早朝にこんな格好でするなんて、と心の奥で静かに驚く。

駅前のコンビニエンスストアのガラス窓の前を通る時、私はそこに写る自分の姿を捉えて、私はふと立ち止まった。
そういえば幼い頃、母の留守中に、私はよく姉と「お化粧ごっこ」をしたものだった。姉は勝手に母の化粧箱から真っ赤な色の口紅を引っ張り出し、お人形代わりに、私の口紅に朱を引いた。つぎはおしろい、つぎは眉墨。私たちはどうしようもなくその行為が愉快で、母が帰ってくるまで笑いながらそれを続けた。鏡に映った私の顔は滅茶苦茶に塗りたくられ、唇の赤さが浮いていた。朱を引いてはティッシュで拭い、また朱を引く。けれど、結局その遊びの最後まで、赤い口紅は頑なに私に不格好で在り続けた。
あの時感じた、口紅への苛立ちを思い、私はガラスに写った自分を見つめる。今の自分であったら、幾分あの赤い口紅も私に従順であったのではないだろうか。

私はくるりとむき直り、元来た方へ駆け足で引き返した。去年の誕生日に友人から貰った口紅が机の引き出しにあったはずだと、思い出したのだった。

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