第9回中高生3000字小説バトル Entry3
僕には一つ下の彼女がいる。
名前は和葉。
愛らしい顔立ちに、つやのある黒のショートカット。背はやや低めだが、なんとも可愛らしい子だ。
出会いは偶然。
友人がたまたま事故で入院した時に、病院で見かけたのが最初の出会いだったのを覚えている。僕達に囲まれている友人を彼女は羨ましそうに見つめていた
友人が退院してからも僕は何かにつけて彼女に会いに行った。
最初はまったく見ず知らずの僕に戸惑っていたが、病院に年の近い子がいないせいか僕達はすぐに打ち解け合った。
話してみると彼女はとてもユニークで、一緒に過ごす時間はいつも面会時間を忘れてしまうほどだった。
だが、彼女は生まれたときから重度の病気にかかっていた。
詳しい病名はわからない。心臓に関する事らしいが、彼女は僕に多くの事を語ってはくれなかった。きっと、心配させるのが嫌だったんだろう。
病院に見舞いに行くと、いつも彼女は「早く外に出たいなぁ」と病室の天井を見つめながら寂しげに呟いていた。
そのたびに、僕が「よくなったらいっぱい遊びに行こう」と励ますと、和葉は「じゃあねぇ・・・」と行きたい場所を色々空想した。それが僕と彼女のいわいるデートだ。
まるっきり想像上の、架空のデート。
時たま、遊園地で遊んでいたのが、いきなり動物園に変わってしまうなど想像ならではの無茶苦茶な展開もあったが、彼女はとても楽しそうだった。
春
和葉と一緒に桜を見に公園へ
散っていく花びらを見ながら、彼女と僕は桜の木の下を歩く
夏
二人で海へドライブ
潮風に髪をなびかせながら、彼女が笑っている
秋
紅葉を見に山へハイキング
二人でクタクタになりながらも、山の頂上で満足顔
冬
深々と降る雪の中を身を寄せ合って歩く
寒いけど、心はなぜか暖かい
春夏秋冬、いつも彼女と一緒にいた。
終わるときなんてないと思ってた。
ずっと、ずっと一緒にいられると思ってた。
でも、どんなものにも終わりはある。
神が人に与えた唯一平等なもの、それが死。
ある暑い夜の晩。
電話の音で起こされる。嫌な予感がした。
「もしもし・・・」
電話の相手は和葉だった。病院から抜け出してきたらしい。
「どうして抜け出して来たりなんかしたんだ?」
少しの間、沈黙。そして彼女は、
「今日、お祭りなんでしょ?」
たしかに夏最後のイベントである神社祭りがある日だ。
「だからって」
「お祭り、行きたかったから」
か弱い声、まるで火が風に揺られて消えてしまいそうな。
和葉・・・・・・
守ってやりたい。
これほどまでに強く思ったことは後にも先にもこのときだけだった。
にぎやかなざわめき。威勢のいい掛け声。
夏の終わりを感じさせる祭りだった。
空想ではない。
病室の中で彼女がいつも言っていた言葉「外に出たい」それが今、たとえ一瞬であろうとも、確実に実現している。
初めてのデートはすごく緊張した。自分の胸の鼓動が、握っている小さな手を通じて相手に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらいに。
人ごみを掻き分けながら、和葉と2人、仲良く歩く。
他愛のない話、でも新鮮で、なにより嬉しい。彼女は終始、笑顔だった。
祭りも終わりに近づき、そろそろ帰ろうかという時、和葉が露店の前で足を止めた。
金魚すくい
大きく看板が貼られている。
「どうしたの?」
「これ、やってみたい」
露店のおじさんに2人分のお金を払い、紙でできたすくい網をもらって小さなプールの前にしゃがみこむ。
彼女は真剣な顔で金魚とにらめっこ。
なんだがおかしくなって、笑ってしまう。
おじさんに取り方を教えてもらって、彼女は慎重に金魚をすくいとる。
「あ、失敗しちゃった・・・」
紙が水を吸収しすぎたせいか、網はすぐに破けてしまった。
この世の終わりのような顔をする彼女。
僕は苦笑しながら、彼女に自分の網を手渡す。
「もっと、力を抜いて。軽くやってごらん」
「え、でも・・・いいの?」
一瞬、嬉しそうな顔をしたが、すぐに申し訳なさそうな表情に変わる。僕がそれに笑顔で答えると、彼女は「よーっし」と気合をいれてもう一度金魚と向かい合う。
今度はゆっくりと、軽く・・・
「と、取れた!」
満面の笑み。
彼女の中にある病気など一瞬で吹き飛ばしてしまいそうな笑顔。
ああ、僕はこれが見たかったんだ。
帰り道、彼女の左手にはビニール袋に入った金魚が一匹。
彼女はその時の感動と興奮を身振り手振りで再現する。
その仕草が僕を幸せな気分にした。
別れ際、彼女が笑顔で
「また、明日」
僕は手を振ってそれに答えた。
次の日
病室に彼女の姿はなかった。
沈痛な表情で、彼女の両親が僕に説明する。
・・・あの子は最後まであなたのことを心配して、最後に、ありがとうって・・・
僕は冷静にそれを聞いていた。
心のどこかが麻痺したみたいに何も感じない。
もしかしたら、僕は悟っていたのかもしれない。昨日の彼女の言葉、
「また、明日」
その時の表情が脳裏に鮮明に映し出される。
彼女は泣いていた。
大きな眼にいっぱい涙をためて。
泣きたいのを、我慢して、
「あれ・・・?」
なぜか涙が出てくる。
わかっていた事だったのに。
悲しくなんて、ないはずだったのに。
「う、う・・・」
一度流れ出た感情は、止まる事を知らずにいつまでも涙を流しつづけていた。
いつまでも
いつまでも