僕は今日、光を浴びた。久しぶりに見る太陽はあまりにもまぶしくて、神々しくて目をつぶりたい衝動に駆られた。でもそうすると、あまりにももったいない気がして、じっと見つめていた。しっかりと目を開けて、少しも動かずに…。 「きれいだね。」と君が僕をみて微笑んだ。それが僕と君との出会い。物語の始まり。僕は今までに、何度その言葉を言われたかなんて覚えちゃいない。でも、なぜだろう、君に言われたその言葉は今まで触れた何よりも輝いているように思えたんだ。いや、きっと、その一言で僕の全てが輝きだしたんだ。「ありがとう」と僕は囁いた。僕にしか聞こえない声で。心の中で。 12月25日の朝、僕は今日も外を見つめた。あの日から僕はずっと君を待っている。毎日同じ景色の中で、流れゆく人を眺めては、その中に君を探している。今日、僕はきっとここからいなくなる。だから最後に一目でいいから君を見たくて、何度も何度も願っていた。目の前にいる男の子はサンタさんの話を聞かせてくれた。僕たちが取り囲んでいる赤いひげのおじさんはサンタさんといい、クリスマスにプレゼントをくれるらしい。僕はサンタさんにお願いをした。「どうかもう一度、彼女にあわせてください。」と。 窓越しに雪が見えた、同時に明るく彩られた木々、人々はそれを感嘆のまなざしで眺めては、頬を緩ませた。でもどんな笑顔を見たって君の笑顔よりきれいなものなんて1つもなかった。 もうすぐ僕はいなくなる。ああ、きっともうだめだ…。彼女とはもう会えない。そう思ったとき、ふわりと僕の体が浮き、同時に温かい何かに包まれた。驚いて顔を上げると、彼女の顔があった。雪のように白い肌、やわらかいブラウンの髪、薄いピンクの唇は緩やかな弧を描いていて…そう、まるで天使のようだった。君は嬉しそうな笑みを絶やさずに僕を見つめた。きっと、すごく短い時間だったと思う、でも僕にとっては一生分の時間が流れた。君が僕を見てくれている時だけが、僕が「生きている」時だから。君が、会いに来てくれたことで、僕は十分幸せだ。一生分の恋がかなったようにも思えた。さっきまでとてつもなく冷たかった僕の体は、心なしか温かくなった気がした。 あれから、1年たった今日、僕は光を浴びた。久しぶりに見る太陽はあまりにもまぶしくて、僕はそっと目を閉じた。太陽よりも暖かい君を思い出して。僕は今日も君を待っている。少しも動かずに。
※作者付記: この作品は、クリスマスの時期に飾られる天使の置物が主人公です。この天使は、ある店のショウウィンドウの中に飾られていて、クリスマスが終わると箱に戻されて、また1年後にショウウィンドウに戻ってくるという一生を送っています。そんなある日。天使をみて「きれいだ」と手に取って眺めたお客さんに天使は恋をして、捨てられるその日までずっと、今も彼女を待ち続けています。初めはあんなに神々しく、目をつぶるのももったいなかった太陽なのに、彼女が現れてからは、太陽を見ることも惜しまずに目を閉じて彼女を想う、という主人公の想いの強さと価値観の変化がつたわるといいなと思います。
気が付けば終わっているものというのは意外と多い。 それは長い小説だったり、くり返しプレイしたゲームだったり、 内容のよくわからない映画だったり、夏休みだったり、 とにもかくにも楽しい時間、そんなものが多かった気がする。 そして、私の初恋もそれの一つだったりした。 事の顛末を池のほとりで一人思う。 実にありきたり過ぎて他人に聞かせるほどのことでもないなと思った。 それに終わったことをぐだぐだと悔やんでいてもしょうがないとも思う。 だがそれがいつ終わったのかと聞かれると答えるのは難しい。 何となく好きになった人が気が付けば別の人を好きになっていた。 少なくともその瞬間に終わったわけではない。 何せ私はそんなこと知りもしなかったのだから。 しかし馬鹿みたいに笑って過ごしている間にも絶望の足音は一歩一歩私に近づき、 ある日私にぼそりとささやいてきた。 「あの人付き合ってる人居るらしいよ」 けれど本当にそのときに私の恋心が潰えたのかといわれればどうにもそうは思えない。 ”うわさで聞いた―”程度の状態ではどうしても認められず、 けれども直接聞くなんてできるわけもなく。 曖昧な状態が何日も続き、今に至っている。 周りでまことしやかに囁かれる声は度々にして大きくなっていく。 けれども私の心は、そりゃあ悲しくはあったけれども、思っていたほど揺れ動かない。 信じられないというよりはやっぱりそうなのかという感じだった。 今にして思えばあれは本当に恋だったのだろうか? 思い返すと胸が苦しくなる、けれどもご飯はちゃんと食べれる。 ふとした拍子に涙がにじむ、けれども決して溢れはしない。 重々にして思う、あれは本当に恋だったのだろうか? 自分ですらもはっきりと解らない”それ”はきっと未だに終わっておらず、 ”それ”を私はこれ以上引きずる気になれなかったので、 ここいらで終わりとすることにした。 明日もあの人と会うのだから。 側に落ちていた小石を拾い上げると大事そうに握り締める。 自分の中の”それ”をこめるように。 小さく振りかぶると小池にいた魚達が餌をくれと近寄ってきた。 「さよなら」 投げ込まれた小石に驚いて魚達は逃げていく。 はたしてそのとき本当に終わらせられたのだろうかは解らない、 けれど少なくとも私は終わらせられたと思うことはできたはずだ。 投げた小石は音を立てたはずだったが私の耳には届かなかった。
眠らない街、東京。しかし、今は昼。だから、関係ない。いやいや、そうじゃなくて。平穏な休日の街。しかし、その静寂は銃声によって引き裂かれる。 「はーっはっはっはーっ。貴様ら死ね」 両手にマシンガンを持った男が辺りかまわず乱射している。逃げ惑う人々。音をたてて割れるショーウィンドウのガラス。硝煙の臭いが鼻を衝く。 「やめろ! 私が相手になろう」 一人の男がすっくと立ち上がる。 「面白い。蜂の巣にしてやる」 舌なめずりする殺人鬼。しかし、注意が男にそれている隙に、もう一人の男が殺人鬼の背後を取った。 「おいたが過ぎるぜ」 首の後ろに手刀を叩き込まれ、殺人鬼はあっさり崩れ落ちた。街が歓声に包まれる。 そうこうするうちに、装甲車が走行してきた。遅きに失した機動隊の到着かと思ったが、様子がおかしい。中に乗っていたテロリストだか「いつか殺すリスト」だか知らん奴が、学生服を着て拡声器でがなりたてる。 「今すぐ降伏すれば幸福になれる。さもなければ、汚れは、こう拭くのだ、というところを、見せつけるぞ」 店を漬けられても困るが、紅白まんじゅうも食いたくないので、ヒーローを呼んだ。 「いなりパンマーン」 (説明しよう。いなりパンとは、パンの中にいなり寿司が丸ごと1つ入った袋パンである。街角のパン屋さんではなくスーパーで袋パンとして本当に売られていたのである。筆者は25年ほど前に1度だけ遭遇し、すかさず買って食べたのだが、意外に旨かった。なので、当時大学生だった筆者は、速攻で大学生協にいなりパンを販売するよう要望を出したが、にべもなく断られた。ウチの大学には白石さんのような人はいなかったのである。) 「やぁ、僕、いなりパンマン。僕の顔をお食べ」 「誰が食うか、そんなゲテモン! いなりか、パンか、どっちかにせぇや!」 「ひ、ひどい。あんまりだ」 いなりパンマンは泣きながら駆けて行きました。 「役に立たねーな。よし、こうなったら」 「どうするんだ?」 (だみ声で) 「ぱぱら、らっぱっぱ〜。金で解決〜」 「誰の真似だ」 「いや、その辺は、色々うるさいから」 「しかし、金で解決って、そんな大金あるのか?」 「大金は要らない。行って来る」 何やら交渉をしていたが、なんと、あっさり追い払った。 「お前一体、いくら渡したんだ?」 「10バーツ」 「バーツ? って、タイの通貨だろ」 「いやぁ、昔から言うだろう『テンバーツ、てきめん』ってね」 「お後がよろしい様で」
「おねーちゃん」 つん、と服の裾が引っ張られた。 後ろを振り向くと、其処に小さな男の子が立っていて手には赤い花束を持っている。 6歳ぐらいだろうか。 「お姉ちゃんって私?」と聞けば、うん。と男の子は静かに笑う。 「お姉ちゃんにね、お花あげるの」 男の子は林檎のように赤い唇を緩ませた。 そして、4、5本にまとめられた赤い薔薇を私の手に押し付ける。 「綺麗なお姉ちゃん。あのね、一目惚れしたんだ。僕」 男の子は照れくさそうに頭を掻く。 短めの黒髪が揺れて私から視線を逸らした男の子は「あのね、あのね」と焦ったように口を開いた。 30センチ程身長の低い男の子にあわせてかがめば男の子はえへへ、と笑って私の頬に唇を押し付けた。 「僕、すぐにオトナになるから。そしたら、お姉ちゃん……僕のお嫁さんになってね」 そういって、顔を赤らめた男の子は「じゃ!」と慌てて走り去っていった。 初めて告白をされた私は「小さかったな……」と呟いて満更でもないようにその薔薇を撫でる。 それは、私が22の時の話だ。 綺麗とか、一目惚れとかプロポーズとか全て初めて言われた言葉でとても戸惑った。 「年下すぎだよなあ」 と呟くけれど、頬が緩んでいる辺り嬉しかったことをしみじみと感じる。 早くオトナになってね。少年。 ―― 「……おいこらクソ餓鬼」 そういって、薔薇をくれた男の子に拳骨を一発食らわせるのは二日後の事だ。 彼は薔薇を4.5本固めて近所の大学生の女性に告白していた。
「あ、…ぁ…」 手足が冷たい。小さく漏らした声は掠れていて聞き取れず、そこまで喉を使っていなかったのかと苦笑しようとしたが、冷たさで固まった頬の筋肉は上手く動かず、笑うことさえも出来なかった。 『今日の最高気温は――…』 BGM代わりに付けているテレビからはアナウンサーの声が聞こえる。 だがただでさえ寒いこの空間の中で現実的な数値を知ってしまえば体感温度がぐっと下がりそうでわざと聞き流した。 「…っ」 がちがち、歯が音を立てる。 ぐっと握り込んだ掌に食い込む爪が痛いとさえもう感じない。 手を広げて見てみれば指先は白を通り越して紫に色付いているだろう。 それは足も同じことだった。 冬だからと女の子が好みそうなふわふわとした柔らかい靴下を二重に履きこんでいるのに足先は温まる様子を一切見せない。 背を縮こまらせて手足を擦り合わせ少しでも温もりを得ようともがく。 ――バシンッ 俺の頭を突然強い衝撃が襲った。 いきなりのことに上手く反応できず、衝撃をモロに受けて床へ倒れこむ。 全身が固まってしまったかのように動けない。 床に倒れこんでも受身が取れずどん、と大きな音を立てて右半身に更なる衝撃が走る。 「い、って…ぇ…!」 「こんのドアホ!炬燵あるんだから電源入れろ! ストーブもつけろ!何一人で遭難ごっこみたいなことやってんだ!」 俺を殴ったのは幼馴染だった。 怒鳴る幼馴染の手にはほかほかと湯気を立てるマグカップが二つと幼馴染の好きなスナック菓子の乗ったお盆。 鼻を擽る甘い香りは俺の大好きなココアの香りだ。 「ったく、何感傷に浸ってんだよ。 相変わらず気持ち悪いなお前は」 「はは、悪い」 甲斐甲斐しく俺の世話をしてくれる幼馴染を横目にココアを啜る。 温かく甘いココアが俺の体の隅々へと染み渡る。 「持つべきものは、優しくて気の使える幼馴染だよな。 マジお前俺のとこに嫁に来ない?」 「アホか。何で俺がお前の世話を一生見てやんなきゃいけねぇんだよ。 俺は可愛い嫁さん貰って子供作って暮らすんだ」 「お前らしいなぁ、ホント。あ、そうだ」 「あ?」 訝しげな顔で俺を見る幼馴染に笑う。 「明けましておめでとう、今年も宜しく」 「…仕方ねぇから、今年も面倒見てやるよ、馬鹿」 呆れながら笑う幼馴染の姿がちょっと可愛く見えた、気がした。 いや、やっぱ気のせいだな。俺だって女の子が好きだし。 出来れば、来年も再来年も、とりあえず結婚するまでは俺の面倒を見てくれると嬉しい。
「1号、敵の情報は手に入ったか?」 「はっ。今朝、新聞の折り込みチラシに入っておりました。主要な地区の軍勢数、激戦区の地図情報がこちらです」 「うむ」 「来年は全体的に、今年に比べ軍勢が少なめです」 「不景気の影響だな」 「はい。今年は激戦区を突破してからでも十分間に合った地区がありましたが、来年は仕留め損ねる恐れがあります」 「そうだな。今年は作戦が功を奏して、かなりの好成績だったが、来年はそれぞれの地区の軍勢が少ない……」 「そのため、目標を絞った攻撃で確実に仕留めませんと」 「では、確実に仕留めたい地区を3つ決めよう。まず、このA地区は捨てがたい」 「その通りです」 「そして、このC地区、ここは毎年良質だ。最後の1つだが……」 「僭越ながら」 「どうした、2号」 「先日得た情報によりますと、このE地区、例年に比べバラエティーに富んでいるようです」 「そうか。それは興味あるな……。よし、来年はA地区、C地区、E地区を確実に仕留める」 「はっ!」 「それぞれ攻める地区を決めよう。C地区は私が攻めよう。A地区は1号、E地区は2号が攻めよ」 「はっ! ですが、C地区は一つ気になる点が」 「どうした、1号」 「今年は外側から侵入可能だったC地区ですが、来年は一昨年と同じく内側からの侵入となりそうです」 「そうか。寒くないのはありがたいが、駐車場からではC地区は遠い事と、他の地区へ行く部隊が入り口に溢れ返り、マラソンのスタートラインのようになる恐れがあるという事だな」 「はい。そのためスタートダッシュが肝要です。怪我にも十分注意しなければ」 「そうか。わかった、その点は注意しよう。では、この3地区を攻めた後だが、C地区は斜め前の地区、A地区は向かって左の地区、E地区はすぐそばのエスカレーターを降り直進、その先の地区を攻める……。これでどうだ?」 「素晴らしい作戦です!」 「よし! 明日は早い。体力温存に努めてくれ」 「はっ!」 次の日、綿密に立てた作戦を実行するため、女3人は車に乗り込み、戦闘先のショッピングモールへ向かったのであった……。