4月10日。その日朝起きて洗面所で顔を洗い鏡に映った自分の顔を見た時唐突に、よし、旅に出ようと思ったのは確かに唐突ではあったのだけれども何の前触れもなかった訳ではなく、そう決心するのがいつか来るだろう予感はずっとあって、今日出て行かなくても明日思い立ったかもしれないし、一ヶ月後だったかもしれないしあるいは三年後だったかもしれないけど、とにかく俺は旅に出ようと決めた。いや決めていた。それが今日だっただけだ。そぞろに歯を磨いた俺は準備にとりかかった。と、そもそも旅とはどういう意味なんだろうとふと思った俺は押し入れから国語辞典を引っ張り出し「旅」をひいてみた。そこには 【旅】(意味)自分の家を離れて一時よその土地へ行く事。旅行。と書いていて俺は、ん?と思う。というのはもう俺はこの家に帰ってくるつもりなどまったくなかったから「一時よその土地へ行く」というのはちょっと違うなと思ったからだ。せっかくの門出に水をさされた感じのした俺は今の気持ちを代弁してくれるような素敵な言葉を考える。「旅」と同意の「りょこう」という言葉の響きは気に入ったのでそれに当てはまる漢字を考えよう。まぁ旅という字は入っといてもらって「こう」の部分に当てはまる漢字を国語辞典の上からどんどん拾い上げていってみる。交幸向孝耕硬請う・・そして俺は【恒】という漢字に目を止め意味を見た。「いつまでもかわらない」と書いていてにんまりとする。 【旅恒】(意味)いつまでもかわらず旅をしていること。うん、なかなか素敵じゃないか。気を良くした俺は旅の準備を続けた。 これから出会う世界中の人たちへ思いを馳せながら・・
それはある晴れた日の午後。二度目の大学受験に失敗し、途方も無く人混みを歩いていた。前を向いても後ろを向いても人ばかり。人混みなので当然の事と言えば、当然の事である。明日になればどうなるかもわからないと思えば、少しは楽になる。人混みの中で歩いていると小さな希望でさえ霞んで見える。これ以上人混みを歩いていると気が狂ってしまいそうなほど精神的に疲れていた。そんな気分を紛らわすために小さな路地裏に入った。そこは別世界のように人がいない。後ろを振り返ると次から次へと人が通り過ぎるのが見えた。あの人混みの中を歩いていたのかと思うと、少し目眩がした。路地裏を少し進むと右手側に小さな公園があった。そこの公園には小学生ぐらいの子が数人で楽しそうに公園内をかけまわっていた。こんな光景を見ると昔の事を思い出す。昔というほど、昔では無いが、俺からすれば大分前の事だ。俺だって、今ほど昔は腐っちゃいなかった。目の前にいる子供達のように大きな夢を心に想い、途方も無い時間を友達と過ごしたものだ。「おれはしょうらいサッカーせんしゅになってジーコみたいなせんしゅになるんだ」そんなジーコも今では監督か。年月というのは自分が思っているより早く進むものだ。気がついてみれば、死に物狂いで勉強をしていた時期もあった。中学の卒業文集には「検事になって、悪い奴らを裁く」などとも書いた気がする。今でも検事の夢は追いかけてはいるが自分の力では到底手の届かない場所にあるという事は自分が一番良くわかっている。今年の受験が俺にとってのラストチャンスだった。親に今回の受験に失敗したら家の会社に就職させると言われていた。俺の家は有名なゲームの製作会社だ。親は俺に後を継がせたがっているが、俺はあまり乗り気ではない。後を継がないためにも二度も大学受験をしたんだ。親に左右されて生きていく人生何てあんまり良いもんじゃないと思っている。親の仕事に反対していると言うわけではなくて、自分的な自立を果たしたかった。それも、自己満足でしかない事はわかっていた。でも、それが生きがいになると俺は多少なりとも思っていた。人に決められた人生よりはよっぽど生きやすいと心も体も若い俺は思っている。年をとっている人から言わせれば、きっと、自分の理想ほど綺麗なもんじゃないと言うだろう。でも、それは、自分自身で体験してみなければわからない事であって、人がどうこう言って納得できるものでもない。二度目のチャンスをくれた親には感謝しているし、これ以上チャンスをくれとは言えない。でも、いつか自分の足で親の元を離れるようにと願いたい。明日からどうなるんだろうな。俺は人生を後悔しないいまま生きれるのかな?と、すれ違った女性がハンカチを落とした。また、ベタな展開だなと思いつつもハンカチを拾いハンカチを落としたであろう女性に声をかけた。「すいません、ハンカチ落としましたよ。」女性は軽く振り向いて、こちらを不思議そうな顔で見ていた。ハンカチについた土を手で軽く払いその女性に差し出した。「あ、すいません。ありがとうございます。」彼女は軽く頭を下げてお礼言った。「いえいえ、どういたしまして。」彼女はハンカチを受け取り、少し動きを止めた。「あの〜これ、私のじゃないんですけど」え。まじですか。「あ、すいません。すれ違いに地面に落ちた気がしたので、勘違いしてしまったみたいで。」「いえいえ、誰にでも勘違いはあるものですよ。」彼女は優しい笑顔で言った。「とは、言ったもののこのハンカチはどうしましょうか?」お店から飛んできたとは考えにくいので、誰かの物だとしても、探しようがない。「捨てるしかないんじゃないですか?」「駄目ですよ、誰かの物を勝手に捨てたりしたら」それ以外方法があるとは思えないんだけど。「でも、どうするんですか?」ありきたりな質問。「そうですね〜」と、彼女は鞄の中からメモ帳を切り取り、ペンを取り出して近くにあったベンチを下敷きにして何かを書き始めた。「あの〜、何をしてるんですか?」彼女の行動がわからず、軽く覗き込む形で尋ねた。「メモ書きですよ。これで、落とした人がここら辺を探してたら気が付くように」何て、親切な人だろうと思ったが、あまり意味を感じなかった。ハンカチぐらいでわざわざ来た道を戻ってくるだろうか。「でも、ハンカチぐらいで来た道を戻るような事しますかね?」彼女はちょっと怖い目をして返答した。「何を言ってるんですか、これがもしも大切なハンカチだったらどうするんですか」「大切なハンカチ?」何が言いたいのかよくわからなかった。「はい、彼女からの贈り物や誰かの形見とか」「・・・・・」「ははははっはははは」俺は大きな声で笑ってしまった。「な、何がおかしいんですか?」彼女は何がおかしいのか全くわからずびっくりしていた。「いえ、すいません。そんな事を考える人もいるんだなと思って。悪気があったわけじゃないです」「だって、本当に大切な物だったら、大変でしょ?」確かに。「そうですね。あなたのような人がいるとは思いませんでしたよ」「周りを見ないと足元すくわれちゃいますから。」彼女は悲しい笑顔をして言った。俺は何かよくわからず、返答に困った。「さて、メモ書きも出来た事ですし、行きますか。」ベンチの上にはさっき落ちてたハンカチとその上には彼女が書いたメモ書きと大きめな石が乗っていた。「行くってどこへです?」彼女は笑って言った。「デート♪」「え??」「さ、行きましょう」彼女は俺の手を掴み少し小走りをして俺はひっぱった。そうか、こんな人生もありか・・・。-------数時間後----------「あ、あった」その女性はベンチの上にあったハンカチを指差して言った。「よかった〜」彼女はベンチに置いてあったハンカチを取って、感激した。「でも、こんなに親切にだれが」と、辺りを見回してもその女性に気が付く人はいなかった。「どうしよう、お礼したいけど、どうしようも出来ないよ」そうだ、と彼女は閃くと、鞄からボールペンを取り出した。何やらメモ書きに何かを書き足しているようだ。彼女はメモ書きを石の下に敷くと、そのまま走り去って行った。そのメモ書きにはこう書かれていた。ありがとう。
酒臭いあくびで目が覚めたら、9時半だった。 大学の講義には完全に遅刻である。 僕は目をこすりながらベッドから下り、ワンルームの自分の部屋を見回した。 飲みかけの日本酒のビンや、ビールの空き缶、つまみの残骸がそこにはあった。 パンツ一丁姿でその光景を眺めながら、ぼんやりと昨日の夜のことを思い出した。 大学の友人との合コンがこの部屋で行われたのだ。 相手はどっかの女子大のコたちだった。 あの髪の長かったコ、可愛かったなぁ。 そう思いながら僕は何気なくテーブルの上のピザの残りをつまみ、一口食べた。「うぐッ」 まずくて急いでバスルームへと駆け込んだ。 その気持ち悪さと二日酔いで、全てを戻してしまう。「情けねぇなぁ」 僕はつぶやいて、そのままシャワーを浴びた。 そうするうちに、二日酔いのだるさも消え、頭も体も目覚めてきた。 さっぱりとした気分でバスルームを出たとたん、思わず後ずさりをしそうになった。 小さなソファーに女ものの服があったのだ。 ブラウス、スカート、ブラジャー…たどっていったその先のベッドを見て、僕は思わず叫んでしまった。「なぬっ!?」 なんと、毛布から女の足が出ていたのである。「えぇ!?」 再び叫び、近所迷惑を考え、とっさに両手で口をふさいだ。 そしてそのまま昨夜のことを思い出そうとした。 何があったんだ、誰なんだ、何をしてしまったんだ!? 思い出そうとしても、最後の記憶に残っているのは酒を一気飲みしようとしたことだけだ。 その先は何も覚えていない。 僕は濡れた髪をぐしゃぐしゃとかきながら、一人葛藤していた。 しかし、それだけじゃ何にも分からない。 せめて誰なのか、それだけは確認しなくてはと思い、震える足をベッドへと向けた。 おそるおそる毛布をめくって、僕はドキっとした。 そこには髪の長い女の子が、裸ですやすやと眠っていたのだ。 あのコだ!可愛いなぁと思っていた女の子だった。 長いまつげ、白く透き通った肌、ピンク色の頬、サンクランボのような唇…。 その顔が、そこにはあった。 僕は服を着て、そのコが起きるのを待っていた。 テレビはワイドショーしかやっていない。 なぜか体育座りでテレビを見ながら、僕はそのコを気にしていた。 早く起きないかな。 瞳を見てみたいな。 でもそのまま寝ていてほしいな。 起きて気まずくなるのはイヤだ。 何より、そのコの寝顔をずっと見ていたかった。
※作者付記: F-BLOODの『寝顔』の歌詞を文章にさせて頂きました。
清水恵利は小振りなパールのイヤリングをし、漆黒の髪をひとつに束ね、肌は透き通る白であったため一段とくっきりした表情をみせていた。寡黙で、伏目がちだが天使のような微笑をのぞかせる事もある。まじまじと瞳の中を覗かれて秋山弘貴はむせ返る思いがした。なぜこんな女性が現れてしまったのだろう。このような受験競争の最中におれは何という想いを抱いているのか。清水恵利が俯いた。秋山弘貴は数秒間を空け、どうかしましたか?とそっけない素振りを見せつつ、彼は自分が失敗したのではないかと心を曇らせた。今の彼の言動の全ては清水恵利に気に入られるためのものであって、秋山弘貴そのものでは無いのである。あのね、時間が無いのよね。ああ、今度の記述模試のこと?しばらく放課後の吹奏楽部の練習の音だけが響いていた。突然清水恵利が笑い声をもらした。秋山くん、模試の優秀者ランキング一位だったもの、すごいわぁ。ああ、校内でね。秋山弘貴は校内だけではなく、もちろん全国偏差値も70を超えている。彼は制服の下に海外ブランドのTシャツを着、ミディアムヘアを柔らかく遊ばせ、父親から譲り受けた高価な腕時計をしている。今このときも彼の姿を見た田舎の高校生たちは秋山弘貴という都会的な人物に対してどういう所でアルバイトをしているのだろうか、どんな女と情交を重ねてきたのだろうかと、あまりにも俗的な先入観を持って接するが、彼の真の姿は言わばボンボンなのである。純粋で、女というものを知らない。このような人物像は田舎の下級進学校では滅多にない。清水恵利はまた黙った。数分後、校内アナウンスが流れた。六時になるので 生徒は 至急校内から・・・先生、帰りますね。ちょっと待って。清水恵利は関西訛りの標準語で優しく彼を女子更衣室に招き入れた。更衣室には制汗剤の安っぽく甘い香りが立ち込めていた。時間が無いのはっとして目が覚めた。窓の外から鳥のさえずりが聞こえ、完璧主義者の秋山弘貴に似通ったものを感じさせる朝であった。ブルーのチェックの掛け布団をたたみ、同じ柄のカーテンを開けた。太陽の控えめな香りがする。一日の始まりを十分に体に感じながら、彼はいつものように家を出た。秋山弘貴は何のためらいも無さそうな表情で職員室に入った。今朝目が覚めた時全てのことが夢だったらどうしようかと思った。と清水恵利は言った。おれもです。通じ合ってることを露呈するように囁いた。
「今年もまだまだ暑い日が続くらしいですよ」 私の髪をカットしながらときどき美容師さんが話しかけてきてくれる。 しかし、私は相変わらず顔をこわばらせながら、短い返事を返すことしかできない。 さぞかし無愛想な客として映っていることであろう。 仕方ないのだ。なぜならこれは、私にとって史上最強の「忍耐の時」の途中なのだから。 私の髪の毛には触覚がある。 まだ誰にも話してない私の特異体質だ。 痛覚はそれほど無いけど、髪を切るときには結構な不快感が伴う。カラーリングなんてもっての他なのだが…。 故に今までこの真っ黒なロングヘアーで、この28年間と10ヶ月を過ごしてきた。友人たちは、「女らしくていいわね」と言うが、私からすれば最善の手段をとっているにすぎないのだ。 なぜ、そんな私がこんな思いきったイメチェンをすることに踏み切ったか?「俺、こんな髪型好きなんだよね」 最近、年下のカレがテレビを見ながら言った、この一言が理由だ。 カレには浮気の兆候がある。あくまで女の勘ではあるが…。 容姿、経済力、優しさ、相性、すべてが合格点のカレをここで失うわけにはいかないのだ。それにカレに髪を撫でてもらっている時の、あのなんとも形容しがたい幸福感を失うのもイタい。 なにより、いま恋愛の挫折をすればもう立ち直れないかもしれない。そんな切羽詰まったお年頃なのだ。 これは、いま一度カレの気を惹くための苦肉の策なのだ。 メープルブラウンのショートレイヤーにせねばならないのだ。「また、5分ほどこのままお待ちください」 いますぐにでも、洗面台に頭を突っ込んでこの忌々しいカラーリング剤を洗い流してしまいたい。 生まれて初めて味わうカラーリングの不快感は、想像を絶するものであった。じわじわと粘着質な何かが自分の中に浸食してくるようなこの感覚。もう最悪。 鳥肌はずっと立ちっ放しだし、歯の食いしばり過ぎでアゴが痛い。 そんな私の尋常ではない状況を察してか「今日はやめときましょうか?」と尋ねられたが、もちろん断った。「大丈夫です。私にはこれがラストチャンスなんです!」 思わず口走ってしまったこの言葉と鬼気迫る私の表情に、ただならぬものを感じたのであろう。美容師さんは、リングにタオルを投入することを断念してくれた。 こうして、年下のカレというベルトを賭けた孤独な戦いは激しさを増していった。 そう、いまは耐えるのよ。 膝に乗せた握りこぶしに、よりいっそう力を込める。 髪型が完成したとき、張りつめていたものが切れたせいか思わず泣いてしまった。 カレは、私の新しい髪型をうんと褒めてくれた。 結局、カレの浮気は私の思い過ごしだったことがわかった。 しかし1ヶ月後、「次はこんなパーマあてなよ」という軽い一言に私はカレに対して初めて殺意を覚えることになる。
夏の昼下がり、僕は、トイレのドアに、耳を押し付けた。 いけない事だとは判っていた、でも、でもっ、どうしても聞きたかった。 夏休みも、終わりに近ずく、お盆のこの日、従姉の雪姉ちゃんは、毎年、一人で僕の家に遊びに来る。 二人、向かい合ってスイカを食べる、中学二年生になった、雪姉ちゃんは、大人っぽくなっていた。 ロングの髪に、整えた眉毛、淡い水色のワンピ―スから、チラッと見える白いブラジャ―、確か去年までは、着けてなかったはず。 僕は、スイカを、ほお張りながらも、ブラジャ―にくぎ付けになっていた、ポタポタ、シャツにも、ズボンにも汁が落ちたが、気にはならなかった。「ねえ、だいちゃん。」いきなり呼びかけられ、ブラジャ―で一杯だった頭が、はっとわれに帰った。「っんくっ、なに?。」慌てて雪姉ちゃんの顔に、視線を戻す、急いで、スイカを飲み込んだら、鼻の中に種が入ってしまった。「だいちゃん、来年中学生だよね?。」「うっ、うん。」雪姉ちゃんは、頬杖を付きながら、僕に話しかける、僕は、横を向いて鼻の中の種を飛ばしながら答える。 扇風機のうなる音が、居間の中に響く。 二人で、色々なことを話した、小学校のこと、中学校のこと、漫画のこと、僕の好きな子のこと、雪姉ちゃんの好きな先輩のこと。 時々、笑って、時々ドキドキしながら話した。 しばらくして、雪姉ちゃんが、急にそわそわしだした。 「だいちゃん、トイレ借りていい?。」 僕はうなずく、雪姉ちゃんは、パタパタと廊下を走っていった、僕はきずかれない様に、付いていった。 さっきから、僕は変になっていた、雪姉ちゃんと、話をすると、なんだか体が、ムズムズドキドキした。 トイレに行く雪姉ちゃんを見て、おしっこの音を聞いてみたいと思った、こんなこと、クラスの女子では考えたことないのに・・・。 僕は変態だ、でも聴きたい、ばれたらどうしよう、怖くなった、でもおしっこする雪姉ちゃんを想像したら頭がポ―っとして。 気付けば、吸い寄せられるようにドアに耳を押し当ていた。 ドアから、僕の心臓の音が聞こえる、首筋からのぬるい汗が、胸のほうを流れた。 薄いドアの向こうでは、「シュルッ、シュルッ」と布ずれの音、そして・・・・ 僕は、その音に聞きいった、ドア越しに伝わってくる、水流の音、押し付けた耳は白くなって痛くなっていた。 時々、強くなっては弱くなる音、僕の鼻息が、ドアから跳ね返り、顔にかかる、悪いことをしている、罪悪感とエッチなことをしているのが重なって、すごくドキドキした。 しばらくして、水流がやんだ。 僕は慌てて、居間に戻った、前はバッチリ、テントを張っていた。 少し遅れて、雪姉ちゃんが戻ってきた、僕は平全を装っていたが、雪姉ちゃんは僕を睨んでいる。 ぼくは、ゾクッと寒くなった、でもテントは、建ったままだった。
※作者付記: ちょっと、力みすぎました、毛に引き続き失敗したような、感がですが、皆さんよろしくお願いします。
焼け付くような太陽の照る中、私は武器を片手にし一歩また一歩と歩いている、あるミッションをこなす為だ与えられたミッションは感覚の一部を遮断した極めて難条件下でのターゲットの破壊どういう経緯でこんな事が行われるようになったのかはよく知らない恐らく自己を高め悟りを開くためにでも行われていたのだろうターゲットの位置は開始直前に確認済み、後は目標に向かい真直ぐに進むだけミッション開始前、私はそれだけの事と事を軽視していたのを覚えているしかし実際に現状に立たされるとそうは上手くいかないものだったどのくらい歩いただろうか足はもう感覚を失いかけている視覚感覚は完全に遮断されそれでもなお進もうとすると足が言うことを利かなくなる地面は慣れない砂、その上を歩いているんだ当たり前といえば当たり前かそれにしてもさっきから当てにならない雑音が飛び交っているおそらく向うは妨害のつもりなのだろう「前方に向かい距離四百だ!」「ピーガー二時の方角、二時の方角」「後方より敵が来ます避けて下さい!」くすっ思わず笑ってしまうほどあからさまだこれでは信じないで下さいと言っているようなもんだ「もう少し右より、もうちょっと近づいたほうがいい」ん、今のはちょっと信用できる口振りだった、何より聞き覚えのある声だったこの条件下では自力でのミッションクリアはほぼ無理であろうこの声に頼るしかないと腹を決め誘導に従う「もう少し右だもう少し、よし、もう十分だ行けー!」とうとう攻撃の許可が出た外してはならない急ぐ必要はない緊張が走る武器を握る手に力が入る唾を飲みこむこの張り詰めた暗闇から抜け出したく一心に武器を振り下ろす当たれっ! 『バカッ』鈍い轟音とともに飛び散る飛沫その一部が足先に当たる感触を感じた「終〜了〜」足元には砕かれた夏の風物詩が転がっているさっき感じたそれの赤い汁がいやに鮮やかだった「えーということで赤チームの勝利〜」「イエェーイ!」事の発端はスイカの中身は赤と黄色どちらのほうがおいしいか民主主義に則った多数決ではものの見事に真っ二つ持てる知識をフルに使った不毛な討論でも決着が付かずなぜか中立派の自分がスイカ割りをして決めることになってしまった向こうではなにやらまたもめだしている個人的には浜辺で食べるスイカはどっちだっておいしいと思うんだけどなぁ海をバックに浜辺に転がるスイカは輝く太陽に照らされちょっと神々しかった
世界の果てまで行こうと思った。そんなものがあると思わなかった。だからこそ行こうと思った。不安が無かったかといえば嘘になる。期待が無かったかといえば嘘になる。「果て」ってなんだろう。でもそこには、ここにはないものがあるのだと思った。もしくは、ここにもそこにも、なにもないのかもしれないけれど。世界の果てに行くために、私が捨てなきゃいけないものもたくさんあったけど、それに関してはなんのためらいも無かった。死んだと思えば。死ぬよりマシ。 みんなそう思ってくれると思っていた。だから私は歩き続けた。気が遠くなるほど、遠くまで、遠くまで。雨の日は軒下で一日過ごした。左肩の傷がじくじくと痛み出す。右手で押さえた流血の感覚が蘇る。思わず両手で自分の体を抱きしめる。一人でいるという不安とも戦わなければならなかった。考えてみれば、まったくのひとり、というのもはじめてだ。家族や、友人や、クラスメート達、もっと言えば私が生を受けてから今までの間に関わった人たち。その人たちのことも、全て捨てようとしている私。無意識に両手に力をこめ、左肩に走る痛みに顔をしかめる。いまではこの痛みこそが私とその人たちをつなぎとめる唯一の鎖なのかもしれない。私の両足がアスファルトを抜け、苔や羊歯を踏みしめる。こんな道とは呼べないような地面があるということさえ、私は知らなかった。左手の中指から、肩を伝わってきた赤い血がぽたりと落ちた。この血を追って、誰か来るだろうか?ヘンゼルとグレーテルのように、私こそがこの道を通って帰ることになるのだろうか。 その前に、この植物達が私の血を吸ってくれるのだろうか。紅い花を咲かせてくれるだろうか。私の両足は歩みを止めなかった。とにかく、この世界の果てまで行こうと思っていた。そこになにがあるのか、ないのかもわからずに。
あれがまずかった。昼間、あいつから今何してるの?と電話があり、仕事中よと答え、仕事終わりの時間まで親切に教えてしまった。会社から出た瞬間目の前に現れたあいつ。またいつものあれだ。先月別れたから今回はできたのだ、彼氏が。 あいつがやって来る時はどちらかに限る。別れた時はとにかく付き合っていたときの愚痴と悪口。付き合いだした時は延々自慢だ。 三ヶ月前だったか、あいつが来た時、つまり新しい男ができた時だが、そりゃあもうこっちが恥ずかしくなるようなのろけと自慢話。大手の会社に勤めているとか顔が月9ドラマに出ていた俳優に似ているだとか、そんな話ばかり息継ぎを忘れたように喋りまくる。そして先月、顔に騙されたと言い出したあげく、男は顔なんて関係ないのよ、心よ、心。 そして今回、やっぱりだ。アメリカ人とのハーフでなんとかっていうハリウッド映画の俳優そっくりなんだとか。あいつは懲りない。何度痛い目に遭っても見た目重視でいい男に弱い。 今度紹介するから会ってねと言われ、そうね。と軽く流す。この会話も毎回なのだ。こう言ってあいつが私を男に会わしたことは一度もない。 長びく話に仕方なく一緒に食事をすることにした。駅の近くにあるファミレス。子供連れのお母さんが数人と大学生くらいのカップル。近くの工業高校の制服をきた男子高校生が騒いでいる。あいつとの食事に時間とお金はかけない。できるだけ早くきて早く食べられるものを選ぶ。私はミックスサンド、あいつは…ピザ。焼くのに時間がかかるじゃない。心の中で叫ぶ。 あいつは遠くを見るようにしながら、恋っていいわねと呟く。いくつになっても恋だけはしていたいもの。うっとりと目を細めたあいつの顔。吐き気がする。なんで私にこんな話をするんだ。なにか恨みでもあるのか。歳の割には艶のある肌、太めに入れられたアイライン、グロスで輝く唇。そのすべてが私を不愉快にさせ、胃の辺りに渦をつくる。 ふと肩に目をやるとメッシュ素材の黒い服の下に下着の紐が微かに覗く。また何かが少しこみ上げる。頭までくらりくらりと揺れ始めた。 私にはもう我慢の限界だった。あいつに縛られているこの生活も、あいつの話す言葉も、男を誘うような甘ったるい声も、念入りにつくられた顔も、身体も。 もう終わりにする。 私はずっと聞けなかった事をどうしても聞いておきたかった。 どうして父さんと私を捨てたの。 ねぇ、母さん。
それは絶品のかけそばだった。 うだるような熱帯夜を乗り切り、眠気の差した頭にカツを入れて、彼はいつものように立ち食いそば屋ののれんをくぐった。「あんたか。給料は出たのかい?」「言ってくれるぜ大将。なんで給料日にこんなしけた店で食わなきゃならん」「ふん。安月給の甲斐性無しめ」 いつものやりとりを済ませ、彼はメニュー表をながめた。「かけそばに、いなり。コロッケは後乗せだ。今日はおにぎりももらっておくかな」「はん。おめぇに食わせるそばは無ぇよ」「おいおい」 彼はやはりいつものように苦笑いを浮かべていた。 悪態をつきながらも大将は、既に麺玉を掴み湯に放り込んでいる。「おまちど」 間もなくしてどんぶりが出てきた。カッ、コッ、と軽快な音をならして、コロッケなどが乗った小皿がテーブルに置かれる。「くぅ。頭脳労働のあとはコレに限る」「まったくお前さんは、注文のつけ方だけは一人前になったな」「そうか?」 ズズー。 つゆを充分にからませた麺を一気にすすり上げる。口のなかをコシの強い麺がパチパチと叩き、幸せな味が口いっぱいに広がっていった。「他に得技があれば、給料があがってる」「あーうめぇな、そば。……ふん。これでも制作統括って肩書きなんだぜ?」「人間は肩書きじゃねぇ。いくら稼いだか・だ」 大将はさして興味も無さそうに、懐から取り出したタバコに火をつけた。「ま。確かに……はぁ。出す出す言ってたボーナスも、結局払ってくれネーしな、あの会社……」 愚痴りながらも、そばをすすることを忘れない。それすら忘れてしまったら、彼は彼であることを保てないのだ。多分。「ふん」「……なんだよ?」「クソガキが、一丁前に被害者面してやがるから笑ったのさ。被害者って立場に安住して何もしないだけのクソ野郎には、なって欲しくないんだがな」「………」 彼は、聞いているのかいないのか、割り箸についたネギを取ろうと一所懸命になっている。やがて、箸を置き、「大将、その台詞、昨日も聞いたぜ?」「そうだったか?」 すっとぼけた大将の顔を胡乱気に見ながら席を立った。(大将、ついにボケたんかな……) 結構重要な事柄のような気がするが、彼はあえて無視することにした。めんどい。「んじゃな、ごちそうさん。」「おう。もう二度と来るなよ」 また悪態をつく対象に笑い返して、彼は絶品のそば屋を後にした。「あー、あ。今日も一日、がんばりますか!」
※作者付記: 掲載される、ということなので、あえてここには何も書かないことにしておきます。ただ、やっぱり1000文字は難しいなぁ、と思いました。
暇な毎日。だからある晩奴はUFOの中で女と寝た。それから世界の醜さを見たくないから布団の中にもぐってナイフを首に押し当てた。血が出た。 「ららら。ららら。らららららら。」と歌いながら女と別の男は奴の死体を運ぶ。奴は「奴」と肉体を脱ぎ捨てた姿つまり誰かの姿で寝室の片隅に腰を下ろしていた。アップルパイの匂いがコックピットの奥にあるであろう台所から匂ってくる。誰かは立ち上がる。裸の奴つまり誰かは寝室のドアから漏れてくる、光を一度見てめまいがしてそっちに行こうか行くまいか考えたが薄暗い寝室が、奴の背中を押す。そして寝室から出る。奴はつまり誰かは起きたことは起きたことだからきっと誰かが本当に望んだほうが起きたのだろうと思う。少しばかり前のめりに飛び出たから足をコックピットの床で挫く。涙が三粒出る。なかなかのミネラル。 アップルパイの匂いに連れられてその誰かは台所に脚を踏み入れる。女と別の男は奴の肉をむしゃむしゃ食べている。「これは、これは、おいしそうなこった。」と、もはや奴ではない者が言う。「あなたもどう?」とねっとりした焼けた林檎を口の周りをつけて女は言う。「よしとくよ。」「あらおいしいのに。」俺は、いや誰かは、いややはり俺は、と何度も言いかけて、そして笑う。「どうしたの?そんなに笑って。」と女は笑いながら言う。なるほど。俺は俺なんだ。俺は俺なんだよ。俺は俺になった。「いや、べつに。どうってことじゃない。」「ああそう。」と女は、言って、また、アップルパイにかじりつく。 俺は早く俺は俺の俺を感じられる広い世界に出たいと思う。UFOなんていう狭い空間で「俺」なんか、やってられるか。「出口は何処だ?」「出口?」「出口だよ!はやく、教えろ!」「出口?ないわ。そんなもの。」「そんな、冗談は、いい。」「いや、本当よ」と真顔で女。俺は「何処だ。何処だ。」と小声で言いながらUFO中を駆け回って探した。でもなかった。本当になかった。台所に戻って女と別の男を見て、俺は「本当にないんだな?」とボソッと言って台所のドアのところで崩れ落ちた。最後に「そんなに落ち込んじゃ駄目。」と女が言って、別の男が「おい。よせ。誰に話しかけてるんだ。幻覚が見え出したのか?」と言った。俺は本当にないんだな?
私の名前は優子、趣味は読書と料理。幼い頃から母は良く言っていた。「優子はね、良く寝る子でね、あんまりミルク飲んでくれなくて苦労したのよ。でもこんなに大きく育ってくれて神様に感謝だわ」 母は今年の夏、癌でこの世を去った。私には兄弟も父親もいない。母と私だけの生活は寂しさなんてなく、暖かい母の優しさに包まれていて幸せだった。素朴な家庭料理、母の歌声、笑った顔、柔らかな手、いつものエプロン、母の寝顔、何もかもが私にとって全てだった。 悲しい出来事と共に眠れない日々が続き、睡眠不足のため仕事に影響が出てきて退職した。母の死から半年が経ち、何も喉に通らず私は痩せていた。ある日、昔からの友人である亜紀から電話があった。「最近、外で見かけないけど大丈夫?」亜紀は私の幼なじみで八百屋の娘だ。母が死んでから買い物にも遊びにも行かなくなった。返事のない私に「今からそっちに行くから」と言う。私は「ごめん、ほっといて」と言った。寂しいのに一人になるのが恐いのに、助けを求めることが出来ない私は自分に苛立ちを感じていた。 一ヶ月後、亜紀が突然、家に来た。骨と皮しかない優子を見て亜紀は泣き、強く抱き締めた。「こんなに痩せちゃってどうしたの、どうして何でも話してくれなかったの、優子?」亜紀の問いに私はいつの間にか泣き、「ごめんなさい、お母さん」と小さく囁いた。とても母に似ていた。小さい頃に心配されて強く抱き締められたことがあった。あの時の母に似ていた。亜紀は「もう大丈夫よ、優子には私がついてるからね、一緒だからね」その暖かい言葉に私は感動していた。 数日後、弱った私の心を治すために亜紀に連れられ精神科へ行った。「もうこれで大丈夫よ、ゆっくり歩いていこうね、優子」と優しく亜紀は言う。その言葉に優子は母親が生まれ変わったように思え、涙を流した。「お母さん、ずっと側にいてね、優子から離れないでね」亜紀は、その問いに「うん」と頷いた。優子が求める強い愛を理解してあげよう、今は母親の代わりになろう、亜紀は優子を支えていこうと決意した。 優子の心が晴れますように、いつか私のことを友達だと気付いてくれますように。亜紀は願った。久々にスヤスヤと無邪気な子供のように眠る優子。その横で亜紀は優子の頭を撫でた。
…部屋の中を歩くと、彼が私を見つめている。私は毎日彼に云う。「そんなに見つめないで。何処へも行かないから。」そして笑う。そして口付ける。そして…彼しか知らない私のカラダが彼を求めだす。…部屋を出て行く時、彼が私を見つめている。私はその度彼に云う。「心配しないで。ちゃんと戻ってくるから。」『別れよう。』と言ったのにこうしてちゃんと戻ってきてくれたアナタのように、私はそう…何処へ行っても必ずここに戻ってくる。彼のいる、この部屋に。…雨が好き。家を一歩出ると汚い人間の吐き出す喧騒が耳を劈くから。雨音は、シトシトとそんな騒音をかき消してくれるから。そして私は一日中彼と戯れるの。時間も忘れて。すごく幸せなそんな生活。彼は、もうずっと私のところから離れたりはしない。だけれど一つ…たった一つだけ物足りないこと…それは、「愛してる、って言って?」「−無言−」彼は、しゃべらない。彼は、私を抱きしめてくれない。彼は…動かない。「毎日頼んでるのに、何も言ってくれないのね…。」淋しくなる…けれど、それでも彼が傍にいることだけで、私は嬉しいわ。「…さて、そろそろ夕飯を食べようかしら?」朝食はなし。昼食は仕事場で、そして夕食は…彼と二人、この部屋で。「ねぇ、今日は”どこ”を食べたい?」彼に問う。けど答えない。それでも私は彼に話しながら、寡黙を続ける彼に微笑んでいる。「エド・ゲインや、はたまたハンニバル・レクターじゃないけど、最近やっとおいしくできるようになったから、アナタも満足できるでしょう?ほら、今日は、レバーなんてどう?」彼の腹部に、小さな、よく磨いだ包丁を食い込ませて笑う私。「…足、ないね、アナタ。当然よね…」私と別れるなんて言い出すから…。”あれ”から一週間。切り付けた首筋からの出血はもうなくなった彼。足を、膝から下を切り落として、逃げられないようにしてからゆっくり、ゆっくりと殺してあげた。別に、ネクロフィリアに憧れたわけじゃないの。だって、こうでもしないと彼は私の中から出て行くんだもの…しかたないわ。「そう、しかたないわよ。ね?アナタ」クスクスと、私。ぴちゃぴちゃと、レバー。しとしとと、雨。ざわざわと、募る愛。たかだかと、笑う私。「欲深きは、人が綴る愛憎…ってね?」…寡黙なアナタと月。
今、髪を撫でられている。 彼の指は私の波打った髪を滑る。私は知っている。彼は子供を撫でている母親のようなやすらかな気持ちになっていることを知っている。 思わず息をつく。その指と髪の間で、繊細な感情の糸が、織られていることを感じている。 その糸はどんな弱い力にも千切れるほど脆い。怖くなる。今のやすらかは、簡単に壊せる。 でも、だからこそ、この時を紡ぎ続けていよう。 私はさっきまで泣いていた。何故泣いたのか、わからない。 彼の家に上がったとき、私は憂鬱だった。天気予報を見忘れた私は服装に失敗して、雨なのに、薄着で外出してしまったのだ。それに僅かな人以外に心を開けない私なのに、今日は親しい友人に会うことができなかった。挨拶をするだけの人と、誰にでも相談話を持ちかけるような女の子。そうして私は、疲れていたのだった。 憂鬱な表情で玄関に立っている私を彼は心配しいているようだった。 だから靴を脱ぎ、ハンケチで雫をぬぐいながら、今日友達に会えなかったこと、服装を失敗してしまったことを話した。 彼はそれよりもと言うふうに、私をお風呂に案内する。私は自分が身体の芯から冷えていたことを知る。彼はバスタオルやシャツを用意してくれる。いざなわれるようにシャワーを浴びる。湯気があたりを覆う。熱い湯気。 洗い終えた身体をバスタオルで包むと、不思議な感覚を覚える。彼にバスタオルを返すとき、そのタオルのことを「あったかい」と言ってみた。 彼は微笑み、今度は温かな雫が垂れる私の髪を触った。そしてかすれた声で「あったまった」とつぶやく。目が心配そうだった。快活になれない私は、まだぼんやりと笑えず、温かさを感じて何か綻ぶ。 涙が溢れる。 媚びている気がして恥ずかしく、けれど隠すにしてはしっかりと涙は流れる。茶化そう。けれど彼の目が真剣だ。ここで笑ったら、かえって彼を傷つけるかもしれない。それに、私は泣くことを止めることが出来ない。 きっと風呂場のせいだった。新しいバスタオル、白く乾いたタワシのせい。 整頓された彼のお風呂場。整った女性の部屋には媚びの匂いがするし、男性なら冷たさを感じる。けれどその風呂場は、どちらでもない。懐かしい。黒ずみがない、けれど光らないタイル。タワシで擦った後がある。端っこに小さく転がるタワシ。乾いて毛が抜けている。手になじみそう。清貧? けれど彼は貧しくはない。 適度。それがぴったり。彼は、全て、適度。決して無駄をしない。 例えば彼は焦らない。でも、与えられた仕事を素早く済ます。その無駄のない滑らかさな動き。誰の目にも付かず、しかし確実にこなされる、仕事。それに気付いた私は、彼から離れなくなった。 私は壊す。生活を壊す。きちんと生きる、力がない。だから、息をするように生活している彼の匂いがお風呂にあって。そうして、泣けた。 今が幸福に見えた。そうするとこの糸が千切れることを考えた。 髪にあった彼の手が、止まる。ねむたそうな顔。電気消す? と聞きたくなったけれど、空気を変えることを恐れ、何も言えない。 彼は私の顔を見たまま、ぐったりと肩から胸にかけて頭を垂れ、眠そうに目を閉じる。妹の頭なら乗せたことがあったけど、それと違う、確実な重みが伝わる。やわらかなところがなく、同じ人間だと思えないほど大きい。私は女で、彼よりは全て小さく出来ていることに、驚く。 頬骨が胸に当たり、私は恥ずかしくなってくる。彼はそちらの方向へもっていこうとしているのか? 彼の顔を見る、ぼやっとした顔。彼の唇にキスをする。無防備だから。彼は顔をしかめゆっくり顔を話し、首を横に振る。「このまま……」 低い声。彼も同じ感覚を味わっていたと思った。きっとこの空気が壊れることを嫌っている。『私も壊したくない』 彼をのぞきこみ、しゃべろうとする。 ふわふわした心から、千切れないよう注意して、細かい糸を紡ぎだしたい。言葉、声、視線の糸。それらを織り込み、千切れない布に変えてしまいたい。それには粘着するあの糸はもう少し預けて。「私も、ずっとこうしていたい」 睫毛のびっしり生えた目を見る。彼は視線を反らさず、ゆっくり頷く。 愛らしい。けれど大きい。幼い頃みた懐かしい何かに似ている。幼い頃見た、母。 ゆっくり、しゃべる。いろいろしゃべって、家族のことをしゃべった。 何故大好きな家族が、成長とともに辛くになるのだろう。良い家庭。それでも、いつか苦しくなり、苦しくありながら気にかかり続ける。 一言、一言、途切れながらしゃべる。 そうして内緒に問う。彼に対しても、好きであるから、イヤに思うことも、出るのだろうか。 泣き疲れるまで泣いて眠りたい。そういった欲望を押さえ、やり過ごす。ただ、覚醒したまま、まどろみへ落ちることを祈り続ける。
みなさんは、豚って知ってますか?普通の人がイメージする豚は、足が短いだの太ってるだの食べるために飼われてるなど、さまざまなイメージがありますよね。それにくらべて人間はすばらしいです。二足歩行で、知能に優れ、さまざまな記憶をメモリーできる。そして一番はやっぱり恋愛できるって事ですね。私は、前世の記憶が残った人間なんです。豚だった頃は、すっごく人間に憧れて、その強い思いが叶って人間になれたんです。でも、強く思い過ぎたために、前世の記憶が残ってしまったみたいです。やっと、人間になれたはいいんですが。想像とはまったく違ってました。現に十六歳の私は元が豚だったせいか太っていて学校でいじめられています。恋愛どころか高校生になってから誰とも話した事がないんです。そんな私は、今日も学校が終わり浜辺で本を読んでいた時の事でした。向こうの方からいつも私をいじめる男女8人組のグループが歩いて来るのがわかり、私はとっさに本を読むのを止め帰宅しようとした時大きな悲鳴が聞こえ、私は声の方に目をやると8人グループの一人の女の子が溺れていて、みんなで棒などで助けようとしているのはわかったのですが、誰も海に飛び込んで彼女を助けようとはしないのです。私は心の中で本当に人間は、薄情で汚いなどと思いつつ、嫌いだったはずの女の子を助けようと、体が勝手に海に向かって飛び込んでました。元豚だったせいか、女の子にしがみつかれても沈む事無く犬かき?豚かき?で岸まで無事に到着。グループの女の子達はその子に寄って行き「よかったね」。などと輪になり、泣きじゃくっていた。私は、そんなに泣くなら近くに居たお前らが泳いで助けろよ!などと半分あきれながら心の中でツッコミを入れつつ、その場から何も言わずに立ち去ろうとした。その時、女の子は回りに居た女の子達をどけて、私に飛び込んで抱きついてきたのです。「ほ、ほんどうにあでぃがどうね」っと、涙で何を言ってるかは分からなかったけど。彼女の気持ちはすっごく理解できて、私はその子の頭をなでてあげました。その事件がきっかけで、私のいじめは消え、クラスのみんなと打ち解ける事もできました。私が思ってた人間像とはずっと違って、人が生きるって事はすっごく苦しいけど。でも、理解と愛情がある人間ってやっぱりステキです。人間になれてよかったなぁ〜って思います。それに、今は内緒だけど、恋愛もうまくいってます♪
また明日いつもの場所で待ち合わせだよ!君はそうメールを打って眠ったみたいだ。明日は朝から会議で忙しい。君に会えることだけが楽しみだ。「あなた、朝ですよ」妻が僕を起こす。形だけの夫婦。愛の無い生活。僕の稼いだ金を、湯水の如く無駄に使うバカ女。君とは全然違うね・・・ユキ。この世で唯一美しいヒト。いつもと変わらない行き道。ラッシュの地下鉄。君と同じ位の歳の子を見た。・・・・・君が一番可愛い。一番美しい。この世のものとは思えない。「専務、今日の会議の書類です」 出社して、君の夢から覚める。今後の新商品についての企画。 どうでもいい。今夜君に会えることだけを支えに、この灰色のうっとうしい煙に耐える。昼食時、前に不倫していたエリに会う。彼女はまだ未練があるようだ。彼女の視線を振りほどき、また灰色の煙の中に入る。午後6時。君との待ち合わせの30分前。急いで待ち合わせのデパート前に着く。君はまだ来ていない。良かった。僕の方が早く来ていないと君はふてくされてしまうからね。そこもまた、可愛い。君の全てが美しい。君の全てが欲しい。「ナニぼ〜っとしてるの??」白いワンピースに栗色の髪、完璧に整った顔。天使みたいだ ・・・ユキ「この前行ったお店いこっか?」 君の好きな和食の店だね。いいよ。君がいるとこの汚くて醜い街も楽園に変わる。「おいし〜っ!」 君が喜ぶと僕も嬉しい。食べているところも綺麗だね。「・・・行く?」君は少し恥ずかしそうに僕に伺う。僕たちはホテル街に向かう。また君を抱ける・・・君の好きそうなホテルを探しておいたよ。気に入ってくれるかな?一番高い部屋にしようよ。部屋に入り、ベッドに座る。君が言った。「そう言えば昨日の客、5万って言ってあったのに3万しかくれなかったんだよ〜。ひどいでしょ?最初からそのつもりだったんだよ、きっと」そっか、君は、キミは、きミハ・・・・ ・・・娼婦決して僕のものにはならない・・・。僕だけのものにはならない・・・。他の男に体を許し、金の為に足を開く、汚い女・・・キタナイ、醜い。一瞬頭が真っ白になり光に包まれた。「君は汚くなんて無いよね。僕はなんて事を思ったんだろう。君はいつでも僕の天使。ずっと僕のもの。綺麗な君とずっと一緒」ぼくの腕にじっと抱かれた君は、とても可愛くて、綺麗だ。そう、こんなに冷たくなっても。僕しか君の瞳に映らない。僕だけのキミ。