雨の昼休み、ベランダから帰り行くランドセルたちを眺めていた。思わず声を上げた。目に飛び込んだのは、きれいな傘。たぁかぁお〜!パンを頬張った友達が、時計を指差した。と同時に本鈴が鳴った。きれいな傘だった。薄桃、黄色、水色、濃桃色…淡く儚く、それでいて鮮やかだった。昼休みは決まって雨とあの傘を待った。何週間か雨が降らなくて、いつものようにベランダに出てると女の声がした。どうしたの?ここんとこずっと…景色見てるね。振り返って、俺は困惑した。高柳奈々子。彼女はクラスの中で人気で、言いようも無くかわいかった。故を話してからは、彼女は昼休みを俺と過ごした。そうなると教室内の男どもが休み時間毎に全員ベランダに移動するという大惨事が起こった。三週間たっても、雨は降らない。俺は呪われているような気がしてきた。このまま冬休みまで雨が降らないで、正月もここで傘をさがし続け、ついに野たれ死んでしまう。それを話したら、高柳奈々子は笑った。彼女は混んだベランダを見回して、抜け出そうよ。と言った。予鈴が鳴る五分前。俺には答える暇もなかった。彼女は俺の腕を引張って走った。見たことのない階段の前で彼女は速度を落として、ゆっくりと俺の手を引いて丁寧に一段一段上っていった。屋上に通じるドアの前だった。アルミの冷たいドアの隙間から微かに光が漏れている。来て。光に照らされて、彼女の髪が輝いている。彼女は呟いた。 あたしね、この景色が大好き。だからタカくんの景色も好きになりたくて声かけたんだよ。…好き。なにか、言わなくてはと思った。だけど彼女は、走って行ってしまった。そんなことがあったけれど、俺たちは今までと同じように休み時間をすごした。ただ日に日にベランダの人口密度が高くなっていた。4時間目の終わりごろだった。突然、そこにあったかのように黒い雨雲が登場すると、雷声が担任の声をかき消した。俺達は授業終了の鐘が鳴るや否やベランダに飛び出した。雨は地球を強く濡らす。ものすごい音だ。担任が叫んだ。小学生は大雨で通学中止!おまえら天気予報くらい見ろ。天気予報っていう手があったか…何やってんだ、俺。ごめんね。奈々子が言った。…わかってたんだ。あ。俺も今わかった。彼女が何で言い出さなかったか。俺が、何で思いつかなかったか。その時、奇妙なものを見つけた。ベランダに並んで何かを待っている俺たちに、あの傘みたいな、淡い虹を…。
空からロケットが降って来た。どう考えても僕を狙ってる。尖端のノーズコーンは四つのリンゴ飴で出来たピラミッド形で、胴の色は桃色に見える。リンゴ飴から飴がパラパラはがれ落ちてキラキラ光ってる。リンゴの赤さは空の青さと対になって僕の左目を突き刺した。
この話は出所がはっきりしていないので、こうやって皆様に読んでいただいていいものかどうか思案していますが、この話はここだけの事にして置いて下さい。「申し上げます。是非聞いていただきたい事がありますが、聞いていただけますでしょうか」「ただ聞けと言われてもなぁ、聞くだけなら聞きもするが、聞いてどうして欲しいかを聞かねば、返答のし様もないわい」 そう言って、裁魔大王はこのところ仕事が立て込み疲れていたのか、両腕を突き上げて大あくびをした。 それを見た受裁者は裁魔大王の機嫌を損ねないように上目遣いに顔色を見ながら、おずおずと話し出したがその受裁者の性格上仕方がないのかもしれないが、如何せん話しの要領が悪く何を言いたいのか良く理解出来なかった。 さすがに裁魔大王もいらついた様に、手に持った軍配で話をさえぎり、「これ、話は手短にするように、まだお前の後ろには大勢の受裁者が待っているのだ」 そして、周りには聞こえないほどの声で、ぶつぶつ独り言を言った。「何だってこんな仕事を引き受けたのだろう、皆の苦情を聞いて裁きを付けるなど、裁魔大王も楽じゃないわ」「はあ?何でしょうか」 その受裁者はよほど耳が良いらしく、裁魔大王の独り言を聞き返した。「何でも無いわい!早く言い分を申してみよと言っているのが判らぬか!」 この受裁者だけで、先ほどからかなりの時間を費やしていたので、今日も昼休みが無くなる可能性が強かったので、裁魔大王はかなりいらいらしていた。「あのぅ・・・私は何に見えるでしょうか」 まだこんな事を喋っている受裁者に裁魔大王はいよいよ怒り出し大声で、「どこから、どう見ても魚の開きじゃ、間違いあるまい、焙って食ったらさぞ旨かろう」「そう言ってもらいますと、とても嬉しいのですが、なかには食い物で無い等と申す者も居りまして、肩身の狭い思いをしております」 受裁者は少し涙声になってきた、今までよほどつらかったのであろう。その涙声を聞いて裁魔大王も先程までの怒りはどこへやら、「泣かずとも良いから、どうしてほしいのじゃ」 優しい声をかけました。「はい、私を焼いて食べてこんなに美味しい物は無い事を世間に教えて欲しいのです」「よし判った、その願い聞いてやろう」 そして、受裁者を焙りますと、とんでもない糞臭が立ち込めました。 今でも受裁者は肩身の狭い思いだそうです。名前は“くさや”、と言うそうです。
※作者付記: この魚の開きを知らない人にはどうかと思いましたが、知らない人は一度食べてみてください、念のために私は好きです。
「おい、出かけるぞ」「は?」先輩は満面の笑みを輝かせながら言い放った僕はというとにやけながらTVを眺めていたのも忘れ間の抜けた台詞でくわえようとしたポテチを取りこぼしていた「せんぱーい、どこに行くんですかー」「黙って付いてくる、着きゃわかるわよ」いつものように僕は先輩の後方1〜3メートル以内の僕のポジションにて先輩に尋ねている違うのは今僕らが歩いている場所がいつもの公園や商店街などではなく上り坂の多い森林つまり山道であることぐらいだ「…じゃあ質問を変えます、後どれぐらいですか?」「知るか!」えらくぞんざいな返事が返ってきた何故にいきなり連れまわされ重たい荷物を背負わされている僕のほうが怒られてるんだ!…遺憾ではあるがあちらも結構まいってきてるようだここは抑えよう聞けないのなら推察しかない向かっている方向は山奥距離がわからないつまり行ったことのない所出発前のあの顔からして行きたがっている所と思われる温泉?こんな所にあったかとも思うがありうる……いやこれだけの荷物で旅行というのも腑に落ちない遺跡発掘とかならどうだ、何の目的かはわからないが荷物の理由にはなる……だが野営の道具が見当たらない、山中に宿はないしいくら突然に駅前の大食いに挑むような…無鉄砲な先輩でも一日で遺跡が見つかる何ては思わないだろうでもそうならきっと僕だけ働かされるんだろうな先輩の握り締める冊子に気付いていればそうでなくとも働かされることにぐらいは気付けていたのかもしれない「着いたー」「ここは…」先輩の突然の到着宣言に顔を上げるがそこはただの川辺先輩は俺の担いできた荷物から取り出したスコップを突き出し最小の台詞で命令してきた「掘れ」「えぇっと…ここを?」先輩はうなずいて返した出かかったため息を押し殺し作業に入ることにした逆らうという考えが浮かばない自分が悲しい作業に入って数十分、恐るべきスピードで指示された範囲を掘り進み言われた深さまで掘り起こすもちろん川の水が流れ込んでずぶ濡れである動きにくいが冷たくはないあぁ、なるほどこれが目的だったかとやっと理解できる「きゅ〜け〜」工事現場の監督かあんたはとか思いつつも息が上がって言葉に出来ないゼーゼー言いながら岩の上に腰掛けると『ドボーン』…やっぱ先に入ったか「あはははは一番風呂〜」水着で風呂に入る先輩を邪道だとか思いながら僕はあなたの街の温泉MAPを握りつぶした
※作者付記: 読んでくれた方は分かっていると思いますが35回の先輩日誌の二人ですこの二人の話はもうちょっとあるかもしれません
熊のぬいぐるみと鹿のガラス細工、比べてみると熊よりも鹿のほうが高級そうに見えドキドキする。窓から差す夏の日差しに彩られ滑らかに敷かれた光色を中腰でぼんやり眺めていると不意に私は地面に吸い寄せられるように落ちた。驚きのあまり目を見開き刹那で振り返ると黒ぶちの眼鏡をかけた少女が左手を突き出し四つん這いになった私を見下ろしていた。 「ちょっと、なにするのよ!」 私は子供相手だが、むきになって声を荒げる。机は横に倒れ、さっきまで置いてあったぬいぐるみは無造作にころがりガラス細工は粉々になって、もはや鹿の形を成していない。 「…あなたのせいでしょ」 少女はとまどい小さな声で呟く 「あなたがそんな近くで見てるからいけないのよ…」 少女の言葉は少しずつ小さくかすれていき語尾のほうが聞こえない。自分のしたことに後悔しているのだとすればずいぶん衝動的な子だと思ったが私は少女のしたことが許せなかった。 「あなたが突き飛ばしたりしなければこんなことにはならなかったわ。なんでそんなことするの!?」 散らばったガラス細工は当然売り物であるため割ってしまった以上弁償しなければならないが辺りを見回しても少女の親御らしき姿はどこにも無かった。そもそもあまり出入りが頻繁にある店ではないのか私達以外、人の気配はしない。 しばらくして音を聞きつけた店員がやってくると驚きのあまり両手で口元を覆い、 「大丈夫ですか!?お怪我は無いですか?」 と心配そうに私達の顔をうかがう。 「ええ、でもガラス細工を壊してしまったのよ」 そういって私は少女の方をちらりと見る。 店員は私の視線で察してくれたようで少女の身長に合わせて腰を下ろすと 「あなたも怪我は無い?」 と笑顔で諭す。 しかし突然少女はクスクスと笑い出した。 「何がおかしいの?」 私は少女に静かに問いかける。 「だって勘違いしてるみたいなんだもの、この人。割ったのは私じゃなくてあなたなのに」 完全に開き直った様子で悪びれずに言う少女の言葉に私の胸は静まり返る。 「あなたが机に倒れてひっくり返したんでしょ、それをなんかいい大人が二人して私のせいにしようとしてるんだもん」 何かの切れる音がして次の瞬間私は少女の頬を強く叩いていた 静まり返る店内。 赤く滲んだ頬に手を当て少女はうつむき静かに泣いた。 私は言葉に詰まり考え込むように視線を落とすと煌めくガラスの星屑に頭が真っ白になり自分の高いハイヒールを消した。
「お父さん。あれ何?」 息子が指差したのは、シートで覆われた古いバイクだった。息子が生まれて七年。バイクに最後にまたがったのはいつだっただろうか。バイクがそんなに好きだったわけではなかったが、若気の至りと言うやつで、私は20万もかけて当時のスタイルに改造したが、流行が廃れるとすぐに乗るのを止めてしまった。しかし、そこまでするまでの苦労を思うと捨てられず、車庫の隅に隠すように置いていた。「あの中にはね。バイクがあるんだ。」「今でも動くの?」「どうだろう?動かないんじゃないかなぁ。」「見てもいい?」「又今度ね。」 シートをはがして見せてやればよかったのだが、流行を追っていたあのころを思い出すのが恥ずかしくて息子をそこから遠ざけた。「あたなどこ行くの?」「ちょっとタバコ買ってくる。」 夕食が終わると、近くのコンビニに出かけた。「ドッドッドッ。」 タバコを買って、店を出ると一台のバイクがコンビニの前に止まった。最新と言う匂いのする流線型のバイク。一瞬昔の憧れが煌いたが、車庫のバイクを思い出すとすぐに消えてしまった。私はタバコに火をつけながら、車庫のバイクを処分する事を決心した。 シートをはがすと時代遅れの堅物が姿を現した。シートをかけているのにうっすら積もった埃は放置されていた年数を物語った。私は決心するとすぐな性質で、直ぐ回収業者に電話を入れた。業者は九時前にもかかわらず直ぐに伺うとの事だった。 業者が来るのを待っている間中、様々な思い出をバイクは私に語った。当時付き合っていた彼女。追いかけていた夢。今は連絡も取らなくなった友達。そして、それからもう十数年が過ぎようとしていること。私が、ばかばかしく思いながら話を聞いているところへ業者がやって来た。業者はそのバイクが気に入ったようで、割といい値段をつけてくれた。現金を渡され、いよいよ積み込まれていくバイクを私は見守った。その間にもバイクは私に語りかけてくるが、私は聞かないふりをしていた。「ガツ!」すでに数台のバイクが詰まれた荷台に無理やり押し込められると、ついにバイクは私に語りかけるのを止めた。「有難うございました。」という業者の大きな声と共にエンジンがかかり、車が走り始めた。私はそのまま見送るつもりだった。しかし、私の足は車を追いかけた。もうすっかり忘れていた思い出。若くて馬鹿だったあのころの思い出が、愛しくて、愛しくて。
※作者付記: 部屋の片づけをしてたら、もうすっかり廃れてしまったCDが一枚。ジャケットを飾る男の子の顔を見ていると、なんとなく話が浮かびあがり書いてみました。読んでくれた方、ありがとう。CDは捨てちゃいました。
いつものように車を走らせていた。 空は曇っている。ラジオの天気予報では午後からの降水確率が高いことを告げていた。 数分走ったところで、私はいつものように決まった場所に車を停めた。 そこは駐車禁止の標識が建てられた場所だが、仕事でどうしてもこの場所に停めなくてはならないので仕方がない。 パトカーが走ってくる。横を通り過ぎる時に警官と目が合う。そのまま行ってしまう。 ため息が漏れた。なぜだろう、捕まるわけはないのだ、分かっている。それなのになぜか毎回パトカーとこの場所ですれ違うと緊張している自分が居る。 バイパスを走っている時もそうだ。 広く長い直線の道は自然と走る車のスピードを加速させる。そのせいでいくつかのポイントで警察が待機している。 遠くのほうからでも速度計測器が見えるので、走り慣れた車は直前でスピードを落とすのだが、通り過ぎる瞬間、速度は十分に落としているにも関わらず私の心臓は鼓動を速める。 細い道を通り抜けて近道をした時、小さな十字路に出た。その直前に大きく「止まれ」の文字が見える。 私は少し迷っていた。それは一瞬の事だったが、止まらなくても大丈夫だろうという気持ちがどこかにあった。 次の瞬間、私の右足はブレーキを踏み込んでいた。きちんと左右を確認してからアクセルを踏んだ。 すると、右のほうに白いバイクが見えた。白バイ。心臓が速くなる。良かった…本当に良かった。 もうこの時は鼓動が速くなりすぎて止まるんじゃないかって思うくらいに速かった。そして、少し気持ち悪くなった。喉の辺りが苦かった。 同僚が接触事故を起こした。十字路でぶつかった。怪我はしていない。 こんな時同僚の心配もそこそこに自分のことを考える。 良かった、私は一時停止して。良かった、黄色で信号止まって。 思い返せば色々な場面でぎりぎりのことをしてきたのだ。 バイパスで周りの車の流れに乗ろうとスピードを上げたことがある。 信号が黄色を告げてもブレーキではなく、アクセルを踏んでいることがある。 あの十字路で止まっていなかったら今、私は病院のベッドの上に居たのかもしれない。 ああ、良かった。 守らなきゃ、信号。 守らなきゃ、標識。 一呼吸おく心の余裕を持とう。 決められたルールを守る勇気を持とう。 ルールを守っているという自信を持とう。 そうすれば、もう警察にびくびくする必要がないじゃないか。 それって結構格好良いじゃないか。
「待ってるんだ」「なにを、ですか?」「たしか、女だったような。忘れた。長く、待ちすぎたからな。」「待つことが多いですね、人は」「多いとは、言わないんだ。待たないことが少ないだけだ」「そう?年がら年中、待ってる気を起こす回数は少ない。けど、それが長く感じるといった感じだと思う」「いや、やはり違うな、言い切ってしまうと、俺は待っていることしかしてない」「それは、駄目ですね。自分から歩み寄ることも大切です」「お前、頭おかしいのか」「あなたのよりましだと思うけど」「おまえ、待ってないのか、何も」「ええ。ただ、飲んでるだけです」「それは、おまえ、待つことから眼を背けてるからだ」「いえ、本当に、友人も女もきませんよ」「待つのは人に対してだけじゃないだろ。ビールを頼んでみろ」「ビールを?すいません、ビール二つ」「はい、お前は待ちの状態になった」「だから?」「俺と同等の目線に立っている」「待つものが違いすぎます」「そうか?ビールと女って、そんなに違うものとして認識してるのか?」「当たり前でしょ。」「どうして?」「・・・さあ?」「じゃ、一緒だろ?」「違いますよ。ビールは飲み物、女は人」「当たり前だろ」「そうですよ。当たり前のことですよ」「お前を満たすことには変わりがないってことだよ」「そうです?どちらにも満たされたことないけど」「そうなんだよ。待った挙句、それが来たら、次を待ってるだろ?俺はさっき女を待ってるとか言ったが、どうか定かじゃない。これ、すごく恐ろしいんだよ。待ちの状態で彷徨ってる感がある。そいつが来なきゃ、次のを待つことさえできない」「そりゃ、何を待ってるのか、明確でも、違うものが来ても、それで納得しちゃう場合もあるんだから、ホントに何を待ってるなんか、わからないでしょ。来るとしても、きっと、別の女がきますよ」「それにしても、来ないな」「来ませんね、ビール」「違うよ、女。」「ああ、まだ期待してるわけ」「そりゃ、期待するだろ。出かけた屁を止めるのは苦しいからな」「屁は出たがってるかもしれませんよ。ただ、あなたがここで屁をこくのはまずいと思っているだけで」「いや。俺は屁に関しては、待たなくてすむ。ちょっとした芸さ・・・・」「・・・・物凄い音ですね。」「やべえ・・・実が出たかも。ちょっとトイレ・・・」「最低」「あ、A子」「待ってた人ですか?」「いや、べつの。実が出たって感じの」
「もう少し綺麗な字で書いていただける?」紀子は、細い爪で机をカチカチと鳴らしながら言った。「俺はこんな字しか書けないんだよ!」拓哉は、紀子のカチカチと鳴らす癖が以前から気に入らなかった。カチカチ! カチカチ! 「なぁ、頼むから最後くらいそれやめてくれないか」「拓哉の投げやりな態度が、苛々するのよ」拓哉は、ふんっ!とはき捨て離婚届けの空白を埋めていく。「俺の本籍って、実家の和歌山だろ?なんでお前はこの家になってるんだよ」「ホンットに拓哉って嫌になる、ここ越してきた時変えようって言ったでしょぉ!何でもかんでも私にまかせっきりで、あんたは旦那として何してくれたんだろ!」紀子は、膨れっ面で大きな目を細めた。本籍を書いていた手を止め拓哉は言った。「よくそこまで言えるよなぁ!お前が家欲しいって言うから夜遅くまで毎日働いてたんだろ、この家は俺の血と汗の結晶だ」「何よ!それを節約してやりくりしてたのは私でしょ、あんたは仕事を理由にしょっちゅうキャバクラ行ってぇ、知らないとでも思ってるの」「接待も仕事の内なんだよ」「じゃ、エミリちゃんとメールするのも仕事なのねっ!」拓哉の顔がみるみる真っ赤に染まる。「そ・それは、てっいうか勝手に携帯見るなよ、性格悪すぎ」「営業メール本気にして、鼻の下伸びてる変体よりましだわ」「何だよっ!ダイエット食品に高っい金使ってるくせに、何にも変わってねーじゃん。あーもったいないない」「ちょっとは痩せたわよっ!つべこべうるさいのよ、さっさと書いてさよならしましょ」「それは、賛成!!」静まりかえる室内には、拓哉が雑に緑色の枠を埋めていくカチカチが鳴り響いている。紀子もじっとカチカチを聞いていた。「はい、終わりました。後はハン押すだけっと」「そうですね、拓哉からどうぞ」「紀子、ハン押す時くらいは仲良くしないか…」「うん。そだね… これでホントに終わるんだ」紀子は、拓哉との思い出の詰まったマイホームを見渡した。そして、ポツリと言った。「子供、作ってあげれなくてごめんね」「紀子がいてくれたから幸せだったよ。そんな事気にするな」「私も、拓哉と結婚した事後悔してないから!」「押すか…」「そだね。」二人は、ギュッと最後の欄を押した。そして、ギュッと抱き合った。役所の窓口の前に立ち、紀子は緑の紙を取り出した。二人は、何も言わずに窓口の人に渡す。その時だった。 「やっぱり待ってくれっ」拓哉が叫んだ。カチカチ カチカチ「早く、受理して下さい!」紀子のカチカチは、最大級に鳴り響いていた。
父の海外旅行の前日も、出発祝いのご馳走はなかった。 数ヶ月前から父の様子は変だ。中堅の商社マンで、いつも酒の匂いをぷんぷんさせながら深夜近くに帰宅していた父が、7時前にはリビングのテレビの前にいることが多い。肩を落とし、うつろな目で画面を追っている。時々ソファーに、ラクビーで鍛えた体を投げ出し、じっと天井を見つめながら何かを考えている。母の様子もおかしい。ゲームに熱中している僕に、「大学受験まで何日あると思っているの?」というのが母の口癖だが、最近は声のトーンが極端にヒステリックだ。顔色が悪く、ほっそりした体がさらにやせ細っていくような気もする。 その日、父は夕食前に帰宅。土気色の顔と落ち窪んだ目がどんよりとしている。ここ数日の睡眠不足を物語っているようだ。食卓についても夕刊に目を通すだけ。目の前の食事に箸をつけようともしない。広げた夕刊紙の下で、秋刀魚と切干大根がさびしく並んでいる。誰も口を利かない。親子三人のだんまりが果てしなく続く気配だ。と、母が沈黙を破った。もうこれ以上我慢できないという表情だ。僕の方を向いて、「隆志、ちょっと2階へ上がってて頂戴!」と声高に言った。唇がぶるぶる震えている。父も夕刊から顔を上げて僕の方を見る。窺うような目つきだ。「まだ食べ終わってないよ」と口を尖らせたけれども、結局母の言うとおり2階へ上がった。でもすぐに又階段を下りた。今度は音を立てずに……途中で立ち止まって耳をすました。「私たちこれからどうなるの?」母が口を切った。なじるような調子だ。「分からない」父の声は小さかった。数ヶ月前の自信にあふれた野太い口調が影を潜めている。「隆志にはパパは海外出張で上海へ行くと言ってあるけど、私の両親にはなんて言ったらいいの?」少し声を落とし気味にしゃべっている。「父は心筋梗塞なのよ。こんな話聞いたらまた発作がおきるわ」「俺だってどうしていいか分からないよ。運が悪かったんだ。今までも酒飲んで運転することはあったけれど、検問に引っかかることもなかったし、まさかあんなに遅い時間に婆さんがふらふら飛び出してくるなんて……」意外な事実だった。父は海外へ出張するのではないのか?両足が震えて立っていられなくなり、その場にしゃがみ込む。耳の中がじんじんする。「私、あなたと別れるわ」母の声がツララのように僕の耳を刺し貫いた。「ずっと前から考えていたの」 翌日は小雨だった。僕が2階の寝室から下りてくると、父が食卓の上に朝刊を広げていた。外出の支度は済ませているようだ。僕を見ると、げっそりやつれた顔を無理にほころばせて、「それじゃ行って来る。ママは起こさない方がいい。薬飲んでるみたいだ」と言いながら立ち上がった。左手にボストンバッグをさげた、前かがみの背広姿を玄関まで見送る。傘も持たずに外へ出て、玄関の引き戸を閉めようとする。思わず、「父さん、駅まで送ろうか」と声をかけた。父はちょっと戸惑ったような顔になり、細い目で雨空を見上げた。涙が光っていた。
一ノ宮君は、某男性アイドルに似ている。某女性モデルにも似ている、と私が言ったら、友達は否定した。どう考えても、金色の田圃の背景は似合わない。すっと通った鼻筋、少し茶色がかった髪の毛。黒目がちで澄んだ目が私は好きだったが、その目はいつも、すべてを見透かすように光っていた。ちょっとした嘘や、誰かの機嫌をとるために飾った言葉を、彼は受け入れたりはしなかった。私が言った言葉も、すべて一方通行。慎重に選んだ言葉は、なんの重みももたない。同じ服装で四角い箱の中に収められた、ちっぽけな個性しか持ち合わせていない私たちのことも、単調な生活を強いられるこの街のことも、きっと彼は嫌いだったのだ。「なんていうか、めんどくさいよ。ここの生活。」古くさいしきたりや、錆びた絆を大切にするこの小さな街で生きるには、捨てなければいけないものがいくつかある。私たちだって本当は彼のように自由に生きたかった。でも、流れに逆らう強さとか、なにかを犠牲にしてまで歩いていく勇気を、持ち合わせていなかったのだ。結局、私たちと彼は少しも距離を縮められないまま別れた。例年通り雪が残る春の日、想像したとおりの流れのなかで。確か私は泣いていて、彼は笑っていたんだ。少しずつ色あせていく記憶の中で、最後に見た笑顔だけは、忘れたくないと思った。卒業して5年以上たったが、私は彼に一度も会っていない。同級会にも、成人式にも、彼は来なかった。誰も彼の今を知らないのだ。私たちと彼の時間は、あの卒業式で止まったまま。「俺さ、成人式はどこでやるやつに呼ばれるんだろ。誰と再会して喜べばいいんだろ。」卒業間際そう呟いた彼の言葉と、やけに寂しそうだった横顔が私は今でも忘れられない。私たちは、流されるままここに行き着いた。彼はまだ、戦っているのかもしれない。
「至るところは中心だ。永遠の道は曲線なのだ。」 俺はまだ、紙きれに書かれたこの言葉の意味を考えている。 帰りの電車、俺の隣に座っている男がなにやら文章を書き始めた。なぜが気になり、盗み見てしまった。 〜青白いライトが校庭の1/3くらいを冷たく照らしている。残りの2/3は真っ暗で何も見えない。その光の中に、高校を卒業したばかりくらいの年齢だろうか、1人の青年が立っている。右手には紙きれを持っていて、イヤフォンからは音が漏れている(たぶん平井堅のLIFE IS・・だ)。紙きれにはこう書かれている。「どこにいるんだろうとふと思ったら、怖くなってきた。このままどこにいるのかわからないまま死んでゆくのは怖い。現実を超えるため、ここから消えます。光一」それから光一は、〜 と、ここまで書いて隣の男は慌てて下りていった。(駅に着いたらしい)光一がどうなったのか気になる・・・。俺は眼を閉じ、その話の続きを勝手に想像した。 〜それから光一は、LIFE IS・・が終わるまでその場に佇んでいた。大音量の曲が終わると同時に、光一を照らしていた光が音もなく突然消えた。聞こえない?見えない?眼を開けて何も見えなかったら?動き出したら何もなくて動いたことにすら気がつかなかったら?光一はそう考えると何もできずその場に立ちつくした。〜 うん、こんな感じかな、と眼を開けようとした時、寒気がした。俺のイヤフォンからもLIFE IS・・が流れていて、ちょうど終わろうとしていた。(・・・それだけが真実・・・・・)終わった、次の曲までの空白。眼を開けられない。動けない。ただ、右手には何かをつかんでいる感触がたしかにある。たぶん紙きれ。この紙きれだけがおれを現実にとどめてくれている。
花屋の前を通りかかった。とてもいい天気だった。通りにはみ出るように置かれた花桶の中で大輪の花を咲かせたヒマワリが溺れていた。 少し動きの鈍い自動扉をくぐると、ガラスケースに囲まれた薄暗い店内からぞくりとするような風が押し寄せてきた。「あの。」 こちらには目もくれずガラスケースの切花をせっせと整える店員に声をかけた。「表のヒマワリ全部ください。」 急に愛想よく応対を始めた店員には生返事で答え、似合わぬマニキュアの貼りついた指がヒマワリを引きずり出す様を眺めていた。「プレゼントですか。ラッピングはどうしましょうか。」「いえ、そのままで結構です。」 一抱えもあるヒマワリをプレゼントでもないのに買い占める客がよほど珍しかったのか、急に饒舌になった店員が根掘り葉掘り聞き出そうとする。「好きなんで。」 結局その一言で納得させることができたのか、この客と話しても無駄だと思われたのか、やっと支払いを済ませることができた。 動きの鈍い自動扉をくぐると、むわっとした室外機の風が頬をなぜた。 よくしゃべる女だ。 どうでもいい雑音が私の頭にこだまするので、早く部屋にもぐりたいと思った。 視界をふさぐほどのヒマワリを無造作に抱きかかえ、早足で雑音を通り過ぎていく。生暖かい室外機の風が、背中から覆いかぶさるように追いかけてくるので、捕まらないように駆け足で逃げた。 埃をかぶった花瓶にヒマワリを生けていく。入りきらないヒマワリをぎゅうぎゅうと押し込め、あまった花はもう使わないジョッキに挿すことにした。 ヒマワリが余計なことをするなよと私を責める。お前の部屋になど来たくはなかったのだと口々にののしった。 雑音からは逃げられないのだと思い知った私は、今日という日をリセットするために、少し早いが就寝することにした。 小さな布団にもぐりこむと懐かしい体温と臭いが私を慰めてくれた。明々と灯った蛍光灯の下で、私はしばしまどろむことにした。 目が覚めると雑音が聞こえなくなっていたが、小さくしおれた茶色いヒマワリが、今日を告げた。 だから少し泣いた。 茶色くなったヒマワリを二つに折りたたんでポリ袋に押し込める。居場所を見つけたような茶色い塊が嬉しそうに跳ね上がった。 私は明日になればいいのにと泣いた。
記憶にあるこの香り。何の香りだっけ。いつも通りの道を歩く私。周りには誰もいない。朝練があるから家を出るのは普通の人より1時間位早い。すがすがしい道を歩く。さっきから気になってるこの香りの正体を考えながら。そんな事でも考えてないと、昨日の事を嫌でも考えちゃうから。 10月2日木曜日。雨。「大っ嫌いッッ」教室中に響き渡った言葉は私に向けられたものだった。恥ずかしいとか、そういう部類のものじゃなかった。静まり返った教室に私を残して、その声の主は去っていった。私はただ彼女の計画を笑っただけ。だって。私に愛のキューピットみたいな役をやれって話。漫画じゃあるまいし。彼女の名前は優利。名前どおり優しくて利口な子。優利とは友達以上恋人以下。親友ってやつになるのかな。私にとって彼女は、そりゃ大切ですとも。別に男に優利がとられるとか、そういうことは思ってない。…と思う。でも、好きなら真っ向勝負っていう直球勝負派の私に、その計画は馬鹿げて見えたわけで。優利だってそんなこと分かってただろうに。でも親友と思ってる子にそういう言葉を投げかけられると、意外とコタえる。協力してやればよかったのかなぁと思ったり。でも、それじゃぁねぇ。昨日が金曜日で、今日が休みだったらどんなに良かったか。さすがに気が重い。教室にいた友達とも会いたくないな…って。結局考えてんじゃん、自分。なんだかなぁって一人で笑った時だった。「かおりィ――…」聞き覚えのある声。「かおりッ」私に追いついて一言。「昨日はごめんなさいっ」「・・・」ビックリするでしょ、これ。だって、優利は朝練ないもん。しかも、何?謝られてる?私。「なんかあったっけ」心とは裏腹な言葉。嘘つき。昨日のあの時から今のイマまで考えてたくせに。「っ何でもない」そう言って微笑む優利。二人でのんびり歩くいつもの道。「かおり。あたし今日直球勝負してくるから」そう言って青い空を見つめる優利。やっぱり。分かってたんだ。「ふぅん。陰ながら応援してるゎ」「なんかいい加減な応援だなぁ」眉間にしわを寄せて優利がまた笑う。本気で応援してる、なんて言葉は要らない。だって。優利はきっと分かってるから。「ぁ。キンモクセイの香りだぁ」突然優利が言う。思わず笑う私。そんな私を不思議そうに見る優利。そっか。キンモクセイだ。二人で歩くいつもの道。笑い声が響くいつもの道。10月3日金曜日。快晴です。
呪うようなその言葉に、私はまた、悪夢を見るのだろうか。「あなたってほんとにダメな子」母親が、綺麗に飾った白い手をひらひらさせながらゆったりと言う。直立不動で、私はいつものように、それを聞き入れた。「どうしてなの。容姿も良くないし、とりえもない。自分で分かっているのよね?」真夏の六畳間は、日が傾いてもべたべたとまとわりつくような暑さで、意識も声も遠のくようだ。朦朧として、現実感のない現実。足元がふわふわしてどこかに飛んでいけそうなのに、必死に鳴く蝉が、お前はここにいるんだと、責める。何が気に入らなかったのか、母親は嘲るようなその顔にふっと険しく影を落として、すっと立ち上がった。あぁ。まただ。逃げたい衝動。でも逃げられない。だってここは、「世界」なんだから。ここ以外に私がいていい場所はないのだから。「…何度いっても分からないのね。」ぬめっとした低い声で、彼女は耳元で呟く。頭の芯が、闇に吸い込まれていく感覚。肩に置かれた白く長い指を見つめて、何とかここにとどまろうとする。けれどしっとりとした長い黒髪と、美しい彼女から流れる香水の香りが、私を徐々に奪っていく。「…あなたのその顔見るといらいらするの。ほんと、父親にそっくり。いやらしい、あの男。あなたも、そうなのでしょ?…ねぇ…、この前、私がいった意味…ちゃんと理解していたの…?どうしてもどってきたの…?」背筋がぞくぞくする。男を誘う時と同じ色香で、彼女は私を誘っている。闇の淵へと。「…死んで欲しいって…そうお願いしたじゃない…。」ぐらつく意識。揺らぐ感情。灰色の濁った目で見ても、にやついた嫌味な笑顔を浮かべた彼女は、それでもやはり美しかった。絶対という言葉がそこにあるのなら、彼女はそれだ。吹き出る冷や汗が、畳にぽたっと小さく音を立てて落ちた。それを合図にするように、彼女は台所へと向かって、鈍った銀色の、鋭い包丁を取り出し、私に差し出した。「本当はここではやって欲しくなかったのだけれど…。独りが怖いというなら、私が見ていてあげるから。」 さあ、どうぞ。震える手を伸ばし、言われるがままそれを受け取る。吸い込まれるような瞳を輝かせて、彼女はじっとそれを見ていた。まるで漆黒の宝石。怪しく光るその石は、きっと持ち主全てを不幸にするんだ。尖った刃先をくいいるようにみつめる。こんな短い長さでも、私の、骨の浮き出た胴体をつらぬくには充分だろう。 さあ、どうぞ。もう一度、彼女がささやいた。意識はぐるぐるあてなくまわり、切れ端みたいに、見るもの全ては重なって、暗かった。一瞬。なにかがきれたように、私は倒れるように前にのめりこんで、自分に向けていた刃先を目の前の影に向かって力いっぱいつきたてた。影は、白い腕を私の背中にからませ、細く長い指で私の湿った服を握り締めた。うつむいていた顔をあげると、恐ろしい形相の女が、黒い大きな瞳で私をとらえ、淡く彩られた口元をゆがませていた。きつい花の香りを放つ身体にそってゆっくり曲線をたどると、足元には赤い海が広がっている。女は、やがて力果て、ゆっくりその場に倒れていった。その死に顔は、なおも美しかった。「ちゃんときいているの?」母親がといかける。ぼうっとした空想からさめると、そこはあのままの六畳間だ。あぁ…まただ。一体どこからが幻想だったのか。広がる世界から何とか把握しようとする。「さぁ、どうぞ。」呪うような言葉。私が本当にさめるのは、いつだろうか。
※作者付記: ほのぼの路線でいこうとおもっていたのに…ちなみにいま受験期です。
キミと会ったのは、九月の始め頃だったかな?まだ暑くてセミなんかも元気一杯で、キミの日焼け後の見えるワンピ―ス姿、チェ―ンの外れた自転車抱えて、モジモジ困った顔で通りすぎて行く人を睨んでいたのが可愛かったから。なんとなく声をかけたんだ、やましい気持ちなんかこれっぽっちも無いはずなんだけど、でも、やはり下心があったんだと思う。キミのそのショ―トカットの髪も、クリッとした丸い目も僕の心をドキドキさせる。いつのまにか、また次に会う約束まで決めていて、年甲斐も無く指きりなんか切ちゃって。でもやっぱ変わってるよね、一回りも歳の離れたカップルなんて、人気の無い公園でキミと遊ぶ、とても幸せな瞬間、でも、自分の行動に重圧を感じて、公園のベンチで頭を抱えた。そんな僕に、彼女は、「具合でも悪いの?」と、ブランコを放りだして駆け寄ってくる。「アイスでも買ってくるよ、」僕は無理やりな笑顔を造り立ちあがった。何年モノだろうか、タバコのヤニで汚れた天井、家なりの音、この築25年のボロアパ―トはちょっとした風にも、キシキシと病人のように身体を振るわせる。ゴミと雑誌に埋もれた部屋、大の字に寝転んだほろ酔い気分の頭の中に、悶々とあの子の笑顔と笑い声、そして手の感触が炭酸の泡のように浮かんでは消える、しばらくするとその思いは、ティシュの中に包まれて捨てられた。 秋風の舞う通学路、私は一体、この気持ちをなんて言っていいか判らない。友達や家族と話すとでも違う、嬉しくてドキドキ楽しいけど、ちょっと緊張するこの気持ち、ランドセルの教科書をガタガタ揺らして一歩前身。秋なのに、半袖、ジャ―ジ、サンダル姿のあの人は、ひげの生えてる新しい友達。僕はあの子の事が、私は、あの人のことが、大好きだ。お兄ちゃんみたいだ。 にぱっと、僕のほうを向く笑顔、僕はなんだか堪らなくなって、小さい肩を包み込みうように強く強く抱きしめた。ギュッ、照れ隠しに笑った瞬間、私の視界は急にお兄ちゃんの、灰色のTシャツの色で一杯になった、柔らかく匂う煙草の匂い。僕はぎゅっと、彼女の鶏がらのような細い背中を抱きしめ、シャンプ―と太陽の香りのする、ドコか甘い香りのする頭に、鼻先を押し当てた。私は、最初訳がわからなかった、だんだん息苦しくなる、でもお兄ちゃんはやめようとしない、ヤメテなんて言っても聞いてくれない、背中に在った手が、だんだんお尻とかその下の方に降りてきた。なんだか怖くなって思いっきり突き放した!やってしまった、突然の事にビックリしたのか、息を切らし潤んだ目で僕のことを睨みつける彼女。僕は、自分でもわからなくなって、駆け出した。脱げるサンダル、興奮しすぎたのかふわふわしている頭の中、でも足の裏には小石が刺さる感覚、次第に息が上がる、暑くなるからだとは逆に自然に頭が冷めていく、僕は足を止めた、ゼェ―ゼェ―乱れる呼吸の中で、ゴメンと二、三度繰り返し歩き出した。
※作者付記: また、なんとなく貼りつけてしまいました、今回はなんだか文字数を大分オ―バ―してしまって、勉強が足りないなと思ってしまったり、それと、図々しくも感想を書かずに、投稿したことも反省し頑張ります(スンマソン)