第4回体感バトル

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第4回体感小説バトル・インデックス
エントリー1 月聖華弥さん作/陽高 文字数1000
エントリー2 narutihayaさん作/やはりぼくらはおちたのだ 文字数998
エントリー3 深杜ヒナさん作/Cold meaT 文字数647
エントリー4 松田めぐみさん作/万年青 文字数1012
エントリー5 TakashiOkanoさん作/ero汁 文字数631
エントリー6 小春さん作/シャンプー中の背中 文字数937
エントリー7 あめのみとおるさん作/時の欠片と赤い月 文字数1000
エントリー8 右居てんさん作/家族の食卓 文字数937

注)jさん作品「df」(文字数1)はメールアドレスが明記されていませんでしたので残念ながら掲載を見合わせていただきました。

第4回体感詩人バトル・インデックス
エントリー1 香月朔夜さん作/心の欠片 文字数30行
エントリー2 okanotakasiiiiさん作/引 文字数234
エントリー3 カノンさん作/サイクル 文字数24行
エントリー4 みやさん作/あなたへ 文字数78
エントリー5 りんねさん作/地球の子守歌 文字数18行

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小説部門

Entry1

陽高

月聖華弥
文字数1000


 陽高と言う名の知人がいた。彼は弟の友人で、未だ十五歳だった。

「鈴佳」
 一年振りくらいで会う友人は、ふいに私の名を呼んだ。どうやら最近の癖が出てしまったらしい。
 最近の癖、焦点の合わないような眼をしたまま物思いにふけると言うのは、見ている方にとってはとても不安らしい。
「どうしたのさ」
 ううん、何でも無い。
 答えて、実感が広がった。考えていた事…陽高が死んだと認識してもう五年も経つのだと。
「本当に」
 心配そうに聞く。うん、本当だよ。
 穏やかに返して、似た雰囲気を思い出した。
 それは、陽高が居なくなる前日だった。

「鈴ちゃん」(彼は私をこう呼んだ)。
 きちんと覚えている。それは夜だった。時間はもう十時を過ぎていて、私はパジャマに着替えていて、とても慌てた。
 そして彼は窓から顔を覗かせた。広く開けた窓から、日に焼けた顔を覗かせ、二十七センチの大きな黒い靴を手にして、その細くすらっとした身体を私の部屋に滑り込ませた。それからフローリングの床に腰を下ろして事も無げに聞いた、鈴ちゃん、俺の事好き、と。
 私は気が動転してしまった。普通に聞く言葉では無かったからかもしれない。
 ろくにその言葉も聞かずに私は陽高に訊いた。弟呼ぼうか、と。すると陽高は苦笑気味に頷いてくれた。
 私が弟を隣りの部屋から引きずり出して来た時、陽高はまた私に同じ事を言った。
「鈴ちゃん、俺の事好きだった」
 疑問符がつかないような訊き方だった。私は頷いた。それしか方法が無いと言うような顔をしていたような気がするくらいに。
 陽高は半分眠そうな、半分驚いている顔をしている弟にも同じ様な調子で同じ様な事を訊いた。弟も頷いた。
「有難う」
 陽高は満足そうに言った。そしてそのまま何も言わずに入ってきた所から出て行った。
 アリガトウ。それが私の聴いた陽高の最期の言葉で、口調で、私の観た陽高の最期の言葉だった。
 その直後に、陽高は居なくなった。
 遺書も無い為、それは行方不明と言うらしい。
 けれどそう思うと苦しい。十年見つからない人を期待して待って居る事ほど。
 アリガトウの音が鼓膜に響く。

 それから暫くして、友人と別れた。
 MDウォークマンをつけると、洋楽が流れた。名も知らない曲の一部分が断片的に耳に入った。
 ドゥ ノット クライ
 太陽が高い所にある。
 私達と陽高は常に近い所に在る、絶対。
 私は空に、陽高と再び会えるように、と願った。


Entry2

やはりぼくらはおちたのだ

narutihaya
文字数998


 エレベーターが43階を通り過ぎようとする頃だった。天井で音がした。見上げる僕の首と連動する様に、足元から床の感触が無くなった。迫ってくる天井が鼻先にぶつかり、目の前が真っ暗になる。目が眩んだにしては、その暗闇は長すぎた。電源が落ちたのだ。暗闇の中で僕の体が浮き上がる。いや、正確には落ちていく。落下速度は狂った様に増し続け、逆向きの重力が僕の肺から呼吸を奪った。空気の裂ける音が耳に突き刺さる。落下する暗闇の拷問に耐え切れず、僕は悲鳴を上げた。恐らく、上げた。

 意識を取り戻した時、僕はまだ暗闇の中にいた。静かだった。目が開いているのかも分からず、かすかな呼吸の音のみが生きている事を教えてくれた。どうやら落下は止まったらしい。僕は手探りで非常用のコールボタンを押した。すぐに女性の声がした。

「どうしました。」
「エレベーターが止まってる。真っ暗だ。早く助け出してくれ。」
「落ち着いて。状況を教えてください。」
「40階ぐらいで突然落ちたんだ。今は止まってるけど、また落ちるかも知れない。急いでくれ。」
「落ちたのは40階に間違いありませんか?」
「ああ、40階ぐらいだ。」
「本当に40階でしたか。」
「とにかく40階かそこらだよ。いいから急いでくれ。」
「だめです。」

声のトーンが一段下がった気がした。だめ? なにがだめなんだ?

「それは43階だったはずです。」

女は続けた。

「私はあなたをずっと見ていました。あなたの行いは、やがてアラビア半島で多くの人を殺し、さらに世界に広がる絶望的なまでの格差を決定的なものにします。」

事態はさらに悪化した。これはテロだ。悪質なテロリストが、ビルを占拠したのだ。

「待ってくれ。確かに僕の会社では武器を扱っているし、それは湾岸でも使用された。だが、それを決めるのは僕じゃない。僕の様な民間人を拘束したところで、何一つ変わる事はないはずだ。」
「そうです。何一つ変わる事はありません。あなたは、戦争という憎しみの連鎖に寄生して生きています。そして悲しむべき事に、それはもはや人間の社会そのものの姿でもあるのです。」

いつの間にか声は変わっていた。それは男でも女でもない声だ。

「あなた方はもう後戻り出来ない。」

ああ、その声はもはや人のものでさえない。

「いいですか。これは裁きなのです。」

暗闇に一本の光が指し、扉が開く。その先に広がる光景が僕に教えてくれた。やはり僕らは堕ちたのだ。


Entry3

Cold meaT

深杜ヒナ
http://www6.ocn.ne.jp/~raia/ うたかた
文字数647


毛細血管がヤられた。

(私は一体どんな表情をしてるだろう?)

心臓が霞んでいった。

(私は一体どんな表情をしてるだろう?)

意識が鈍く、塗り潰された。

(私は一体どんな表情をしてるだろう?)

「こりゃもう駄目だな、腐敗し始めてら」

「そうッスねェ。誰かが棄てたんですかね?」

「さぁな。未だ若ェのになぁ、…同い年ぐらいじゃねーか?」

「そうッスかぁ?ってかそんなんよりとっととシゴト片しましょーよ。」

「おぉ、そうだな。」

「あ、ソレ、どーします?」

「今更、一体増えた処で変わんねェだろ。」

「えぇ〜?でも今日何時もより多いって聞いたんスけど…、」

「何だぁ?女と約束でもしてんのか?」

「や、そーゆー訳じゃないッスよ!」

「まぁいいけどな、こんなトコで働いた後じゃシャワーくらい浴びねェと出来やしねぇしな。」

「そうッスよねー。もーカラダから腐臭がぷんぷんしちゃって、」

「……やっぱ女か。」

「………あ。」

「しょーがねぇな、社長には黙っててやるよ。」

「すんません〜。」

「オラ、早く片してぇんならさっさと働け!」

「判ってますって。」

「………?」

「どーかしたんスか?」

「いや、何でもねぇ。それよりそろそろ処理車の回収時間じゃねーのか?」

「あ、俺行ってきますわ、」

「おー、頼む。」

「………気の所為か。」

「こんなぐちゃぐちゃなカオに表情もクソもねぇしな……、」

今日も、空は青い。
今日も、雲は白い。
今日も、風は吹く。

(私は一体どんな表情をしてるだろう?)

明日も、空は青い?
明日も、雲は白い?
明日も、風は吹く?

(私は一体どんな表情をしてるだろう?)


Entry4

万年青

松田めぐみ
文字数1012


 「偉いわよねぇ、私にはとてもできないわ。だからこうやって平凡な主婦をやっているんだけどぉ。私って寂しがりやだから、誰かと一緒にいないとダメなのよ。」

 そうか、もう冬なのかと風の冷たさで改めて実感した。
 三十歳、バツイチ独身。再婚の予定どころか彼氏さえナシ。会社ではただの事務職、もとい、雑用係。
 ねぇ、誰が寂しくないなんて言った?
 もしも、今年の初雪を愛する人と一緒に見ることができるのなら、私は、もう自分の泣き声で夜中に目を覚ますこともなくなるだろうか。あんなに傷つけられても、まだ誰かを愛したいという気持ちがあることは否めない。ふたりだから故の寂しさもあると十分知っているはずなのに。
 空家のような空気の漂う部屋に帰ってくるのが嫌で、寂しさ紛らしに飼った金魚も亀も、観葉植物さえもことごとく死んでいった。唯一残ったのは、うちに来てから4年経つというのに、一向に花を咲かせないシャコバサボテンだけ。
 でも、今日からもうひとつ増えた。帰り道の花屋でふと目に止まったミニシクラメン。可憐なピンクの花を付けていた。安いものだし、買ってみようかなと迷っていると、金髪に近いくらい髪の色を抜いた店員の女の子が出てきた。しつこく何度も育て方を聞いても、嫌な顔一つせずに丁寧に教えてくれた。
「毎日ちゃんと花を観てあげて下さい。それでぇ、葉っぱがくたっとなった次の日に、蛇口の下に持っていってたっぷり水をあげて下さい。水が下から出てこなくなってから元の所に戻してあげて下さい。」
 支払いを済ませると、彼女は「頑張って育ててくださいね」と言って渡してくれた。その時、彼女が妊婦であることに気が付いた。
 私は、たった一度だけ身篭ったことがあった。すぐに流産してしまい、その時に自分が子供を生めないことを知った。
 私の子宮は子供を育てられない。
 私は、金魚も亀も、観葉植物も育てられない。

 部屋の陽のあたる場所、かといってあたり過ぎない場所を吟味してそっと置いた。
 お願い、死なないで。生き延びてよ。
花の咲かないシャコバサボテンが無神経な友達の言葉とダブった。
 ねぇ、誰が寂しくないなんて言った?
捨ててしまおうと植物専門死体置き場のベランダに持っていくと、死んだはずの万年青が新芽を出していた。慌てて部屋に入れてじっくりと観る。あんな死体置き場で新芽を出すなんて。強いものには環境なんて関係ない。強さとは神々しいものだと長いこと見入っていた。


Entry5

ero汁

TakashiOkano
http://www.geocities.co.jp/Milano-Aoyama/8806/nontag.html matta
文字数631


昨日は飲めなかった。
風の中の俗。

 わたしは、良く漢字の意味を考えたりする。
といっても寒い夜に独りで、セブンイレブンの美味しい弁当を食べ終わった後に、とかだけれども。
 セーラムピアニッシモを半分位吸った時に、わたしの頭の中はメンソールのせいで、普段考えない事まで、考えてしまうのだろう。

みんなお金がたまると辞めていくし、指名しても休みだったり、誘ってもぜったいにタブーで、せいりだったり、等々。

彼女には、なってくれない。
絶対に、自分の彼女、オンリーワンの存在になんかなりっこない。
求めても、風の中の一枚の枯れ葉の様に、遠く彼方へとんでいって、本当の名前さえ、知らないまま。
わたしの恋は終わる。そして、又風の中のお客として、新しい彼女達と出会う。

それは、大人のあそび。
それは、風の中の俗。

 わたしは、セーラムピアニッシモを最後まで吸い終えて、今まで通り過ぎていった風の中の女の子達の、忘れてしまった沢山の面影に一瞬のキッスをしてから、唇からフィルターを放した。

今夜も独りだけど、わたしも風の中の住民だから、風俗の中の一人だよ。

 そう思いながら、こんな考えを、今日一日のエピローグにしない様にと、わたしはアルコールを、一気に口に運んだ。
アサヒスーパードラッアイー。

 今度休みがとれたら、「おとこの ero汁」っていうタイトルで論文を書こうか。

これが今日最後の、わたしの言い訳になるように・・・
 わたしは2本目の缶に、手を伸ばした。

今日はかろうじて飲めた。

 「俗世間、好」


Entry6

シャンプー中の背中

小春
文字数1000


 少女の入浴映像。
 だが残念ながらあまり面白い絵ではなかった。肝心なところは見切れているし、そもそもシャンプーしている背中が定点で映っているだけだ。
 少女は泡を流すために屈んで、シャワーのお湯を後頭部で受けている。ふと、映像が乱れ、白い影がかかった。画面を縦断する細長いそれは煙のように揺れていたが、いつまでも消えることはない。単なる光の映り込みなどではなく、明らかに「何か」が映っていた。
 人の顔のような形になった時、映像は一時停止し、その部分が数秒、拡大される。少女がシャワーを止める。と同時に白い影もかき消えた。
「うわ、これ結構凄いね」
 画面は男性アイドルの顔に切り替わり、そしてすぐ消えた。
 営業担当のU氏はビデオのリモコンを握ったまま眉を寄せる。今まで観ていたのは心霊現象を扱うバラエティ番組の録画だ。素人の投稿ビデオが流されていたのだ。
「これの件ね」
 そう言うU氏の手元には分厚い紙束。苦情質問のメールのプリントアウトだった。
 この投稿ビデオが撮られたのは三ヶ月前。恐がりの少女が、シャンプー中の背中が気になる、と試しにデジカムで撮ってみたら、いきなり「何か」が映っていた、というのだ。それがテレビに取り上げられ、子供が真似し始め、……そして、かなりの確率で同じような映像が撮られた。
 シャンプー中に背中を撮ると幽霊が映る。
 噂は一気に広まった。そしてそれを支えたのが、U氏の在籍するこのカメラメーカーの製品、しかも一機種。そのデジカムでしか撮れない。お陰で爆発的に売れたが、営業としては微妙なところだ。
「ええと、それなんですが……」
 U氏に言いづらそうに答えているのは、開発チームリーダーのS氏。何でも画像処理プログラムに問題が見つかったらしい。
「調べてみたら、Nが変なのを仕込んでましてね。一定の湿度、時間帯になると、映像に手を加えて、あんな白っぽい影が出るような細工がしてあったんです」
「N? ああ、三月末に辞めた。こんな手の込んだイタズラを残すなんて、彼は我が社に恨みでもあったの?」
「いえ、それが……」
 S氏はもう映っていないテレビを複雑な表情で見る。
「細工されたのが日付を見ると四月八日です」
「辞めた後?」
「ええ、おまけに、……Uさん、知りませんか? あいつ辞めた後、実は自殺してまして。四月一日に。風呂場で手首を切ったらしいんですけど」
「……風呂場?」
 S氏は無言で頷いた。


Entry7

時の欠片と赤い月

あめのみとおる
文字数1000


 マクドナルドのフリーの笑顔にすら思わずどぎまぎしてしまう。そんなときには『オレの人生ってなんなんだろ』なんて難しい事をぼんやりと考えてしまう。最後にいつ微笑みかけられたかが思い出せない。

「なにそれ?バッカじゃねーの?」
 崩れかかったビルの一角で焚き火をする。思わず口をついて出た『人生』なんて言葉がオレが本当に望んでいるものとは全く違う笑いを巻き起こす。でもそれに腹を立てるコトも出来ずに「だよなぁ」なんて同じ笑いをしてしまう。
「酒たんねぇなぇ。狩るか?」
 罪悪感が薄れる程に慣れてしまったオヤジ狩り。裂けたジーパンにピアスにタトゥー。煙草に酒に葉っぱに、誰が自分の恋人なのかも分らない仲間内の女の子とのセックス。昨日自分が抱いていた相手が、仕切りもない廃屋の片隅でさっきまで一緒に酒を飲んでいた仲間に抱かれている。それに欲情し、昨日そいつが抱いていた女の子を抱く。ふいに鳴った携帯電話は無条件に切ったが、画面の中の日付けが目に飛び込んできて焼き付けられた。誕生日まであとちょうど三ヶ月しかない。なのに二十歳になった自分が全く想像出来ずにいた。
「なんか駄目だ」
 僕は抜いて女の子のパンティーでモノを綺麗に拭くとズボンを履いた。

 真夜中近くの駅前のマクドナルドでこのまえ狩ったサラリーマンを見かけた。自分がもし狩られでもしたらどうするだろう。はらわたが煮えくり返り、我慢出来ずにどんな手を使っても相手を殺すだろう。人殺しの出来上がりだ。しかしそれがどうだというのだ。あのサラリーマンは会社ではいつも威張りくさって、部下の誰かをリストラし人生を奪っているかもしれない。オレたちは、それをこんなふうに育てた親のせいにし、サラリーマンは会社のせいにする。たいした違いなどありはしない。
 なんとなく光につられてマクドナルドに入る。
「いらっしゃいませ」
 なに言ってんだ。こんな夜中に、好き好んでハンバーガー買いに来る奴いるかよ。無理して笑いかけなくていいんだぜ。時給八百五十円の為に。
 でも、何も言えなかった。「ありがとうございました」という微笑みに、「あっ、どうも」と小さく会釈しながらハンバーガーを一つ、受け取った。精一杯だった。
 店を出て駅まで歩く。ロータリーの真ん中の低い時計塔の針がもうすぐ夜空に向かって重なる。冬の空気のように透き通り何もない僕の体に、噛み付いたハンバーガーの強い味が染み渡った。


Entry8

家族の食卓

右居てん
文字数937


「結婚しよう」
初めて言われた言葉。私は嬉しさのあまり、すぐに頷いた。涙がこぼれた。

私は結婚に多くは望まなかった。なぜかと言われると、特に理由はないが、相手が自分のことを好きでいてくれるということは、とてつもなく素晴らしいことだと思うからだ。大袈裟かもしれないが、私はそう思う。

相手は子持ちだった。でも、私は、あまりそういうことは気にしない方だった。
子供は好きだし、何より、子供を育てることの喜びを感じられると思ったからだ。

夫が連れていた子供は男の子だった。名前は敬吾、四歳。
夫曰く、「敬吾はトマトが嫌い」らしい。
トマトが嫌いな人って、結構聞く。何でも、あのヌルヌルの種が嫌らしい。事実、夫もその一人である。
ちなみに私は好きだ。

そのせいか、私は、食卓にトマトを出したことがなかった。

 その夜、食卓にトマトを出してみようと思った。なぜ、いきなりそんなことを思ったのか、自分でもよく分からない。でも、神のお告げかのように、私はトマトを出さなければならないと思ったのだ。

「うわっ、トマト」
夫は、食卓に上がっているトマトをもの珍しそうに見つめ、そう言った。
「たまにはいいかと思って」
私は、トマトをかばうようにして、適当に理由を作った。

家族全員そろったところで、これから我が家の夕食会が始まる。
「いたーだきます」
まるで小学校の給食の時間のように、大の大人がそろって言う。これも、我が家ならではのことである。

断られることは分かっているが、一応聞いてみる。
「あなた、トマト食べる?」
「いやぁ、俺はいいよ」
夫が嫌そうな顔で言う。
やはりか・・・。やはり食べるのは私だけか・・・。
「敬吾、お前も食べないだろ?」
夫が言う。
敬吾が、夫の質問に対して、「うん」と言ったかどうか、私には分からなかった。
私は、その光景をもの珍しそうに見つめた。

 ―結婚してから半年たった今でも、私には、敬吾の姿がどうしても見えないので、夫の行動を無視しているしかなかった。敬吾の分も食べてあげないことには、夫がまた気を悪くするに違いない。
「敬吾、食欲がないんだろうか」と、嘆くに決まっている。
これも、夫のためだと思って、処分するしかなかった。
少々腹はきついが・・・。

 でも、どうしてもトマトだけは食べることができなかった。


詩部門

Entry1

心の欠片

香月朔夜
文字行数30


苦しかった
すべてがガラス越しに見えているようで
すべてが白黒に見えた
何をやっても心の上を滑っていった
テレビを見ても何も感じなくなっていった
マンガを読んでもイライラするだけで笑えない
私はただただ勉強した
自分の価値を作るために
それ以外に存在価値を見出せなかった
完璧でなければならなかった
間違ってはいけなかった
私がここで生きるために

逃げ出したい思いを抱きながら、いつも机に向かった
書き連ねていく単語の羅列
時に感情が溢れ出ることはあった
けれど人前で見せてはいけない
おごってもいけない
それは甘え
それは弱みになる
だからすべてを覆い隠した

だけど何かが違う
これは『私』ではない
ただの『ロボット』
でも今まで作り上げてきたものを壊すことができなくて、ひたすら勉強を続けた
少しでも踏み違えれば、そこからガラガラと音をたてて崩れてしまいそうで
ぴん、と張った緊張の糸の中、私は日々を繰り返す
心は厚い壁に囲まれて、その重さを増す
『笑う』ことがだんだん苦痛になっていた


Entry2



okanotakasiiii
http://www.geocities.co.jp/Milano-Aoyama/8806 ez-Jmode-Web
文字数234


けーたいでんわ
GA

KARA
放れる。

ぬのGAはだNOondoKARAはがれて
めのnakaNOongakuGA

noizuWOおいかけている
うちに
きょうNO

ばしょ の こーひーかっぷ は まわる よ

ふろば の あたらしいondo KARA
かわるがわる ongaku GA 
めのnaka NO しんぱく数 
KARAnoizu KARA 
かきまZETE。
こころの


KARA からまわり

     うごけない
KARA あたらしい
KARA うごけない
KARA あたらしい
。。




滴。


Entry3

サイクル

カノン
行数24


一月 あなたがこの世に誕生した
    文句のつけようがない素敵な季節

二月 同じタバコを吸っている
    虚しいことも了解済み

三月 肩を骨折したあたしに
    毎日牛乳買ってきたっけ

四月 二人で見た井の頭公園の桜に
    たぶん絶対意味がある

五月 十二時を過ぎて届いた
    おめでとう

六月 奪ってた 
    欲しいとか欲しくないとか言う前に

七月 日焼けの痕は消えたけど
    火傷したのは肌だけじゃないから

八月 狂おしく好きでも
    狂っちゃだめだと見上げたうろこ雲

九月 しょせんバイト
    されどバイト

十月 季節外れの冷やし中華を
    黙って食べてくれてありがとう

十一月 「就活」
     そんなとこまで訳すな

十二月 きっとまた
     ドトールで雪を見てる


Entry4

あなたへ

みや
http://purple.raproop.jp/bard/ 吟遊詩人の部屋
文字数86


思えば遠くへ来たもんだ
思わにゃ遠いかわからない

地図を広げて指差して
あなたのお家
遠いもんだと
その時やっとこ
想いにふける

だけど私の心から
あなたの事が離れたろうか


Entry5

地球の子守歌

りんね
行数18


夜空に浮かぶ雲にのって
その疲れた心 いやされるように
星達が聞かせてくれるおとぎ話
月の光の粒が頬をなでる

地球の子守歌を聴いてごらん
君の鼓動とつながってるから

海の底の貝のベットで
その疲れた体 よこたえて
波の音達の心地よいざわめき
水の泡のぬくもりに包まれる

クジラの子守歌を聴いてごらん
君の記憶とつながってるから

風の流れに身をまかせて
その疲れた魂 壊してみよう
空気の粒達が見てるこの世界を
抱きしめて生まれ変わるよ

光りの子守歌を聴いてごらん
君の笑顔とつながってるから




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