第29回1000字小説バトル Entry13
死んでいる、と感じました。はっきりと分かったのです。音はしなかったし、息もしていなかった。時間だけが過ぎていきました。淡々と。私達だけを残して。
何時からか、私達はこの白い箱の中に収められていました。在るのは自分達の身体だけで他には何も在りませんでした。
気が付いた時からこの箱の中に居ました。其の時からずっと、私達は何もせず、何も食べずにいました。それでも決してお腹は空きませんでしたし、暇を持て余す事もありませんでした。在ったのは自分達が何故此処に居るかという疑問だけでした。
初めて此処に来てからいくらか経った或る日、私は夢を見ました。音も色も無いモノクロな夢でした。昔の無声映画の様で、夢を観ているという感じはしませんでした。そう、まるで映画館のレイトショーを独りで観ている様な感じだったのです。
映画の舞台はいたって普通の世界でした。朝、太陽が昇り人々が起きだし何気ない日常を過ごし、夜になれば月が昇り、人々は寝床へ就く。スクリーンにはそういった、いたって何も無い日常が映し出されていました。
私は妙に懐かしく感じました。私にはこういった生活を送っていた記憶が在ったのです。『生活を送っていた』という記憶だけが。其の詳しい内容、つまり私が誰でどういう生活を送っていたかという記憶は何故か全く在りませんでした。
フイルムがカタカタと鳴り、スクリーンには先程とは少し違う風景が映し出され始めました。其れは、お葬式であるようでした。黒い式服を着込んだ人たちがぞろぞろと建物から出てきました。皆、泣いているようでした。
それらの人々の行列が建物から出てくるのが途切れると、今度は大きな長方形の箱を担いだ男達が出てきました。そして、其の男達の後に先程の行列が続きました。
其の様子を見ていた私は、私の目尻からぱたぱたと涙がつたい、流れ落ちている事に気が付きました。そして、ハッキリと確信したのです。
『私はこの後の風景を覚えている』と。
運ばれているのは間違いなく私でした。棺桶に収まった姿は眠っているようでした。両親も、クラスメイトも、そして、好きだった少女も私の顔を見て泣いていました。
目が覚めた時、私は泣いていました。其れは、此処に来てから初めての変化でした。
そして、気が付いたのです。横に横たわっているのは私である事を。其れはもうとっくに死んでいる事を。そして此処は、棺桶の中である事を。