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第29回1000字小説バトル Entry15


僕は時々夢を見る。僕らはとあるレースのスタート地点で、いつ鳴るかも分からないスタートの合図を待ちながら身構えていた。僕ら、とは僕の他に誰が居るのか、レースとは何のレースの事なのか、そんな事を聞かれても困る。何故ならそれは夢。やがてスタートのピストルが鳴った。僕らは一斉に駆け出す。元々スタートの良くない僕は、スタートしていきなり数人に抜かれた。しかし農家育ちの子供の底力を馬鹿にしては、いけない。レースも中盤に差し掛かり、周囲の人間が疲れを感じ始めた頃を見計らって、僕は加速する。一気に加速する。どうだ、見たか。自慢じゃないがうちは貧乏なのだ。塾にも行かせて貰えないし、体育の時間に腕時計を先生に預ける必用もないのだ。残り二十メートル。僕は遂に最後の一人を捕らえ、トップに立つ。ざまあ見ろと思ったその時、後方からトップを争う僕らをあざ笑うかのように抜き去って行ったのは、英国育ちのアルフレッド。
「ちぇっ。やっぱりマルガイかよ」
どこかで聞いたような言葉と同時に目が覚める。枕元にはもはや何の意味も持たない馬券が散らばっていた。実に無意味な夢だった。

僕は時々夢を見る。僕らはとある宇宙船の中で宇宙飛行の真っ最中。ふいに隊長は僕に真面目な顔で質問をする。
「どうしてお前が宇宙飛行士になれたのか?」と。
そんな事こっちが聞きたい位だ。大体そんな質問は宇宙に来る前にしてくれよ頼むからという感じだ。僕はその隊長の質問に無性に腹が立った。そこでこんな風に答えた。
「あなたが隊長になれた理由と多分一緒ですよ」
僕の答えに隊長は眉を顰めると、そうか、と言って去って行った。ふいに僕は、眉を顰めた隊長のその姿が、誰かによく似ているのに気付いた。誰だったろう… しかしそこは夢の中。上手く思い出せる筈も無い。
「これだよ。君」
やがて隊長は紙切れらしき物を手にして、僕の前に再び姿を現した。僕はその紙切れを受け取って、開いて見た。
………ぼくのゆめ
ぼくのしょうらいのゆめは、うちゅうひこうしになることです。いっしょうけんめいべんきょうして………
「………」
…人の恥ずかしい作文を勝手に持ち出しやがって…そうか、あの隊長、どっかで見た事があると思ったら、小学校の時の僕の担任じゃないか…

…僕は時々、夢を見る。随分沢山の夢を抱えて、今まで生きて来た。これからの自分に何が出来るのか、それは思い付かなかったが、取り敢えず髭を剃る事にした。

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