第29回1000字小説バトル Entry24
昇り始めた太陽光が網膜に寂しげな残像を残す。
けだるい朝の通勤風景。味気ない雰囲気に、けたたましい救急車のサイレンが耳を劈く。
「これが俺の日常か......」
缶コーヒーを飲みながら独り言した。
前に並ぶ白髪まじりの男は古新聞の上に座りこみ哲人の様相で、先程から番号を唱えている。 132、145、160......。
後方には、タバコを耳にはさんだ予備構生がBOSS電シールを貼りながら、時計をしきりに気にしている。その後方では、どす黒い顔のおばさんが千円札を伸ばしながら、金歯で意味なく笑いかける。
俺は毎朝9時21分のバスに乗り、400m手前の停留所で降りこの目的の場所までダッシュでやって来る。
慣れればどうってことないが、1番になったことがない。大抵は5〜6人の常連が立ちはだかっている。
と、その時、まわりの空気に緊張が走りはじめた。シャッターの開くカラカラカラという音が耳に入り、皆一斉に立ち上がる。
まるでパブロフの犬だ。
一瞬、埃が舞い上がり、ヒャリと風が首筋を撫でた。スモークガラスの中に、既にスターティングの体制をとって、悲愴な顔つきをした俺が息ずいている
心が、熱い。鳥肌が立つ。武者震いのなか頂点に昇りつめる鼓動が聴こえる。
この緊張感だけは何度経験しても決して飽きない。
別世界の様なポップミュージックの流れる大理石の上で、黒いチョッキの男達が一斉に頭を下げ大声で叫ぶ。
「いらっしゃいませ」 「いらっしゃいませ」
ドドドドド、ドタバタ、ドドド。ああ、だめだ。どけどけ邪魔だ。小銭入れと自転車のキーを置く予定の台は、ポケモンハンカチとヨンダパンダのキーホルダーがのっかっている。大工の源さんもモンスターハウスもだめか。よしっ、135番台だ。ああ、ベンツのキーを後ろからヤーさんが投げ入れた。
先程の予備校生が笑っている。金歯のおばさんはもう打ち始めた。
「よしよし、くくく、かかった!」冷静な微笑はまるでモナリザだ。
「オへー3回転目で碓変だー!」白髪の男は感極まって叫んだ。
ああああ、今日も俺の日常はぶっ飛んでいる。打つ前に既に負けている。
血走って通路に独り呆然と立ち尽くす俺に、店員達が一斉に頭を下げる。腰の折れ方が啄木鳥を連想させる。
「いらっしゃいませ!」
「とうとういらっしゃいました!」
涙声で怒鳴っている自分が情けない程、心地よい。
ああ、パチンコの熱くて切ない一日のスタートだ。